新しい試みが少しでもある番組には「実験的」という言葉が使われがちだが、ここまで実験的なドラマはなかなかない。先週からはじまった深夜ドラマ『知らない人んち(仮)〜あなたのアイデア、来週放送されます!〜』(テレビ東京、毎週月曜深夜0:12〜、全4回)のことだ。


1週間でアイデア出しから放送まで、超ハードなドラマづくり


ブログに変わってさまざまな表現の発表の場として台頭してきているソーシャルメディア、noteと提携しているこの番組。『知らない人んち(仮)』は、このnoteに視聴者が投稿したアイデアをもとにドラマを作っていく。放送1か月前にドラマの冒頭10分が公開され、先週の第1話放送ではnoteへの投稿をもとに作られたものが放送された。
1話はまだいい、1か月あったから。問題はここから。第2話から最終回の第4話までは、1週間でアイデア出しから放送まで持っていくという超強行スケジュール。ドラマの解説によれば、ちょうど1週間前、深夜の放送を観て視聴者が投稿したアイデアをもとに、木曜に脚本をまとめて金曜に撮影、土曜に編集……。
現在進行形でハードなドラマづくりが行なわれているのだ。

主人公はYouTuberのきいろ(筧美和子)。ある日、「知らない人んち泊まってみた」という企画でルームシェアをする3人に遭遇する。泊めてくれるというジェミ(長井短)、キャン(秋山ゆずき)、アク(戸塚純貴)の家に行くが、3人の様子も、家の雰囲気もなんだか怪しい。若者3人のルームシェアのはずなのに三輪車や杖、気配のない犬のケージ、開かずの間まである。さらに子どもの描いた絵まで見つけ、この家が彼らの家ではないことを確信するきいろ。
しかしYouTuber根性で残れば面白い映像を撮れるかも、と残ることに……。と、ここまでが放送前にアップされた映像。

アイデアはかなりしっかりしたものから、1行だけのもの、役者の売り込み、自作曲の提案、と幅広い。さらに主人公のブログ、LINE、トレーディングカード案とネットらしくドラマの本筋以上に世界が拡大していっている。とりあえずハッシュタグがついているけど関係なさそうなものまであり、これを読む製作陣の大変さについ思いを馳せてしまう。

果たして500人以上のアイデアを詰め込んだ第1話は、誰が書いたかわからない「ニゲテ」という置き手紙があったり、アクは家の中をモニターで監視していたり、そして子どもの絵はきいろ本人が描いたものだったり、とますます謎が深まる展開になった。


視聴者に対抗して自身の真髄を見せるプロ脚本家


もちろんこの「実験」も興味深いけれど、注目したいのはその集合知に対抗するプロ脚本家。脚本家たちは1話ごとに変わり、リレー方式で話を展開させていく。第1話を担当したのは劇団ヨーロッパ企画主宰の上田誠。今作の演出・プロデューサーを務める太田勇とは、又吉直樹主演の映画『海辺の週刊大衆』やコントドラマ『見えざるピンクのユニコーン』でで仕事をした仲だ。ヨーロッパ企画の代表作のひとつ、『サマータイムマシン・ブルース』では大学生たちがタイムマシンを利用してエアコンのリモコンを取りに行った。岸田國士戯曲賞を受賞した『来てけつかるべき新世界』では新世界の串カツ屋を舞台にドローンの出前、ロボットとの将棋がくりひろげられた。
日常のドラマとSFとが共存するコメディを書かせたら随一の作家だ。
テレ東×note「知らない人んち(仮)」はアイデア出しから放送まで1週間!超強行スケジュールドラマ

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そんな上田が書いた1話。ケージがあるのに犬がいないことをきいろに指摘されてジェミが「異世界にでも行っちゃったのかな、ワームホールでも開いているのかな」「量子力学のヒッグス粒子からとってヒグちゃん」と言うなど、理系ワードが炸裂。挙げ句の果てに3人は時空局の人間で、ハッカーによる世界滅亡を止めるために未来からやってきたという設定にしてしまった。

視聴者編がどうなるかわからない以上、どうひねっても仕方がない。そこで上田が選んだのは、自分の得意分野をとことん突き詰めるという方法だった。
ぶっ飛んだ設定、ひねった展開と言われてしまいそうな第1話だけれど、ヨーロッパ企画ファンが見たらこれほど上田らしさがストレートに出ている脚本はないのではないだろうか。

プロも同じように前のプロの脚本を受け継いでバトンを渡していく。第2話の脚本を担当するのはかもめんたるの岩崎う大。こちらはまた上田とはまったく異なり、日常をほんの少しだけはみ出すような異常さをもったキャラクター造形がうまい作家だ。そんな岩崎が上田のSF設定をどう転がしていくのか。この「実験的ドラマ」は、プロ脚本家の真髄を楽しめる作品になりそうだ。

(釣木文恵)