倉本聰・脚本「やすらぎの刻〜道」(テレビ朝日系・月〜金11時30分〜)第17週。

前週から引き続き、徴兵を拒否して失踪した鉄兵兄さん(平山浩行)の捜索が続いている。

「やすらぎの刻~道」目の前で戦死者を見て、しのちゃんようやく、軍国少女を卒業第17週
イラストと文/北村ヂン

意外と時代に流されている山おじ


今週、最大のインパクトを残したのが、唐突に登場した新キャラ・山おじ(麿赤兒)だ。

鉄兵の狩りの師匠にあたる人で、山を知り尽くしたエキスパートらしいのだが、特筆すべきはその強烈すぎるビジュアル! 麿赤兒がマタギの格好をしているだけで笑えてしまう。さらに名前が「山おじ」って……。

そんな、完全に山から出てきた仙人状態の山おじ。ものすごく達観したことを言ってくれるのかと思いきや、こんな格好をしているくせに、思いっきり世間ズレしていてガッカリした。

鉄兵の捜索隊に加わることになった山おじに対して、「もし(鉄兵が)見つかっても、そっとしてあげて……」と頼む三平(風間晋之介)に対し、

「わしも日本人じゃ! そういうわけにはいかん。お国に逆らう事は、わしにはできん!」
「わしは古い人間だ。あいつが国に逆らう姿を見過ごすわけにはいかん!」

山おじなんて呼ばれているくせに、普通のこと言うなあ。「わしにとってアイツは息子以上だ」とまで言っていたのに……。

「イヤな時代だが仕方がない。わしらから逃げきれても時代からは逃げきれん」

あんな世捨て人みたいな格好している人ですら逃れられない「時代」。世の中の空気が変な方向に向かってしまう恐ろしさも感じさせる言葉ではある。

しかし、「山を知り尽くした」という触れ込みで登場したわりに、結局、鉄兵を発見できていないし、かといって鉄兵を守る感じでもないし……何しに出てきたんだ感の強いキャラクターだった。


金属供出を、郷愁とつなげて描く倉本聰のすごさ


「国家総動員法」にともなう金属供出の一環として、寺のつり鐘が持って行かれた事件も印象的だった。

戦時中、家庭の鍋や釜、寺の仏像や鐘に至るまで、ありとあらゆる金属製品が回収されて、武器の材料になったというのは、戦争物の作品にしばしば登場するエピソードだ。渋谷のハチ公像まで持って行かれて、現在建っているのは2代目だというのも有名な話。

ただ、そのほとんどは「こんな物まで回収しないと戦えないなんて、日本ヤベエな」という文脈で登場している。

この「金属供出」を、郷愁とつなげて描いたのが倉本聰のすごさだ。

実際、馴染みの鐘がなくなってしまったとしたら「日本ヤバイ」と思うよりも、単純にさびしく感じる人の方が多かったんじゃないだろうか。

かつては毎日夕方の5時になると鳴っていた。最近では大晦日の夜だけにしか鳴らなくなった寺の鐘。日常的なふるさとの光景にとけこんでいた鐘がなくなってしまう。

「日本は……小野ヶ沢はどうなってしまうのか。あの懐かしい除夜の鐘が聞きたい。お前らと一緒にあの音を聞きたい」

時代の流れでどんどん変わっていくふるさと。最後に残るのは、たびたび描かれてきた例の「道」ということになるのだろうか。


しのちゃん、軍国少女卒業か


軍国少女をこじらせた挙げ句、失踪してしまったしのちゃん(清野菜名)の行方も判明した。なんと横須賀の海軍病院で働いていたのだ。

愛国心に突き動かされたとはいえ、あてもなく山梨から横須賀まで出ていって仕事をゲットするとは、行動力がスゴイ。

戦時中を舞台としつつも、直接的には戦争の悲惨さを描いてこなかった「道」パートだが、海軍病院ではストレートに戦傷者たちの凄惨な姿を映し出していた。

「戦争協力するのが当たり前」という考えに取り憑かれていたしのちゃんが考えを改めるにには、これくらいのショック療法が必要だったということだろう。

横須賀まで会いに来た三平に「死なないで!」と抱きついたしのちゃん。今までだったら「お国のために死ぬのが名誉」くらいのことを言っていたはずだ。

戦争のせいでどんどん人が死んでいく現場で働き、戦争の悲惨さを思い知ったところに、間もなく戦場に送り出される三平が会いに来た。やっと心を通じ合い、言えた言葉だ。

……でも、このふたり、結ばれないんだよな。

実験のためにヒドイ嘘情報を流す老人たちがヤバイ


どんどん暗く重い展開になる「道」パートが続いていたので、久々の「やすらぎの刻」パートはものすごくやすらぐ!

……かと思いきや、老人たちのえげつない噂話が繰り広げられていて、こちらはこちらでやすらげない。

「噂話がどのくらいのスピードで広がるのか」という実験は確かに面白そうなのだが、そのために「やすらぎの郷」理事長の名倉みどり(草刈民代)は、「やすらぎの郷」創設者の娘ではなく、本当は妾だったという嘘情報を広めるマロ(ミッキー・カーチス)はさすがにヒドイ!

菊村栄(石坂浩二)がたしなめるのかと思っていたら、実験結果を楽しみにしてワクワクしちゃってるのだ。「まあ飲めよ」じゃないよ、菊村センセイ!

ノリは正反対ながら、どちらもすごい展開になってきている「道」と「やすらぎの刻」。
今週は菊村センセイの前立腺がんが発覚?
「やすらぎの刻~道」目の前で戦死者を見て、しのちゃんようやく、軍国少女を卒業第17週
イラストと文/北村ヂン


作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日

【配信サイト】
Tver

『やすらぎの刻~道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日
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