日曜劇場「グランメゾン東京」が10月20日にスタート。日本シリーズの影響で放送開始が50分遅れたにも関わらず、視聴率は12.4%となかなかの滑り出しだ。


木村拓哉主演で、周りを大物たちが固める。しっかりと予算がかけられた王道展開のこのドラマは、「普通に面白い」が特別似合う。
木村拓哉「グランメゾン東京」は料理版「ワンピース」の予感。普通に面白い1話
イラスト/たけだあや

「ONE PIECE」のような


首脳会談でアレルギー食材のナッツが混入した事件により、料理の世界から姿を消してしまった天才シェフ・尾花夏樹(木村拓哉)が、夢を諦められない女性シェフ・早見倫子(鈴木京香)と出会う。ナッツ混入事件で信頼を失ったかつての仲間たちを集め、東京で再び三ツ星を目指す。

第1話で夏樹は、「エスコフィユ」で一緒に働いていたメンバーを引く抜くために奔走する。しかし、元料理人でギャルソンの道へと進んだ京野陸太郎(沢村一樹)、人気WEB料理研究家の相沢瓶人(及川光博)、見習いとして働いていたが現在は一流ホテルの最年少料理長に上り詰めた平古祥平(玉森裕太)は、それぞれの事情とナッツ混入事件での夏樹の対応に不満を持っていた。

仲間を1人ずつ集めて成長していくストーリーは、まるで木村拓哉が大好きな漫画「ONE PIECE」のよう。
実はメインの料理へのプライドよりも仲間が大事……?みたいな展開も想像されるが、そこも海賊王より本当は仲間が大事ということをほのめかしつづける「ONE PIECE」さながらと言った感じだ。ちなみに脚本の黒岩勉は、映画版「ONE PIECE FILM GOLD」も手掛けている。

“予測不能な展開”という狙いではなさそう。

しかし、“予測不能な展開”の方が面白いとは限らない。相沢の動画はどう店に絡んでくるのか? 平古の才能が開花する瞬間は? 求人サイトをやってきた居酒屋バイト六ヶ月の芹田(寛一郎)はどこで役に立つ? 江藤オーナー(手塚とおる)、見るからに嫌がらせしてきそうだわ〜! 王道展開には、想像させる面白みがある。

想像させるということは、視聴者に基準を作らせるということ。
ハードルを設けるということだ。

「テレビつけたらやってたからついつい見てしまった」


主演の木村拓哉に加えて、鈴木京香、沢村一樹、及川光博、尾上菊之助……。とにかくこのドラマは予算がすごい。パリでのシーンは多いし、必要なのかどうかはわからないが、本物の三ツ星レストランでも撮影している。

料理監修は2名が務める。夏樹たちの「グランメゾン東京」が12年連続で三ツ星獲得の「カンテサンス」岸田周三シェフで、ライバル店の「gaku」が「世界のベストレストラン50」でナンバーワンに4度も輝いた「INUA(イヌア)」のトーマス・フレベル氏。なんと、店の特色によって監修シェフを使い分けているのだ。
そもそも、三ツ星12年連続が料理監修のドラマってだけでインパクトがすごいのに、これは豪華すぎる。

バカみたいなレベルの予算から生まれるものは、画面の圧力だ。木村拓哉だけでなく、出てくる人出てくる人に画面を保たせる力があり、いちいち風景がキレイだから飽きない。その上で見たこともないような料理が次々に登場するのだから、画面から放たれる圧力が普通ではないのだ。「テレビつけたらやってたからついつい見てしまった」となりやすいやつだ。

普通に」面白い


天才尾花夏樹と、凡才シェフという対立も少年ジャンプっぽい。


夏樹の才能を間近に見て料理人を諦めた京野は、ギャルソンの道を選んだ。夏樹を恨みつつ、それでも夏樹の目の前で才能を認めるような発言をしたのは、料理愛からのプライド。その料理愛と繊細さで、夏樹が認めるギャルソンとして成長している。

倫子も、夏樹の才能で心が折れた1人。30年間努力して作り上げた「フォワグラのポワレ」を、夏樹が30秒で作ったソースに負けてしまう。しかし、食べるとその料理の素材と調理工程がわかる絶対味覚の持ち主で、自分では自覚していなかった料理人としての強みを夏樹に見い出される。
また、「グランメゾン東京」がオープンしたら、夏樹の料理に意見を言える数少ない人物にもなりそうな予感。

液体窒素料理などの最先端技術を駆使する「gaku」の丹後学(尾上菊之助)も本物の才能の差に苦しみそうだし、一流ホテル最年少料理長になった平子も夏樹の影響で自分と向き合う展開が期待できそうだ。

しかし、才能をテーマにする上で、凡人の美徳だけが描かれるばかりではない。残酷な現実や、負けた理由もしっかりと描写されている。「当たり前のようにタコが出来て……」。30年の努力をもってしても、夏樹に届かないことを倫子は嘆いた。


厨房や他のレストランで食事した時間を努力として数えていた倫子だったが、、夏樹は違った。目についた野草や花をかじり、スマホのボイスレコーダーに感想を吹き込む。天才は、凡人がしない質の努力を取るというわかりやすい例だ。いや、努力とさえも思っていないのかもしれない。「いつもそんなことを?」と驚く倫子のシーンはあっさりとしたものだったが、本人にとっては実力の壁を感じざる負えないショッキングな瞬間だったはずだ。

10数年前から使われるようになり、現在は意味を失いかけている「普通に〜」という言葉の表現がある。本来「普通に」には、「特別なことはないけど」もしくは、「理屈抜きで」のような意味が込められていた。「グランメゾン東京」は、「普通に面白い」が特別似合うドラマになりそうだ。
(沢野奈津夫)

■『グランメゾン東京』
出演:木村拓哉、鈴木京香、玉森裕太 (Kis-My-Ft2)、尾上菊之助、冨永愛、中村アン、手塚とおる、及川光博、沢村一樹
脚本:黒岩勉
プロデュース:伊與田英徳、東仲恵吾
演出:塚原あゆ子、山室大輔、青山貴洋。
料理監修:岸田周三(カンテサンス)、トーマス・フレベル(INUA)、服部栄養専門学校
音楽:木村秀彬
主題歌:山下達郎「RECIPE(レシピ)」