米倉涼子主演の人気医療ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」第6シリーズ(テレビ朝日系・木曜21時~)最終回。
総括「ドクターX」視聴率ひとり勝ちの理由にワイドショー感+「水戸黄門」割り切って中高年層をひきつける
イラストと文/北村ヂン

一匹狼もひとりで何でもできるわけではない


天才ピアノ少年・吉行和十(城桧吏)の手術。海老名敬(遠藤憲一)のがん疑惑。
難病「修正大血管転位症」を患っていたニコラス丹下(市村正親)。鮫島有(武田真治)の口車に乗り「蛭間ファンド」を設立して東帝大学病院を手に入れようとする蛭間院長(西田敏行)……と盛りだくさんすぎた最終回。

メインはやはり、ニコラス丹下を手術するかどうか問題。

インサイダー取引の疑いで逮捕され、拘置所の中でぶっ倒れたニコラス丹下。東帝大学病院に運び込まれるが、敵対していた蛭間院長は手術に反対し、協力した医師もクビだと言い渡す。

例のごとく、そんなこと関係なく手術に向けて動いていた大門未知子(米倉涼子)だったが、そもそもこの病気は高齢での手術成功例がなく、さすがの大門でもひとりで手術を成功させるのは難しい。

「あんたたち それでも医者? 医者なのかって聞いてんの!」

結局、単独で手術に踏み切るが、途中で行き詰まってしまった。

「駄目だ……手が足りない」

ここで、良心にさいなまれた医者たちが集結。AI手術のエキスパートとして鳴り物入りでやって来たものの、これまでまったく役に立っていなかった潮一摩(ユースケ・サンタマリア)が、大門すら思いつかなかった術式をAIのディープラーニングで導き出して手術を成功させることができた。

当然、蛭間院長は激怒し「君も、君のオペに協力した者たちも、もはや医者ではない」と全員クビを言い渡す。

第1話で大門が病院にやって来て、最終話で去って行くといういつものパターンだが、これまで権力にすり寄ってきた医者たちが勇気を振り絞って大門の元に集うという展開にはグッときた。

「今日はみんな医者だったよ、アンタ以外はね!」

専門医のライセンスと叩き上げのスキルだけを武器に一匹狼でやってきた大門未知子だが(のわりに味方も多いけど)、今シリーズではさすがの大門も「ひとりで何でもできるわけではない」という姿が描かれていた。
第5シリーズで自らが患者となった経験からの成長だろうか。

「ドクターX」の強みは、ワイドショー+「水戸黄門」


平均視聴率20%超えは当たり前という「ドクターX」シリーズだが、今期は若干苦戦していたようだ。……にしても視聴率18%前後をウロウロしているという、最近のドラマではひとり勝ち状態。

「ドクターX」の強みはどこにあるのか? 第6シリーズを見ていて思ったのは「ワイドショー感」。おそらく今、テレビをもっとも見ていると思われる中高年層(ワイドショーを見ている人たち)の嗜好にガッチリとマッチさせたドラマ作りだ。

第6シリーズのゲスト患者を見てみても、松坂慶子、モロ師岡、角野卓造、倍賞美津子、岩下志麻、宇崎竜童……。同じくテレビ朝日の「やすらぎの郷」まではいかないまでも、中高年層をターゲットにしているのは明らかだろう。

時事ネタもひんぱんに取り入れられており、失言大臣や元・ZOZOの前澤社長、小泉進次郎、吉本興業のギャラ料率問題……などなど。時事ネタ以外でも「極道の妻たち」ネタ、矢沢永吉ネタとターゲットの心をガッチリつかんでいる。

第9話には「ゲスの極み乙女。」の川谷絵音もゲスト出演していた。中高年にとって、ミュージシャンとしてはまったく馴染みがないと思われるが、これまたワイドショー的には「ベッキーと不倫してた」で超お馴染み。

ここまで中高年の好みに合わせておきながら「クレヨンしんちゃん」やHIKAKIN、「仮面ライダージオウ」ネタをぶっ込んでいたのはワケが分からなかったが、アレは孫と一緒に見ることを想定していたのかも知れない。


このように、中高年の「知ってる!」ネタをふんだんに取り込みつつ、ドラマの流れは医療版「水戸黄門」。

「水戸黄門」では、どんな強敵が出てきても「ご老公一行がやられちゃうんじゃ……」なんて本気でハラハラしながら見ている人はいない。視聴者の興味は、むかつく悪代官に対して、格さんがいつ印籠を出してくれるのかの一点に絞られている。

「ドクターX」でも、手術困難な難病が次々と登場するが「患者が助かるのか? 手術は成功するのか?」とは心配しない。いつ「私、失敗しないので」が飛び出してスカッとさせてくれるのか? それを楽しむドラマなのだ。

最終話を見ても、ピアノ少年を病院に紹介してあげた九藤勇次(宇崎竜童)がすっかり忘れ去られていたり、食堂のおばちゃん・一子(松坂慶子)が大金を持っている理由がまったく明かされなかったり、鮫島が結局何をやりたかったのかよく分からなかったり……。脚本のおおざっぱさが多数目に付いたものの、そんな粗が気にならないくらい、雰囲気が「感動的っぽい」シーンを作るのが上手いのだ!

「ドクターX」や「科捜研の女」といったテレ朝医療ドラマの成功を受けて、他局でも医療ドラマがやたらと増えているが、ここまでターゲットを絞り、割り切って分かりやすく作っているドラマはなかなかない。

高齢化社会の世の中、まだまだテレ朝ドラマの天下は続きそうだ。……と思うとともに、テレビ局も若者の心をつかむことを諦めず、夢中にさせるようなドラマを作ってもらいたいところだが。
(イラストと文/北村ヂン)

【配信サイト】
Abema TV
テレ朝動画

『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』(テレビ朝日)
脚本:中園ミホ、林誠人、香坂隆史
音楽:沢田完
主題歌:P!NK「ソー・ホワット」
企画協力:古賀誠一(オスカープロモーション)
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:大江達樹(テレビ朝日)、都築歩(テレビ朝日)、霜田一寿(ザ・ワークス)、大垣一穂(ザ・ワークス)、伊賀宣子(ザ・ワークス)
演出:田村直己(テレビ朝日)、松田秀知、ほか
制作協力:ザ・ワークス
制作著作:テレビ朝日
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