お笑いのイジりは「悪」なのか。「ロンハー」我が家の解散危機の翌日「太田松之丞」が示した境地をご報告
「井上マサキのテレビっ子からご報告があります」第11回。ライターでテレビっ子の井上マサキでございます。この連載は日々テレビを見ていて気になった細かいこと、今のアレってアレなんじゃないのと思ったことを、週報代わりにご報告できればと思っております。どうぞよろしくお願いします。

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「真剣に考えたんです。解散を」とお笑いトリオ「我が家」の坪倉は打ち明ける。
そしてその火種がまだくすぶっていることも。9月10日放送の『ロンドンハーツ』(テレ朝)でのことだ。

田村淳「悪じゃないんだよ」


この回の企画は、ロンブー・田村淳らが芸人の自宅に訪問し、お酒を飲みながら本音トークを繰り広げる「深夜の家庭訪問」。坪倉の自宅を訪れたのは、田村淳、アンガールズ田中、FUJIWARA藤本というメンバー。

坪倉はドラマ『あなたの番です』出演など俳優としても活躍中だが、お笑いトリオ「我が家」としてはほとんどテレビに出ていない。かつて我が家は『爆笑レッドシアター』など多くのレギュラー番組を抱えていたが、トリオの仕事はすっかり減ってしまった。

話を聞いてみると、その原因はツッコミ役である杉山の酒グセの悪さにあるという。
過去に『ロンハー』で説教され、禁酒を誓ったこともある杉山。しかし酒を断つことはなく、酒席で後輩を説教しては泣かせ、注意をされれば逆ギレ。ついには坪倉と大ゲンカしてしまい、単独ライブもできなくなってしまった。ここで冒頭の「解散を考えた」につながる。

ただ、坪倉本人は解散に迷いもある。我が家のもう1人のメンバー、谷田部(妻子持ち)のこともあるし、我が家のネタは杉山をイジって成立するものが多く「アイツ(杉山)がいないとダメ」という。

お笑いのイジりは「悪」なのか。「ロンハー」我が家の解散危機の翌日「太田松之丞」が示した境地をご報告
DVD『爆笑オンエアバトル 我が家』(アニプレックス)。左から坪倉由幸、杉山裕之、谷田部俊

企画後半は「3人で話したほうがいい」と、坪倉に内緒で控えていた杉山と谷田部が呼び込まれた。「我が家とお酒だったらどっちを取るの?」という問いには「我が家」と即答する杉山だが、禁酒についてはなかなか首を縦に振らない。「逆に坪倉に不満はないのか?」と聞かれた杉山は「僕を落とすボケや、悪く言うボケをやるけど、何にもフォローをしてくれない」とこぼす。

杉山「『ただの悪』になるんですよ。ちゃんと突っ込んでも、ウケてないときもあるんですよ。そうなると『ただの悪』じゃないですか」

イジってくれるのは別にいい。
でもそれで笑いが起きないなら、それはただの悪意ではないか。悪意から俺をイジってるんじゃないのか。

すると、黙って聞いてた田村淳が「悪じゃないんだよ」口を開く。「亮にいろいろ仕掛けたこともあるけど、俺のスタートは悪じゃ絶対ない」と。

淳「このバラエティの現場において何か仕掛けるときは、うまくいけ!とか、面白くなれ!っていう、思いを込めたイジりしかないよ。で、うまくいかなかったら悪になるんじゃなくて、それを反省して次に活かすしかない。
それは悪にはなんない。……で、俺こんなこと言うためにロンドンハーツやってるわけじゃない(笑)」
フジモン「亮、聞いてるか?」

杉山との話し合いは結局「お酒は3杯まで」というスッキリしないものになった。だが、この「悪じゃない」のくだりは、解散を考えながらも我が家を続けたい、坪倉の思いをすくい上げたものに感じた。

坪倉が杉山をネタでイジるのは、我が家として笑いを成立させるためだ。面白くなれ!という思いを込め、安心してイジれるのは、相手を信じているからだ。だからこそ「アイツがいないとダメ」なのだ。


『ロンドンハーツ』放送の次の日、その「信頼」を毒舌芸人2人が交わす場面を見かけた。9月11日放送『太田松之丞〜悩みに答えない毒舌相談室〜』(テレ朝)、太田光×神田松之丞である。

神田松之丞を黙らせる太田光の一撃


この日の『太田松之丞』に寄せられた相談は「口が軽い人とどう接するべき?」というもの。相変わらず直球で相談に答えず、話題は「言っていいライン」の話に。

事務所に所属していない神田松之丞は、メディアに出始めたとき「業界のルール」がよくわかっていなかったという。太田光にラジオを通じて注意され、すごく気をつけるようになった。


松之丞「太田さんはよく『お前は芸能界の地図を持ってない』って言うんですよ。でも俺、太田さんの持ってる地図もおかしいと思って(笑)」
太田「“新しい地図”だから(笑)」

言っちゃいけない話に関わらず、最近はなんでもすぐ炎上しちゃう。Twitterをやってないから自分が炎上してもわからない、という太田に対し、めちゃめちゃTwitterをチェックしている松之丞。「だいたい社会的にツラいって言ってる人は爆笑問題好きですね」「弱者代表みたいな(笑)」「太田さん優しいから。心根がね」とガンガン言う。

じゃぁ松之丞のファンはどんな人が多いのか。松之丞は「リア充の人しか好きじゃないかもしれない」と爆笑問題の対岸に立とうとする。「こう言ってはなんだけど僕も超リア充なんで」「講談うまくいって、好きなカミさんと子どもがいて」と、まくし立てていると……。

太田「でもカミさん出て行ったじゃない」
松之丞「……いや太田さんそりゃダメだよ……」

一転して弱気になる松之丞だったが、太田と目を合わせて笑い合う。「もう帰ってきてます」「子どもを連れてね、ホテルで何泊かしてましたけど」「俺もすんごいメールして。帰ってきてよ〜!って」と弁明する松之丞の横で、爆笑する太田。

神田松之丞がまくし立てていたターンを、太田光は「カミさん出て行ったじゃない」の一言で仕留めた。もちろん、これはただの悪意ではなくて、神田松之丞なら受け身を取ってくれると信頼しての一言だろう。事実、松之丞は弱った体を見せながら、しっかり笑いにつなげてみせた。

相手が「取ってくれる」と信じてボールを放つこと。そのボールを期待どおりに受け取ること。2人の呼吸さえあえば、どんな剛速球でもキャッチボールは成立する。

うっかり暴投しても、取りこぼしても、それは悪じゃない。またボールを投げればいいだけなのだ。

取り急ぎご報告したいことは以上です。

『ロンドンハーツ』(Tver見逃し配信:9月17日まで)
『太田松之丞』(Tver見逃し配信:9月25日まで)
(井上マサキ タイトルデザイン/まつもとりえこ)