タイムカプセルを埋めたのが「3月11日」だったのはなぜ?
TBSの日曜劇場「テセウスの船」もいよいよ終盤に入った。31年前の宮城・音臼小学校での無差別殺人事件をめぐるドラマは、これまで真犯人探しを中心に展開してきたが、前々回の第6話のラストでその正体があきらかになると、続く第7話では、犯人の動きを封じて事件を止められるかという方向へと転じた。
フロッピーに収められた「挑戦状」
真犯人は、音臼小に通う少年・みきお(柴崎楓雅)──。現代から再びタイムスリップしてきた田村心(竹内涼真)は、自分の父で村の駐在所の警官である佐野文吾(鈴木亮平)にその事実を教えると、二人でみきおを追う。
二人はまず、みきおの家に出向くが、彼の姿はない。家には鍵がかかっておらず、上がり込むと、人体模型やチョウの標本などの並ぶ部屋で、文吾が「心先生へ」とラベルの貼られたフロッピーディスクを見つけた。みきおは心がここに来るのを察知していたのだ。それというのも、大人になったみきお(安藤政信)が自分が殺人犯だと告白するのを録音した心のレコーダーが、いつのまにか少年みきおの手に渡っていたからである(心さん、何という不覚!)。
そのフロッピーをみきおの使っているワープロで開くと、そこには「バレちゃったみたいですね。/でもこれで、もっとワクワクして/お楽しみ会が待ちきれない!/心先生、僕を捕まえられるかな?」とあきらかに挑発する文章があった。
一体、みきおはどこへ行ったのか。二人は続いて担任教師の木村さつき(麻生祐未)の家を訪ねる。31年後の現代では、彼女はみきおの養母となり、彼の犯行を隠蔽するべく、文吾の無罪を晴らそうと奔走する心を阻止。そして証人に名乗り出た佐々木紀子(芦名星)を殺害したあげく、結局、みきおに殺されてしまった。
そんなさつきも、この時代はまだおだやかな優しい先生だった。
さつきはまだみきおの共犯者にはなっていないとわかり、心は文吾に誘われて、佐野家に“帰宅”する。そこでは母・和子(榮倉奈々)と姉の鈴(白鳥玉季)、兄の慎吾(番家天嵩)がクラッカーを鳴らして、温かく迎えてくれた。和子は妊娠中で、生まれてくる子の名前は家族会議ではすでに「心」と決まっていた。鈴はその日、たまたまみきおに会って、その名前を伝えたところ、彼は大笑いしていたという。それを聞いて心は不吉な予感を抱く。
心、存在を消されそうになる
このあと、一人でみきおを探しに出かけようとする文吾に、心が、未来では和子が一家心中を図ると打ち明ける。これに動揺した文吾は、小学校で翌々日のお楽しみ会の準備をする校長や地元の人たちに対しても、開催を止めようとしてつい乱暴な態度をとってしまう。
帰宅した文吾は和子に叱られる。彼女に本当のことを言えず、もどかしさを覚える文吾と心だが、その晩、みきおの手でまたしても一人殺されてしまう。元県会議員の田中良雄(仲本工事)だ。みきおは田中の家を訪ねると、薬に毒物を混ぜて飲ませたのである。
翌朝、駐在所に電話があり(もちろんみきおがかけた)、文吾は心をともない田中の家に急行するが、田中老人はすでに息絶えていた。詩人でもあった田中が詩をつづったノートの上には、一片の紙があり、そこにはワープロの文字で「さよなら、おじいちゃん。さよなら、心先生」とあった。間違いなく、みきおが打ったものだ。
心は「まさか」と思い、佐野家に戻る。みきおが和子に危害を加えて、お腹にいる子供……つまり自分の存在を消そうとしているのではないかと感づいたからだ。案の定、みきおは手製のスープを和子に味見してほしいと訪ねてきていた。
しかし和子は無事だった。鈴たちが帰宅すると、「やっぱいいや」と急に帰ったという。どこまでも翻弄されっぱなしの心。その後も文吾とともに村中をまわってみきおを探し続けるも、一向に見つからない。その様子を当のみきおがじっと見つめているのが怖い……。
佐野家だけのお楽しみ会、そしてしばしの別れ…
その晩、帰宅した文吾は、一大決心をして家族に告げる。いますぐ荷物をまとめて今晩中に村から出ろというのだ。お楽しみ会はもう翌日とあって、当然ながら鈴と慎吾は激しく拒み、文吾は思わず手を出してしまう。和子がたまらず「何してんのよ!」と叫び、家族で大喧嘩になった。それを心が「やめてください!」と声を張り上げて制止する。
「俺の家族は、あることが原因でバラバラになりました」「だから俺、この家がすっごくうらやましいです。みんなでプロレスしたり、バカ言い合ったり、わいわいごはん食べたり。でも、これって、当たり前のことじゃないんです。ある日突然壊れてしまうこともあるんです」「だから家族一緒に笑っていられるって、すごく幸せなことなんです」──しみじみと語る心に、耳を傾ける佐野家の人々。
そこで文吾が「すまん! 俺が無茶言ってることはよーくわかってんだ。でも今回だけは俺の言うこと聞いてくんないか。しばらくのあいだ、な、しばらくのあいだだけこの村出ておいてくれ。頼むっ!」と手をついて頼みこみ、ついに和子も折れ、子供たちにも納得させた。
ここで心は、鈴と慎吾が小学校でのお楽しみ会に出られない代わりに、いまから佐野家だけのお楽しみ会を開こうと思いつく。こうして家族は、しばしの別れを前に、プロレスに興じ、そのあとはみんなでカニ鍋を食べた。食後に文吾が十八番の「上を向いて歩こう」を歌い出すと、家族で合唱になる。
さらに和子が使い捨てカメラ(1989年当時よく使われた「写ルンです」っぽいが、デザインは変えてあった)で写真を撮っていると、音臼小が創立30年というところから、これから30年後に掘り起こすためタイムカプセルを埋めようと提案、みんなでおのおのそこに入れるものを用意する。
心は、かつていた世界では妻だった由紀とそのあいだに生まれた娘の未来(みく)を含め、自分たち家族のいた証しとして家系図を書き、外した結婚指輪とともに封筒に収め、カプセルに入れた。それをさっそく庭に埋め、鈴が目印として木の棒を立てる。家族のこころがひとつにまとまったいいシーンだったけれども、タイムカプセルを埋めたところが、どうもお墓っぽくて不吉さが漂う。30年後に再び家族がめぐり会う日は来るようにと、心が手を合わせていただけに、よけいそう感じてしまった。
翌朝、文吾と心に見送られながら、和子は鈴と慎吾とともに車で家を出ていく。妊娠中の和子に運転させるのはどうなの!? とも思うが、文吾は心と一緒に村に残り、みきおを止めなければならないのだから致し方ない。はたして事件当日、小学校に行き、巡回していると、校内放送が入る。みきおの声だ。
タイムカプセルを埋めた日付の意味とは?
「テセウスの船」には、ミステリーやサスペンス、それに平成ノスタルジー(流行だけでなく、劇中の事件が平成に起こったさまざまな事件を彷彿とさせる点も含めて)と色々な要素が盛り込まれている。しかし最大のテーマはやはり「家族の再生」ではないか。第7話はとりわけそれを感じさせた。
ところで、このドラマで事件が起こるのは原作と同じく1989年である。ただ、原作では事件の発生は6月なのに対しドラマでは3月、舞台も北海道から宮城県に変更されている。前者は放送時期に合わせたものとして、舞台を変えたのはなぜなのか、ずっと気になっていた。
そう考えると、第7話で、家族が喧嘩をしたあと仲直りし、しばしの別れを前にタイムカプセルを埋めたのが「3月11日」だったのは示唆的である。もちろん、時代が違うので、ドラマのなかで震災が直接描かれることはないが、この3月11日の晩、心が家族を前に語った、「(家族は)ある日突然壊れてしまうこともあるんです」「だから家族一緒に笑っていられるって、すごく幸せなことなんです」というセリフは、やはり震災を念頭に書かれたものに思われてならない。
ここへ来て、新型ウイルスの感染拡大を防止するべく、政府の要請により多くの学校が休校し、イベントなどもあいついで中止されている。第7話で、文吾が見えない恐怖から子供たちを守るため、力ずくで小学校でのお楽しみ会を止めようとする姿を見ていたら、思わず、いま進行している状況と重ね合わせてしまった。ウイルス禍はまだまだ先行きが見えそうにないが、このドラマはせめて視聴者が希望を抱けるよう、結末では救いが待っていることを祈らずにはいられない。
今夜放送の第8話も、先週、多くの学校が休校に入る前日に放送された第7話に続き、家族で一緒に観るという方は多いことだろう。観終ったあと、お互いにどんな感想を持ったか、話してみるのも一興かもしれない。(近藤正高)
【一覧】「テセウスの船」1〜10話レビュー
オンエア情報
TBS
「テセウスの船ネタバレSP」
※放送は一部地域を除く
5月11日(月)深夜23:56〜24:55
5月12日(火)深夜23:56〜24:55
5月13日(水)深夜23:56〜24:55
5月14日(木)深夜23:56〜24:55
5月15日(金)深夜24:20〜25:20
5月18日(月)深夜23:56〜24:55
5月19日(火)深夜23:56〜24:55
5月20日(水)深夜23:56〜24:55
5月21日(木)深夜23:56〜24:55
5月22日(金)深夜24:20〜25:20