娘「ヤバッ、おじさん臭い! ありえないんだけど」
夫「いやいやいや、お父さん、まだそこまでおじさん臭くないだろ?」
娘「は?」
妻「は?」
夫「は?」
娘&妻「おじさん臭いよ!」

「カメラを止めるな!」でおなじみ濱津隆之主演のドラマ25「絶メシロード」(テレビ東京、深夜0時52分~)。週末の1泊2日だけ車中泊をしながら、絶滅しそうな絶品メシこと「絶メシ」を求めて旅する中年男の姿を描く。
参考「絶メシリスト」
濱津隆之「絶メシロード」4話「おじさん臭い」と言われた哀しいおじさんたちは車中泊と絶メシで救われる
イラスト/サイレントT

冒頭の会話は、濱津演じる主人公の須田民生が、娘・紬(西村瑠香)と妻・佳苗(酒井若菜)に加齢臭のことをイジられたときのもの。人は「臭い」と言われると本当に傷つく。たとえ本当に臭かったとしても傷つく。民生だって傷ついただろう。

だけど、大丈夫。彼には絶メシの旅があるから。妻子が出かけたのを見送ると、思わずにんまりしてしまう。さあ、車に乗り込んで「小さな大冒険」に出発だ。

迫害される「おじさん」たち


「若い頃は若い頃で辛かったけど、おじさんはおじさんで辛いんだなぁ……」

先週放送された第4話で民生が向かったのは、伊豆半島。まずは「道の駅 伊東マリンタウン」の駐車場で車中泊をキメる。

しかし、車中で脳裏によぎるのは、娘に「おじさん臭い」と言われたこと。民生は会社でもクライアントの池崎(野間口徹)に企画書を「おじさん臭い」と言われて却下されたのだ。かわりに採用されたのが26歳の部下、堀内(長村航希)のもの。
そこで呟いたのが先の言葉。

おじさんといえば、威張っていて、セクハラして、パワハラをする、社会的強者というイメージを持つ人もいるかもしれないが、実際には民生のようにあちこちで迫害される「辛いおじさん」もたくさんいる。

民生は一軒家があって、家族を養っていて(奥さんも働いていそうだけど)、自家用車まであるのだから、経済的に恵まれていないとは言えないが、きっと若い頃からコミュニケーションが今ひとつとか、ノリをまわりに合わせられないとか、気弱でバカにされがちとか、単にツイてないとか、そういうことがずっと続いているのだろう。まるで自分のことのようで辛い。

だけど民生は車中泊と絶メシという趣味を見つけた。ひとりでのびのび楽しめる趣味だから民生には合っているのだろう。趣味が人を救うこともある。車中泊と絶メシが民生を救っている。車で朝を迎えると、朝5時から営業しているシーサイドスパで加齢臭を洗い落とすかのように体中をしっかり洗う。旅先でけっしてツイているとは言えない民生だが、今回は日の出もバッチリ。誰にだって、いつかは日が昇る。

初めての客が食べなきゃいけないメニュー


体を洗ってサッパリした民生は、駐車場で車中泊マスターの鏑木(山本耕史)と再会する。車両代含めて1000万円近くかかった豪華な改造車を披露する陽気な鏑木だが、民生に妻について聞かれるとすっとぼける。
彼の素性が明らかになる日がいつか来るのだろうか。

「さて、いただきに行きますか」

絶メシを求めて車を走らせる民生の心は軽やか。いつしか伊東から下田にまで来てしまった。目にとまったのは小さなとんかつ屋「とんかつ一(はじめ)」。もちろん、今回も実在する店。だんだん入店するときの迷いが少なくなっている気がする。これが経験。

客を「旦那!」と呼んで満面のスマイルで迎える店主(春海四方)。丸顔の春海四方はどこからどう見ても陽気なとんかつ屋の主人。いいキャスティングだなぁ、とため息がでる。

民生の年齢を「25ぐらい?」と言って「若旦那」と呼ぶ店主だが、初めての来店だとわかるとメニューを「ミックス定食」に決めてしまう。この店はそういうルールらしい。
理不尽なようだが、郷に入れば郷に従え。店のルールは尊重せねばなるまい。どうしても自分に合わなければ退店すればいいのだが、あえて相手に合わせることで味わえる味もある。

出てきたミックス定食は、ヒレカツ、メンチカツ、カニクリームコロッケ、唐揚げの四種に特製デミグラスソースがかけられたもの。キャベツ、つけあわせのスパゲティもたっぷり。一瞬、ボリュームにたじろぐが、若い堀内と大食い対決をする妄想で自分を奮い立たせる。

勢いにまかせて揚げ物と丼飯をかっこむ堀内(妄想)だが、民生は経験に裏打ちされた老獪な戦法(普通に三角食べのようにローテを組むだけ)で打ち負かした。やったぜ。おじさんだってやるときゃやるのだ。

40年の経験にもとづいた「目配り」


ミックス定食をきれいにたいらげた民生を見た主人は、「サービス」としてさらに唐揚げとスパゲティと丼飯とカレーを出す。客を「旦那」と呼び、初めての客にミックス定食を勧め、さらに食べ終わった客におかわりを勧めるのはすべて事実に基づいているそう。

ただ単に押し付けがましいだけに見えるかもしれないが、民生は店主が冷静に客の腹具合を把握しておかわりを勧めていることに気づく。


「親父さん、おかわりつぐ相手、選んでますよね?」
「もちろん。若旦那におかわりついだのも、若旦那が俺はまだまだ若いヤツに負けたくないって顔してたからだよ」

店主の「目配り」はこの道40年ならではの経験。そして民生にこう言う。

「若旦那ももうそこまで若くないんだからさ、勢い以外のそういういやらしい部分で勝負していかないとね」

民生だって「目配り」はできる。こうやって店主の「目配り」に気づいたし、第3話では後輩の女性社員が仕事に困っているのを見つけて助けていた(しかし、その社員は先輩の民生の名前を認識していなかった)。年をとることは、そこまで悪いことばかりじゃない。娘からも謝罪の電話が入った。

「また来てよ、いつまでやってるかわかんないけど」「私が倒れたらもうおしまい」と朗らかに言う店主。ここもまさに絶メシだった。いつか下田まで行って、腹がはちきれるまでミックス定食を食べてみたい。絶メシ、フォーエバー。

今夜は銚子漁港の定食屋。
予告を見ると、感動回の予感がする。今夜0時52分から。
(大山くまお)

ドラマ25「絶メシロード」
出演:濱津隆之、酒井若菜、西村瑠香(青春高校3年C組)、長村航希、野間口徹、山本耕史
原案:「絶メシリスト」(博報堂ケトル)
脚本:森ハヤシ、村上大樹、家城啓之
演出:菅井祐介、古川豪、小沼雄一、原廣利
音楽:河野丈洋
主題歌:スカート「標識の影・鉄塔の影」
プロデューサー:寺原洋平、畑中翔太、田川友紀
制作:テレビ東京、テレコムスタッフ
製作著作:「絶メシロード」製作委員会
配信:ひかりTV、Paravi
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