現在公開中の劇場版『新幹線変形ロボ シンカリオン 未来からきた神速のALFA-X』。子供だけでなく大人にも人気の『シンカリオン』初の劇場版で、さまざまな豪華コラボレーションを含めて話題を集めている。

エキレビ!の池添隆博監督インタビュー後編では、ラストシーンまでのネタバレにも触れながら、コラボシーンのこだわりや、作品に込めた思いなどを語ってもらった。
本編未見で、ネタバレが苦手な人は、映画を先に観てからチェックして欲しい。

(前編はこちら
劇場版「シンカリオン」池添監督が更に語る「親子の対話のきっかけになって欲しい」
本作には、2019年5月に完成した新幹線試験車両ALFA-Xのシンカリオンも登場。高い適合率を記録した9歳のホクトが運転士を務め、ハヤトの乗るシンカリオン E5はやぶさ MkIIとともに宇宙からの強敵と戦う

元々の『ゴジラ』のストーリーとも少しシンクロ


──キトラルザスとの戦いを描いたテレビシリーズに続く、オリジナルストーリーということで、新たな敵をどのような存在にするのかは、本作の重要なポイントだったと思います。宇宙からきたヴァルハランという設定は、どのように固まっていったのですか?

池添 映画ですし、敵は宇宙からきた方がスケール感も出るだろうということで、今回の敵は宇宙から来ることにしました。そのために、(テレビシリーズでキトラルザスの)ソウギョクを生かしておいたというところもあるんですよ。ソウギョクとの繋がりで何か来る方が絶対に面白いし。たぶん今後もアイツは死ななくて、いろいろな相手との仲介をしていくんじゃないかなと思っています(笑)。


──ハヤト少年ホクトは、親子ですが、年の近い友達のような関係でもあります。この二人の複雑な関係性を描く際、難しかったこと、特に意識されたことなどを教えてください。

池添 ハヤトは、ホクトの書いたノートを見たことで、見知らぬ少年がホクトであることを察します。少年ホクトの方も、(この時代に)きたらすぐに事件に巻き込まれ、急にシンカリオン ALFA-Xに乗ることになっていく。お互いがスピード感のある展開とともにパニック状態に巻き込まれていく中、対話を始めるんですけれど。ハヤトは、お父さんとしてというよりも、同じ騒動に巻き込まれた、新幹線好き同士というところから、少年ホクトとつながっていくんです。
だから、親子としてというよりも、同じ少年だったからこそ、言いあえたり、分かりあえたりしたのかなと思っています。
劇場版「シンカリオン」池添監督が更に語る「親子の対話のきっかけになって欲しい」
ノートに自分が想像した未来の新幹線などの絵を描く少年ホクト。その内容は、ハヤトが自宅の押し入れで見つけたノートの内容と同じで、シンカリオン開発の鍵となった概念「超進化速度」のことも描かれていた

──普通の親子の関係だけでは繋がりあえなかったかもしれないところでも、繋がりあえた?

池添 そういうところはあったと思います。

──テレビシリーズでも、エヴァンゲリオン初音ミクとのコラボが大きな話題になりましたが、本作では、さらにゴジラも登場します。ゴジラの登場が決まった時の率直な感想を教えてください。

池添 まず、絵としては絶対に面白いけれど、敵にするわけにはいかないよな、と。それに、観た時に大人がクスっと笑ってくれるような見せ方ができれば、と思いました。


──実際、試写で観た時、ビックリするのと同時に「ゴジラまで出るのか」と笑ってしまいました(笑)。

池添 最終的には、次元が乱れてしまったことで、この世界に現れた可哀想な怪獣なんだよ、という描き方になっているのですが、それは、元々の『ゴジラ』のストーリーとも少しシンクロさせています。

──初代『ゴジラ』は、海底で静かに暮らしていたのに水爆実験によって、安住の地を追われて、日本に上陸するという設定です。

池添 暴れても「別にゴジラは悪くないよね」というところも含めて、オマージュといいますか、リスペクトしたつもりです。

ゲンブ、ビャッコはシンカリオンに乗せるべきだと思った


──『エヴァンゲリオン』のキャラクターたちが登場する形でのコラボは、ハヤトがエヴァの世界の第三新東京市へ行くというテレビシリーズ第31話に続いて2度目でした。第31話の物語は、ハヤトの夢だったのか、本当に体験したことなのか分からないという謎を含んだ終わり方でしたが、本作で、それも明確になりました。

池添 たぶん、第31話を作っていた時には、思いついていなかったと思うんですけれど(笑)。
次元を超えるというテーマを考えた時、「あ、そういう繋がりにしたら、ハヤトがエヴァの世界へ行ったことも納得できるかも」という感じで生まれました。

──クライマックスでは、シンカリオン全車両が集結し、ナハネが操る最強の敵・ヴァルドルと戦います。

池添 あそこは畳みかけました。
劇場版「シンカリオン」池添監督が更に語る「親子の対話のきっかけになって欲しい」
ALFA-Xの力も取り込んだヴァルドルと戦うチームシンカリオン。必殺技の波状攻撃も弾き返されるなど苦戦する中、ゲンブの乗ったシンカリオン E5はやぶさと、ビャッコが奪ったブラックシンカリオンオーガも参戦

──あのバトルの展開は、どのように組み上げていったのでしょうか?

池添 本当は、ハヤト以外の運転士も全員一つずつ新しい技をやりたかったんです。でも、当然、そんな尺はありませんでした(笑)。なので、順番に攻撃しては跳ね返されていく形にはなったのですが……。
そこに、テレビシリーズの黒い粒子のエネルギーのネタも繋げて、ビャッコスザクも加えたみんなで協力して、最後は、ハヤトとホクトが最強の敵を浄化させて欲しいと思っていました。だから、ナハネも最後は爆発したのではなくて、ゴジラの放ったエネルギーで元の次元に戻ったという見方をしてもらえたら、良いなと思っています。

──黒い粒子の力も含めて、テレビシリーズのネタが伏線のように生かされていることが多かったのですね。

池添 やっぱり、あれだけ話数(全76話)があると、いろいろなところにネタが転がっていますから。

──長期シリーズを経ての劇場版という展開が生かされている印象です。

池添 最初から狙っていたものばかりではないのですが、そうなりました。


──ゲンブシンカリオン E5はやぶさに、ビャッコブラックシンカリオンオーガに乗るという展開も、テレビシリーズの時からどこかで見せたいネタだったのでしょうか?

池添 はい。絶対に、ゲンブ、ビャッコはシンカリオンに乗せるべきだと思っていました。たぶん、ビャッコは(シンカリオンとの)適合率が微妙なところもあるとは思うんですけれど。ビャッコがオーガに乗るところで、スザクとビャッコの関係性も一言のセリフだけで見せられるし、これは乗るしか無いなと。まあ、キリンも乗っていたオーガだったら乗れるかな、と。

ふとした親子の対話のきっかけになって欲しい


──監督の中で、この作品でこのシーンが作れて良かったと思うような、特に思い入れのあるシーンなどがあれば教えてください。

池添 ここがという話ではないのですが……。今回、ほぼ2週間くらいでコンテを描いたので、絵も本当に乱れていました。でも、制作を進める中、コンテに込めたテーマはきちんと(スタッフに)伝わっているなと実感できて。映画を観てくださる皆さんにもきっと伝わるだろうと確信できたことが本当に嬉しかったです。厳しいスケジュールのわりには、みんなで頑張れたなと思っています(笑)。

──エンディングの後のラストシーンでは、生まれたばかりのハヤトを初めて抱っこしたホクトが無意識に「久しぶり」と言います。あのラストに込めた思いを教えてください。

池添 あえて、ちょっとミステリアスな終わりにしたんですけれど。あそこから、ホクトとハヤトの親子の対話が始まったのかなって。この映画は、親子で一緒に観た後、お父さんやお母さんが自分の子供に対して「何か好きなものってある?」と聞くような形での対話が生まれたら良いなと思って作ったんです。ラストシーンは、ハヤトとホクトにとっての、そのスタートという意識だったというか……。あまり言葉で説明しすぎると、変に意味を持ちすぎてしまうので、それは避けたいのですが。ふとした親子の対話のきっかけになって欲しいという思いで作ったカットです。
劇場版「シンカリオン」池添監督が更に語る「親子の対話のきっかけになって欲しい」
息子のハヤトを伸び伸びと育ててきたホクト。主題歌「ガッタンゴットトンGO!」の流れるエンディングでは、時間をさかのぼる形で速杉家の家族写真が映されていき、エンディングの後のラストシーンへと繋がる

──「好きなもの」についての親子の対話が成立するためには、子供だけでなく親の側も「好きなもの」を持っている必要があると思います。そういったことも、作品に込めたテーマの一つなのでしょうか?

池添 人生の大半は努力と根性ですけれど、好きなことがあれば少し有意義になるじゃないですか(笑)。この『シンカリオン』って、突き詰めていくと「人間とは?」とか、「どうやって生きていけばいいんだろう?」とか考えたくなるくらいのテーマを描いているつもりで、本当にいろいろな思いを込めて作った作品です。だから、子供だけでなく、大人にもそう思ってもらえたとしたら、映画としては成功なのかなという気がしています。

──「何かを好きになる気持ち」というテーマについては、テレビシリーズの全76話を通しても描かれてきたものですが、それだけ描いても、まだまだいろいろな切り口のある深いテーマだったのでしょうか?

池添 はい。これからも『シンカリオン』が続くのであれば、とにかく、そのテーマはぶれずに描いていくべきだと思います。

──本作の最後には「シンカリオンはまだまだ止まらない!」という文字が出るのですが、これからの『シンカリオン』に対して、池添監督が期待していることを教えてください。

池添 あの言葉は(製作委員会の)大人たちからのメッセージでもあるのですが。テレビシリーズと映画を作るのも本当に大変だったと思うんですけれど、ここまできたのだったら、とにかく終わっちゃいけないという思いを込めて、ああいう言葉になったのだと思います。大人達もその覚悟をもって、あの言葉を入れることにしたはずです。

──あれを見たファンは、当然、今後の展開に期待を膨らませます。

池添 あれを出しておいて何もなかったら、みんな「どういうこっちゃ」ってなると思うので(笑)。きっと、みんな覚悟を持って、どんな形でも『シンカリオン』のコンテンツを出していくのだと思います。その中で映像に関しては、ご協力できることがあれば、僕もやれる限りやりたいなと思っているのが今の本心です。

≪作品情報≫
劇場版『新幹線変形ロボ シンカリオン 未来からきた神速のALFA-X』
12月27日(金)全国ロードショー
【スタッフ】
監督/池添隆博 脚本/下山健人 キャラクターデザイン/あおのゆか 
メカニックデザイン/服部恵大 音楽/渡辺俊幸 音響監督/三間雅文
【キャスト】
佐倉綾音 沼倉愛美 村川梨衣 真堂圭 竹達彩奈 杉田智和 雨宮天 うえだゆうじ 山寺宏一/釘宮理恵 伊藤健太郎 吉田鋼太郎
【配給】
東宝映像事業部
(C)プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/超進化研究所・The Movie 2019

(取材・文・写真/丸本大輔)