
「実験で研究室が大破した」ため医学部の研究室に押しかけているのは理工学部教授・高科(石黒賢)と掛田理(小瀧望)、有栖(今井悠貴)とテレス(ラウール)。3人とも、恋愛どころか女性との接触が少なく、科学に邁進する学生たちだ。ある日、校内のゴミ箱が燃えるのを見て「黄色の炎はナトリウム、緑の炎はモリブデン」などとぼんやり考え、体が動かない掛田を横目に、「食堂のお姉さん」飯島さん(馬場ふみか)が凛々しく消火活動を行う。その姿に掛田の心臓が早鐘を打つ。
小瀧望、代表作の予感
初めて恋を知るも、「それって本当に恋なの?」と確信できない掛田氏。「空気みたいにそこらじゅうにあるのが恋なんだよ!」と言い放つ医学部教授・早川(マキタスポーツ)に「たとえ目に見えない空気だとしても、それを真剣に考え続けて解き明かしてきたのが科学なんです!」と反論する。そして、「空気とは何か」を考え続けた科学者たちの歴史と「恋愛とは何か」を問い続ける掛田氏の奮闘が重なっていく。
掛田氏を演じるジャニーズWESTの小瀧が、ジャニーズの対極の存在とも言えそうな「理工学部の非モテ」ぶりを無理なく好演。頭の中で恋をシミュレーションするモノクロ恋愛映画パートではかっこよさをチラリと出しつつ、初めての感情に戸惑い逡巡する青年を、過剰な演技に陥らずに演じているように見える。小瀧自身、ドラマ経験は少なくないが、今回の役はジャニーズWESTとしてのコメディ映画やバラエティ番組経験も同時に活かされる、彼の代表作になりうる役柄かもしれない。
酸素と名付けた「黒歴史」が恋の背中をおす
「恋の構成要素及び十分条件」を教えてもらおうと「シュッとした医学部」に問うて合コンの数合わせに利用されたりしつつ、自らの気持ちを一度は恋と信じる掛田。けれど再び自信をなくしてしまう。酸素を「酸素」と名付けた18世紀フランスの科学者、アントワーヌ・ラヴォワジェの黒歴史(すべての酸に酸素が含まれているわけではない=酸素という名前は間違いだった!)を思い出し、やけになって自らを燃やす実験をすると、再び飯島さんが消火に駆けつける……。
掛田氏の恋をきっかけに、科学の歴史を振り返るのは原作どおり。しかし、第1話ラストで放たれた、伝わらなすぎる掛田氏の告白セリフ「僕と貴方の収束性と総和可能性を、iで解析しませんか?」はなんと原作では第1話の1コマ目に来ている。マンガでは掛田氏が自分の感情を恋と認めたところからスタートし、飯島さんと近づくために実験が行われたり、飯島さんのシプルで強い疑問に答えるために科学の歴史が説明されたりする。ドラマ第1話はその設定を大胆に変えて、掛田氏が恋という感情を認めるまでのプロローグに仕立てた。
第1話の脚本を担当した土屋亮一の手腕が実にみごとだ。科学者パートを主要キャストが演じていくことで科学の発見と恋愛の逡巡をリンクさせる方法は、わかりやすくて面白い。なかでも科学者たちの二酸化炭素や水素の発見が「合コンで好みの子をみつける」に重なるところ、クライマックスでラヴォワジェ(小瀧)が「間違ってても200年経って酸素って呼ばれてるんだからこっちのもんだぜ!」「世界に羽ばたけ、俺の黒歴史!」と叫ぶ爽快さもたまらない。よくもこんなにうまく空気発見の科学史と恋愛の自覚を重ね合わせたものだなあ……と思ったところで気づく。土屋といえば主宰する劇団「シベリア少女鉄道」で、物語の裏にべつの仕掛けを仕込んで後半で種明かししていくのを何より得意としている作家だ。第1話は、土屋のその能力が思いっきり発揮された30分でもあったのだ。
第1話を見逃した方は、テレビドラマ史上に残りそうなほど「2話がどうなるか全くわからない」予告編も含め、今夜1:10からNHK総合での再放送でぜひ確かめてほしい。
(釣木文恵)
決してマネしないでください。
原作:蛇蔵 脚本:土屋亮一、福田晶平、鎌田順也
演出:片桐健滋、榊英雄
制作統括:谷口卓敬、八木亜未
制作:NHK、大映テレビ