Amazon Prime Videoで毎話24:00頃から配信予定。

名君主・多宝丸
今回はほぼアニメオリジナルな回。
多宝丸は原作では、「弟」というポジション以外あんまり個性のないキャラクターだった。
彼の物語をがっつり掘り下げて、1人の武士の生き方を表現している。
多宝丸は醍醐景光と、縫の方の息子。百鬼丸の実の弟。
醍醐景光は長男の百鬼丸について、極力話さないようにしている。
縫の方は百鬼丸が全てを奪われた日から、首が取れた仏像を拝み続けている。
二人とも百鬼丸の話以外は、多宝丸に深い愛情を注いできた。
多宝丸も、両親を強く慕っている。だからこそ、両親が自分に隠し事をし、自分を戦に出させないことを、妙に感じている。
今までの回では、「多宝丸はちょっとかわいそうな弟」程度で描かれていた。
今回、彼が民衆に直接近づいたことで、武士としての覚悟と名君主っぷりを発揮した。
土地に現れた、蟹の化物(多宝丸の髪型とは関係ないと思う)。
民衆が化物に困っているのを知り、彼は自ら退治することを決める。
多宝丸の今回の行動は、部下、民衆、多くの人を惹きつけた。
・一番危険なところに、自らが先陣を切って飛び込んだ。
・しっかりとした作戦を立て、みなと話し合い協力しあった。
・民を統べるものの責務として行い、見返りを求めなかった。
・作戦を遂行する際、民衆を一致団結させて仕事を与え、指揮をとった。
・腹心の部下が死を覚悟しかけた時、犠牲になることを禁じた。
水路を作るために工事をするシーンでは、武士たちが民衆と一緒に鋤や鍬を持っている。
男も女も共に働いている。皆で汗して、夜は一緒に炊き出しと酒盛りで親交を深めている。
多宝丸と部下も、一緒に現場で頑張っている。
武士は民衆を守るべき、だが民衆と武士に差別はあってはならない、というのが多宝丸の考え方のようだ。一部の武士がお高くとまろうとした時も、彼は民衆の声の方を信じた。
戦国時代、領主が自らの土地を守るために、大掛かりな治水工事を行った記録がある。武田信玄や豊臣秀吉などだ。
もし醍醐の国を彼が継いだとしたら、土木事業を仕切り、水害対策を皆の力で乗り切れる可能性も感じられる。
多宝丸「私が生まれる前は違ったと聞く。水害によって稲は育たず、木の根をかんで日々の飢えを凌ぐほどだったと。それをここまで立て直したのは誰か。我が父、醍醐景光だ!」
多宝丸は、父の醍醐景光を非常に強く尊敬している子だ。醍醐の地が飢餓にあえいでいないのは、父の領主としての才だと信じている。
実際は、醍醐景光が百鬼丸を犠牲に、12の鬼神と契約をしたからだ。それを多宝丸は知らない。
醍醐景光「もし我が領土を守護し、我に天下を握らせるならば、それ以外に我が手に入るものをやろう。よいか、なんでもだ」(一話)
醍醐景光が取引したのは、天下をとるための地盤として領土を守護してもらうこと。
鬼神に頼った醍醐景光。土地は守られた。だが百鬼丸が鬼神を倒す度に領土は悪化し始めている。
多宝丸は父のように土地と人を守ろうとした。工事を成功させた。化物退治もした。真っ直ぐな形で、彼は民衆を統治しようとしている。
醍醐の国の特異性
どろろ「その国はとにかく土地が豊かなんだって。このご時世にみんな白い飯を腹いっぱい食ってるんだってよ!」
どろろが指しているのは、醍醐の国のことだ。
九話「無残帳の巻」で、幼い頃のどろろが、餓死して白骨化した村や、人の肉を喰らう落ち武者を見てきたのを思い出す。
今回巨大な蟹の化け物と戦い、多宝丸と百鬼丸が図らずも協力して討伐した。
だが、百鬼丸の身体は元に戻らなかった。
おそらく、醍醐の地にわざわざ迷惑をかけるあやかしは、「領土を守護」する取引をした12の鬼神には入らないのだろう。
それでも百鬼丸は、蟹や、道中では猿の化物(?)を倒している。
この世界は鬼神以外にも、様々な悪意を持った妖怪が住んでいる。
その悪意を見つけては百鬼丸は、手当たり次第に切っているのだろう。
以前の絡新婦の時のように、妖怪側の悪意の有無は見えても、身体を奪った目標かどうかは百鬼丸にはわからない。
努力と誠実さの詰まった、人間らしい生き方の話だった十話。あまりにも多宝丸がよくできた子すぎて、いい話なのに原作既読者はTwitterでうなり続けた。
部下に肩車してもらうシーンのように、まだまだ子供っぽさがにじむ部分もある。
おそらく15歳くらい。多くの武将が初陣に出るくらいの年齢だ。
百鬼丸と多宝丸の兄弟には、何の罪もない。
ただ視点を変えると、百鬼丸は国を守護する鬼神を倒すことで、醍醐の国に災厄をもたらす存在になる。
多宝丸がこれを知ってしまった時、どうなるか。
醍醐景光が鬼神に言った「それ以外に我が手に入るものをやろう」の意味が、ここから変わってきそうだ。
(たまごまご)