本能をおさえ、友達を、愛する人を、食べずにいることはできるのか。
アニメ『BEASTARS』(→公式サイト)。
10月9日(水)24:55より、フジテレビ「+Ultra]ほかで、放映開始。
NETFLIXで毎週木曜日配信。
信頼のアニメ化「BEASTARS」原作読者ならワクワクするはず
『BEASTARS』コミックス1巻 原作:板垣巴留

1話目から評判は上々。
なんせ動物たちがよく動く。表情がわかりづらい分、感情は繊細に身体の動きで表現している。セルアニメライクの3Dアニメーションを作っているのは、『宝石の国』で無機質な宝石たちを描いて高い評価を得ていたorange。
第1話で「今回のアニメ化は信頼できる!」と感じさせてくれたポイントを幾つかピックアップ。

その1・声の絶妙なバランス


肉食動物と草食動物が共存する、文明社会が舞台。肉食動物は食肉を禁じられ、草食動物は命を法で守られている。みんなが工夫された食生活で平和に暮らしているのだが、まれに肉食動物による草食動物の「食殺」事件が起きてしまうらしい。
草食動物たちはいつ襲いかかってくるかわからない肉食動物と共に、怯えて暮らしている。肉食動物たちは本能を抑えながら、身に降りかかりかねない冤罪に怯えて暮らしている。

主軸になっているのは、おとなしいけれども見た目の怖さで誤解されがちなハイイロオオカミのレゴシ、か弱そうな見た目ゆえに取って食われる側だと諦念しているウサギのハル、自らがトップに立つため凛として生きているアカシカのルイ

この3匹の演技がすこぶるよい。

レゴシは自分を抑え、オオカミなんてと謗られるのを受け入れ、静かに暮らしている青年。彼の猫背は哀愁が漂う。
レゴシの声は、アニメ的なデフォルメ声ではない。朴訥として、言葉にあまり抑揚がなく、もっさりしている。かといって完全に脱力しているわけでもなく、大事な言葉ははっきりと発音している。
ルイに演劇部員カイが殴りかかってきた時、レゴシがさっと入って拳を受け止めるシーンがある。「役者の安全第一、それが裏方の任務なんだ」という彼の発言は、静かながらも凄みがあった。

このフラットな声を演じているのは『ゴールデンカムイ』で「不死身の杉元」こと杉元佐一を演じていた小林親弘。鬼神のような戦いで力強く声を張っていたこちらと比べると、演技が全くの別物なので、是非聴き比べてほしい。
『BEASTARS』のレゴシは、1話目はおとなしい。けれども彼には肉食動物の血が間違いなく宿っている。
その凶暴な本能を理性で押さえつけているがゆえの結果が、ブレーキを踏みまくった平坦な声の演技になっている。眠っている強さを感じさせるのにもってこいの声質だ。

ハルは見た目の可憐さに反して、誰よりも気が強い、跳ねっ返り感に満ちた声だ。声優は千本木彩花。『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』でトリッシュ・ウナ役をやっていただけのことはある。
ルイ役は小野友樹。ピンと張り詰めたような凛々しさの中に、若々しい背伸び感のある声だ。元々ケレン味が強い発言の多い彼。こちらの演技はアニメ的な誇張がかなり強めなので、レゴシとの対比がものすごく目立つ。

それぞれ、何かしら裏表を抱えているのを感じさせる演技。特にレゴシとルイはどこかでひっくり返りそうな空気がひしひしと出ている。この後の展開を知る原作読者なら、ワクワクするはず。


その2・強くなったカーストのギスギス感


演劇部員の草食動物が肉食動物に食殺されたことで、双方の関係がギスギスしはじめるところからスタート。
原作とほぼ同じ流れだが、アニメではきしんだ関係がさらに強調されている。

特に草食動物同士のスクールカースト描写は、かなりきつめに調節されている。
ウサギのハルはかわいらしい外見ゆえに、男子生徒に声をかけられがちらしい。そこで処世術として抵抗せず次々関係を持ってしまうがゆえに、学校の女子からは総スカンを食らっている。男子は嫌ってはいないが「かかわると面倒くさい」という表現が追加され、彼女の肩身の狭さが強調された。

原作ではハーレクイン種ウサギのミズチが階段で、ハルにクルミの殻を投げつけるいじめを行っていた。
アニメでは大切に育てていた花の上に教科書を落としてめちゃくちゃにし、その後部屋の窓から彼女のマットレスを投げ捨てている。その上別のシーンでもう一度突っかかってきて、バケツの水をぶっかける(このシーン自体は原作にもある)という二回行動。陰湿さ倍増しだ。

彼女には残忍な、草食動物同士のいじめの逆風が吹いている。しかし、声の演技はぶれることなくたくましいため、痛々しさはそこまでない。むしろ彼女のタフさが、より強調される映像になっている。
今後レゴシに対してのハルの精神をがっちり描いてくれることに期待できる演出だ。

3・社会風刺と少年漫画性


『BEASTARS』の肉食・草食の関係、種族間のカースト描写は、人間社会の風刺性の色が強い。動物たちの性欲と食欲の本能、弱いものと強いものの関係は、人間社会に通じる部分がとても多い。食殺事件のシーンは、食べるという行為こそ違えど、殺人事件の光景そのままに表現されている。

同時に、この作品は少年漫画としての要素がとても大きい。あくまでもレゴシ・ルイ・ハルの3匹が信念と恋の中で成長する物語だ。そのために歪んだ社会と自己に向き合っていくのが、物語の大軸になっている。
原作の持っている、社会風刺、ジュブナイル、動物が文明を持つIF的要素が、バランスよく配合されているので、今回のアニメでは説教臭さがほとんどない。うんちくも調べる必要がほぼない(動物の生態を調べれば面白さは増すと思う)。原作の緩急テンポのよい構成がアニメでもしっかり受け継がれているので、前知識ゼロで見られる。
OPの『Wild Side』はジャズバンド形式の疾走感あふれる曲。レゴシの苦悩と戦いにあわせた力強い曲になっている。

映像の色味はシックで落ち着きがあるが、ちょっとひねった映像を加えることで、哀しみよりもワクワクが強い演出になっている。
原作の持つ多様な視点を、逃さないよう丁寧に拾って再構築しているからこそ、このアニメは信頼したい。

(たまごまご)
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