恋がわからない理系大生掛田氏(小瀧望)が、大学の食堂で働く飯島さん(馬場ふみか)に惹かれ、歴史上の科学者たちの姿勢に学びながら進歩していく「よるドラ」『決してマネしないでください。』(NHK総合、毎週土曜23:30〜、再放送毎週金曜25:10〜)が最終回を迎えた。

原作3巻『決してマネしないでください。』蛇蔵
お見事最終回「決してマネしないでください。」原作とドラマの幸福な化学変化を反芻してみた


たかしくん問題の実写化!


1シーン1シーンに意味があり、1つ1つのセリフにここまでの積み重ねが込められていた、これぞ最終回というべきすばらしい話だったからだ。無粋を承知の上で、まずはあらすじを説明してみる。

飯島さんに告白を断られてしまった掛田氏。有栖(今井悠貴)やテレス(ラウール)は生涯彼女ができなかったニュートンの話を持ち出して勇気づける。白石教授(マキタスポーツ)は「タイムマシンに乗る方法」を伝授する。掛田氏は周りの優しさに触れながら、じんわりと自分の失恋を自覚する。
一方、高科教授(石黒賢)と遭遇し、胸の内をもらす飯島さん。つらい過去の恋愛経験から、飯島さんは掛田氏との楽しい時間を失いたくなくて、告白を断ってしまったのだった。

その夜、飯島さんが目にしたのはホタルイカの発光バクテリアを利用してつくったクリスマスツリー! 掛田氏が「形に残らない、負担にならないプレゼント」を熟考し、振られてなお飯島さんの笑顔が見たくてこのツリーを用意したのだった。その思いに触れ、「10分前に15分後のバスを目指して出発した」掛田氏を追いかける飯島さん。「たかしくん問題の実写化だ!」と興奮する有栖……!

会えた掛田氏に向かって、飯島さんは言う。「好きになるって、なんなんでしょう?」。

恋がわからないのは、なにも理系大学生だけじゃない。私たちはみんな、恋のことなんてわからない。タイムマシンの作り方がわからないように。けれど、諦めなければ、努力をし続ければ、なんとかなるかもしれないのだ。

科学を通じて受け継がれる思い


バス停で空港行きのバスを待つ間に飯島さんへの気持ちを再確認する掛田氏。その前に現れるのはこれまで掛田氏を勇気付け、前に踏み出すきっかけを与えてきた歴史上の偉大なる科学者たちだ。ベンジャミン・フランクリンやジョン・ハンター、トーマス・エジソンにニコラ・テスラ。掛田氏は彼らから投げかけられる、「私たちはこうした、君ならどうする?」。そこでシーンは2049年に飛ぶ。恋を知った学生を勇気付けるのは「天才物理学者」掛田理その人だ。

歴史上の科学者たちに学び、一歩ずつ恋を理解してきた掛田氏が、未来の若者を勇気づける存在になったのだ。科学に対するひたむきな探究心が新しい世代へのエールとなる姿は、ちょうど同じ週に最終回を迎えた『いだてん』で、オリンピックというひとつの夢に向かってたくさんの人がバトンをつないでいくようすにも重なって見えた。

原作と新しい要素、その融合のみごとさ


原作をじっくり読み解き、丁寧に組み直して掛田氏の成長を描いてきたこのドラマにふさわしい最終回。
原作の前半に登場するクリスマスエピソードを最終回に合体させ、さらにタイムマシンを効果的に使ってみごとにクライマックスが描かれた。

ドラマならではの展開がどれもすばらしかった。箇条書きで記してみる。

・ゾンビちゃん(佐野ひなこ!)が着ぐるみを脱いで素顔になったこと。
・ゾンビちゃんの掛田氏に対する恋心を明確にみせたこと。そうすることで、恋に向かって努力する掛田氏の魅力を描いてみせたこと。
・でもゾンビちゃんが再び着ぐるみを身にまとう姿を見せ、「人はそう簡単には変わらない」ことを尊重したこと。
・2049年の掛田氏が登場したこと。
・さらに20??年の掛田氏と飯島さんが登場すること。
・どうやらあるらしきタイムマシンが二人を出会わせるためではなく、幼い心と報われなかった恋を応援するささやかな力として使われていたこと。
・第7話で登場した「高速で移動するサンタクロースは青い」という話題が最終話で飯島さんの背中を押すこと。
・その「サンタクロースは青い」は原作のおまけマンガ的なひとコマ絵からひっぱってきていること。

・さらに幼少期の掛田氏が公園で書く「宇宙人は恋なんてできない」は原作単行本の描き下ろし前日譚からひっぱってきていること。
・さらにさらに、そこで登場したテレスが初めて手にした文字Tシャツ「要冷蔵」をさりげなく登場させていること。
・エンディングで新しくもう一人、科学の面白さに気づいたらしき人(田中さん)がいること。

まだあるがこの辺にしておこう。
原作から登場人物のキャラクターを変えてみたり、結末を変更してみたりと、大きな改変をしてなお面白い作品はある。けれど、『決してマネしないでください。』は原作を尊重し細かな部分まで再現するいっぽうで大胆に編集をほどこし、要素を加えてドラマとして面白い作品に仕立てて見せた。これほど幸福な化学変化をした作品を、私はほかに思いつくことができない。

最後に、幼い頃の掛田氏が「宇宙人は恋なんてできない」と公園に書いたシーンについて。「とは証明されていない」と書き足した人は、ドラマと原作では異なる。ぜひ、両方を見比べてみてほしい。
(釣木文恵)

「決してマネしないでください。

」
出演:小瀧望(ジャニーズWEST)、馬場ふみか、ラウール(Snow Man/ジャニーズJr.)、今井悠貴、佐野ひなこ、織田梨沙、マキタスポーツ、石黒賢 ほか
原作:蛇蔵
脚本:土屋亮一、福田晶平、鎌田順也
演出:片桐健滋、榊英雄
制作統括:谷口卓敬、八木亜未
制作:NHK、大映テレビ
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