倉本聰・脚本「やすらぎの刻~道」(テレビ朝日系・月~金11時30分~)第7週。

じょじょに戦争が近づいて来て「道」パートの緊迫感が増していく中、今週は愉快な老人たちの「やすらぎの刻」パート。


大納言こと岩倉正臣(山本圭)の死が描かれるが、あまり悲劇的な展開にならないのは、老人ホームにおいて「死」はとても身近なものだからだろう。
「やすらぎの刻」殿方は立って御用を足すのが当たり前? 立ちション問題などさらに倉本聰の主張炸裂第7週
イラストと文/北村ヂン

自分の死に方くらい自分で決めたい


前作のメイン級キャラ・大納言が、今作ではほぼ見せ場もセリフもないまま危篤に。

キャラクターたちのセリフという体で、ちょいちょい倉本聰自身の主張がぶっ込まれてくることでお馴染みの「やすらぎ」シリーズだが、今回の案件は「尊厳死」だ。

以前もチョロッと「日本尊厳死協会」のパンフレットが紹介されていたが、今回は本格的に大納言の延命治療を続けるか、止めるかを迫られる。

「やすらぎ財団」の理事長であり、「やすらぎの郷」施設内の医師としても活動している名倉修平(名高達男)は、これまでも「タバコが好きなら吸え!」といった医師らしからぬ主張をしてきたが、尊厳死に対しても独自の考えを持っているようだ。

「医学の進歩は、人の命をただ機械的、物理的に生かすだけならかなりのところまで延命できます。しかし果たして本当にその事が人道的であるかとなると、私はどうしても首をかしげざるを得ないんです」

大納言は2カ月以上口から食事を摂っておらず、痛みは麻薬で抑えているものの、その量も限界を超えているという。
確かに、それでも延命すべきなのかどうかは考えさせられる。

「助かる見込みのない岩倉正臣さんを、これ以上苦しめるのはやめようと思います。最後まで友人であった皆さんにこの事を一言、お断りしておきたかったんです」

全責任は自分が取ると言いつつ、菊村栄(石坂浩二)たちを呼び出してこんな話をするのは、「近い将来訪れるその時のために、尊厳死について考えておいてね」というメッセージのようにも思える。

うわごとのように、かつての自分の名ゼリフ「いかにも」とつぶやく大納言を見守る老人たち。誰も涙を流さないのは、大納言の姿を自分事として考えているからだろう。

「オレさ、自分の死に方決めちゃった」

大納言の死後、マロこと真野六郎(ミッキー・カーチス)がこんなことを言い出す。
自分がいよいよダメだと悟ったら、意識も食欲もあるうちに盛大なパーティーを開いて、最後には麻薬を打って、苦しみもなくコトッと逝きたいという。

倉本聰と「父ちゃん」などのドラマでコンビを組んだドラマプロデューサー・石井ふく子が、数年前に安楽死宣言をした結果、批判を受けて取り下げているが、「自分の死に方くらい自分で決めたい」というのは老人たちのリアルな願いだろう。

「便所を拭くのは女の仕事」なんて書けないよ、普通!


尊厳死のような深刻な提言がぶっ込まれているかと思えば、死ぬほどくだらない主張も飛び出すのが「やすらぎの刻」の魅力。

例のごとく今週も、最近のドラマへの苦言や、タバコが嫌われる風潮への嫌味などなど、「倉本聰が言いたいだけだろ!」という主張がぶっ込まれていたが、中でも一番くだらなく、なおかつ「本気で思ってるんだろうな」と感じたのが立ちション問題。

前作で常盤貴子演じる伸子と婚約をしていたマロ。結局、わずか2カ月半で別れてしまったようだが、その原因は立ちション問題だったという。

ふたりで暮らす新居のトイレで、立ってションベンをするのを禁止されたのだ。
もちろん、立ってすることでトイレが汚れることを嫌がっているからだ。

「(自分で)拭きゃあいいじゃないか」

「そんなこと人に今まで言われたことないもん。便所を拭くのはさ、女の仕事だよ」

なんちゅうセリフ! コレは若い脚本家には絶対書けない! 書いたらネットで炎上必至だ。

「何だか、これまでの男としてのさ、人生を傷付けられたような、男の誇りをもうなくしちゃったような気がしたんだよ」

……ということで伸子と別れることとなったらしい。ザ・昭和老人の主張!

しかし、今作において菊村の新しい恋のお相手となりそうな新コンシェルジュ・有坂エリ(板谷由夏)は、こんなジジイのクソ主張にも寛容だ。

「普通、殿方は立って御用を足すのが当たり前じゃないんですか?」

いやいや。
公衆便所ならともかく、自宅のトイレではもはや座りションの方が多数派じゃないのかな。特に「夫が立ちションしても問題ナシ!」と考えている女性はメチャクチャ少数派だろう。

これはもう、ジジイ向けのファンタジーだ。

亡き妻の親友の娘相手にウキウキするな


そんなジジイたちにも優しいエリに、菊村はアッサリ心奪われてしまう。

話を聞くとエリの母親は、菊村の亡き妻・律子(吹雪)の同級生で大親友だったのだ。菊村自身も、幼い頃のエリに会っていた。
要は自分の娘でもおかしくない年齢ということ。

よくそんな娘さん相手にウキウキできるな思うが、前作では孫くらいの年齢のアザミ(清野菜名)に「やれるかも!?」な期待を抱いていたくらいなので、娘年齢くらいは全然オッケーなのだろう。

リアルな老人ホームでも老人同士の恋愛沙汰は珍しくないと聞くが、ここ「やすらぎの郷」ではジジイもババアも、ものすごい年下の異性と恋に落ちるパターンばかり。老人同士の恋愛は皆無だ。

この辺にも、老人向けファンタジー感というか、倉本聰の願望が込められていそうだ。
(イラストと文/北村ヂン)

【配信サイト】
Tver

『やすらぎの刻~道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日