7月18日に『科捜研の女』(テレビ朝日系)の第10話が放送された。今回はサブタイトルからして期待値十分! 題して「マリコ寿司を握る」である。
このド直球な文言のインパクトたるや……。まるで、『サザエさん』のタイトルみたいだ。
「科捜研の女」裏笑い好きなスタッフのふざけ過ぎ場面をピックアップ。マリコ、寿司職人になるってよ10話
イラスト/サイレントT

第10話あらすじ


寿司店の店主・若杉登(渡辺哲)が店内で絞殺されているのが見つかる。カウンターには、数貫、食べた形跡のある江戸前寿司の盛り合わせが残されていた。また、店内のゴミ箱から4人の男の名前の上に〇や×の印がつけられている紙が見つかった。
榊マリコ(沢口靖子)たち科捜研メンバーが被害者の胃の内容物を調べたところ、カウンターに残された寿司を食べたのは被害者本人であることが判明。しかし、若杉が普段作っているシャリと比較したところ、現場に残されていた寿司とは使用している酢の種類が違うことがわかる。さらに、〇×の印がつけられた紙は、若杉が気鋭の寿司職人たちの実力を評価した物だということも突き止めた。若杉はどの職人の店を出店すべきか悩むホテルの担当者に頼まれ、候補者4人を査定していたらしい。
被害者が最後に食べた寿司を握った人物がこのリストの中にいるかもしれない。そう考えたマリコたちは、4人の職人たちの握る寿司を鑑定してみることに。すると、現場に残された寿司とよく似たシャリやワサビを使う寿司職人・野田元(藤重政孝)が浮上。手がかりを求め、マリコは野田が卒業したという寿司職人養成学校の校長・入間千加子(清水美沙)や、その講師・鶴橋善也(井田國彦)らに話を聞く。

鶴橋が凶器に使われたネックストラップをなくしたと言っていたので調べてみると、若杉は鶴橋の兄弟子で、さらに若杉の指導による暴力が原因で鶴橋は寿司職人の道を諦めていたことがわかった。しかし、犯行当日のアリバイが鶴橋にはあり、彼は無実だった。
現場に残されていたこはだを調べると、このシャリをしめる酢がきび酢であることが判明。マリコは千加子の父が寿司店を開き、現在は弟子が店を継いでいる奄美大島に飛んだ。すると、奄美大島の店と現場に残っていた寿司のきび酢の成分が一致。つまり、現場にあった寿司は千加子が握ったものと証明された。さらに、千加子が持っていたネックストラップには鶴橋の汗が付着していたこともわかった。千加子の嘘を暴くため、防犯カメラを頼りに千加子が捨てたネックストラップを発見し、それを千加子に突きつけるマリコ。千加子はネックストラップを若杉の店で落とし、それに気付いて店に戻った際に若杉の遺体を見てしまったこと、さらに自分が疑われることを恐れネックストラップを公園に捨てたことを供述した。
千加子はストラップだけ捨てて、IDケースは事件時の物をそのまま使っているという。ケースを鑑定した結果、からしの成分が見つかり、からしを使う寿司職人の友部夏雄(濱口秀二)が犯人だと判明した。友部は若杉から◯の評価を受けていたが、その評価は無効と言われたことに逆上し、若杉を殺害していたのだ。


寿司の解体場面から伝わる制作陣の“笑わせたい欲”


前回のレビューで「『科捜研の女』は面白ドラマの要素を孕んでいる」と書いたが、そのテイストは今回も同様だ。というか、前回にも増して絶好調だった。全てをさらうとキリがないので、特に看過できなかったふざけ過ぎのくだりを挙げていきたい。

●寿司解体ショー
さすが、科捜研。「見た目は変えられても、シャリは急には変えられない」という宇佐見裕也(風間トオル)の言葉を受け、即座に各職人の寿司を揃えてみせる。そして始まるは、寿司の解剖である。寿司と鑑定用具というシュールな絵面。緊迫感のあるBGMをバックに、大真面目に寿司をメスでバラしたり、ピンセットで摘んだり……。私たちは寿司の解体ショーを見せられているかのよう。割と高いお寿司もあるのに、こんな豪快な使い道をする科捜研は贅沢至極だ。「酢飯の成分分析」というテロップから、裏笑いを好む好事家のニーズを制作陣が必要以上に意識していることがわかる。

●マリコ、寿司職人になるってよ
寿司学校へ聞き取りに行ったマリコが、待ち時間に勝手に体験入学をしてしまった。
突如として、「マリコ寿司職人になるってよ」の世界観に突入。
寿司を握るだけで面白いから、マリコはずるい。やはり、彼女は寿司をまともに握れなかった。仕事以外は何もできないぶきっちょマリコ。おててにご飯がべちゃべちゃにくっつき、寿司というより魚のおにぎりみたい。食欲がそそられない、文字通りの飯テロが勃発。なのに、新聞のラテ欄には「マリコでも作れる極上にぎりの謎」と書いてあった。どこがだよ! いつ作れたのかと問い詰めたい。

そんな生徒が、無駄に科学の知識を持っているからややこしい。
「お米がお酢でコーティングされるから握ってもくっつき過ぎず、口の中でほどけていく食感が生まれるのね」
「ワサビのアリルイソチオシアネート、生姜のジンゲロール。いずれの成分にも抗菌作用があると言われています」
体験入学している立場からうんちくを垂れ、講師をドン引きさせるマリコ。イニシアチブを取り、科学の授業にしてしまった。
同時に、食材の科学的知識は料理のうまさには繋がらないということをマリコは証明した。

●メチャクチャなことを言い出すマリコ
事件解決後、土門薫(内藤剛志)がマリコを寿司デートに誘った。いい終わり方の後に、土門&マリコのデート。完璧である。ここで、寿司職人の事件に携わっていたはずのマリコがとんでもないことを口にした。
「お寿司ってご飯の上にお刺し身が乗っているだけの食べ物だと思ってた」
今回のエピソードを全て台無しにするようなことを言い出す主役。お寿司が好きな人に喧嘩を吹っ掛けるような解釈だ。でも、好意的に捉えれば、この一件でお寿司への概念が変わって何よりである。

「お前は食に興味がないからな」(土門)
食に興味のないマリコも考えが改まった。だからこその寿司デートへの誘いだったか? マリコ、お寿司に目覚める。でも、目覚め過ぎて「私が作る」とか言い出さなくて良かった。

もちろん、話の本筋は今回も至ってシリアスだ。
女という理由だけで寿司職人の道を諦めざるを得なかった千加子。そんな彼女だから、老若男女、国籍を問わず、職人を目指す者に道を提示する学校を設立した。今までの固定概念を覆す、新しくて有意義な価値観だ。過去の常識が日に日に刷新される科学との親和性は高い。
未知の領域への探究心という意味で、科捜研とお寿司は共通している。
(寺西ジャジューカ)

木曜ミステリー『科捜研の女』
ゼネラルプロデューサー:関拓也(テレビ朝日)
プロデューサー:藤崎絵三(テレビ朝日)、中尾亜由子(東映)、谷中寿成(東映)
監督:森本浩史、田崎竜太 ほか
脚本:戸田山雅司、櫻井武晴 ほか
制作:テレビ朝日、東映
主題歌:今井美樹「Blue Rain」(ユニバーサル ミュージック/Virgin Music)
※各話、放送後にテレ朝動画にて配信中
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