天才になれなかった全ての人へ。
ドラマイズム『左ききのエレン』(TBS毎週火曜日深夜1時28分 MBS毎週日曜日深夜0時50分)がスタートした。

第一話「オレは、オレの事ばっかりだ」。

マンガの絵に似た人物を配置するのではなく


原作はマンガ作品。WEBのcakesで2016年に連載スタートした。作者、かっぴー。
決して上手い絵ではない。ヘタだという人もいるだろう。というかパッと見、学生がノートに鉛筆で描き殴ったマンガに見える。
が、それがすごいパワーを持って迫ってくる。惹き込まれる。熱い。
当然、話題沸騰。翌年、nifuniによるリメイク版が『少年ジャンプ+』で発表される。
そして、ついに、実写ドラマ化だ。

池田エライザの眼力「左ききのエレン」魂の実写化、何かに挑戦しつづけている人たち必見1話
原作1巻

しかも、配役がバッチリ。マンガの絵に似た人物を配置するのではなく、魂を実写化した。

左ききのエレンこと山岸エレンは、池田エライザ。
『ニコラ』『CanCan』のモデル、『貞子』『賭ケグルイ』『一礼して、キス』など数々の映画、ドラマ、CMに出演。左きき。
とにかくこの人の眼力の鋭さ。

画面からこちらを睨みつけて、中指立てて「SUCK!」と言う最初のシーンのカッコよさで、ドラマの成功は約束された。
山岸エレンは、絵の天才だ。
第1話では、美術館の壁に黒いスプレーで絵を描き殴り、警官に見つかって逃亡。
主人公の朝倉光一が、その絵を観て、あまりの上手さに「こんなん見たら笑うだろ」と呆然とする。
異様な迫力の絵は、グラフィックアーティスト・曄田依子の作品。
第1話、エレンの数少ないセリフのすべてが、表現しようとしている者の胸をうつ名言だった。

「夢見てるやつが10万人いたとして残るやつは10人がいい所だ “万が一”これが現実なんだよ」
「光一、本気出せよ 本気出してそれから諦めろよ」
「な、光一、見してくれよ 凡才のおまえが平凡な人生にどうあらがうか」
天才であるがゆえに自分をコントロールできないエレンと、凡才だが夢を諦めない朝倉光一が、ドラマの主軸だ。

主人公の朝倉光一を演じるのは、神尾楓珠。
広告代理店に就職。
3億の仕事の一部をデザイナーとして任されるが、プレゼン直前の最終修正中に寝落ち。
ADの神谷さんに「半分まきと」ってもらって、どうにかプレゼンに勝つ。
だが、経験が足りないということで外されてしまうのだ。

「天才になれなかった全ての人へ」という惹句の代表である光一は、才能はないが、何者かになろうとする。あがく。あがきつづける。
「いまは寝不足でボロボロで下っ端だけど いつか何かになってやる キラキラした何かに」
一番、熱いヤツだ。
原作では、途中でキャラ変する。そのあたりをどう見せてくれるのか、めちゃくちゃ楽しみ。


エレンと光一のクラスメート加藤さゆりを、『まれ』『賭ケグルイ』の中村ゆりかが演じる。
光一と結婚し、ふたりの幸せな未来を企む策士。
光一に、かなわぬ夢を諦めさせて現実的な着地点(たとえば、広告代理店に入って、そこそこの仕事をする道)に進ませようとする。天才エレンの存在は邪魔なのだが……。

光一が働く目黒広告社の後輩、三橋由利奈を今泉佑唯。
できる先輩の神谷雄介役は、シンガーソングライターであり俳優である石崎ひゅーい。
ロゴのラインに悩んでいる光一が他の作品を参考にしようとしていると、その本を取り上げて言う。「どっかで見た表面的なラインを選ぶな」

原作の熱を忠実に蘇らせた


第一話の脚本は、根本ノンジ。
テレビ東京深夜『ドラマ24』枠「フルーツ宅配便」の脚本を全話手掛け、監督白石和彌、沖田修一、是安祐たちとタッグを組んで、すごい作品を生み出した。
その後、2019年7月期はフジテレビ月9の『監察医朝顔』の脚本。セリフで安易に説明することなく、ていねいに繊細に登場人物たちを描いた傑作だった。
『左ききのエレン』の第一話も、原作の熱を忠実に蘇らせた。

監督は、「ボイス 110緊急指令室」の後藤庸介。

何かを作り出そうとしている人たち、何かに挑戦しつづけている人たち、必見。

今期、おもしろいドラマが多い。
ホームコメディで地味な設定なのに超絶面白い『俺の話は長い』。画面がリッチで王道で木村拓哉やっぱりすごい『グランメゾン東京』。攻めに攻めてる『決してマネしないでください。』、攻めながらクオリティも激高の『左ききのエレン』。
ドラマ好きにはたまらないシーズンになりそうだ。
(テキスト:米光一成

【DATA】
第1話「オレは、オレの事ばっかりだ」 MBS10月20日(日)深夜2時05分/TBS10月22日(火)深夜1時30分
第2話「パパの手はそうじゃなかったんだ」 MBS10月27日(日)深夜2時05分/TBS10月29日(火)深夜1時30分

原作 かっぴー/nifuni『左ききのエレン』(集英社「少年ジャンプ+」連載中) かっぴー『左ききのエレン』(cakes連載)
監督 後藤庸介 深迫康之 本間利幸
脚本 根本ノンジ 守口悠介 本田隆朗
制作 共同テレビジョン
製作 ドラマ「左ききのエレン」製作委員会・MBS

朝倉光一…神尾楓珠
山岸エレン…池田エライザ

神谷雄介…石崎ひゅーい
加藤さゆり…中村ゆりか
三橋由利奈…今泉佑唯
流川俊…吉村界人
朱音優子…田中真琴
園宮千晶…久保田紗友

岸あかり…八木アリサ
佐久間威風…板橋駿谷

柳 一…丸山智己
沢村考…村杉蝉之介
冬月慎太郎…阪田マサノブ

海堂…般若
古谷真治…堀部圭亮