『エール』第15週「先生のうた」 73回〈9月23日(水) 放送 作・清水友佳子 演出:鹿島 悠〉

『エール』志村けんが久々に登場 行き場のない吟と好き勝手する音は対決 73話
イラスト/おうか

小山田、登場

73回の見どころは、重鎮作曲家・小山田耕三役の志村けんが久々に出てきたこと。撮影途中でコロナに感染して亡くなった志村けんの出番がまだあるのだと思うと嬉しい。

小山田もこのご時勢、「愛国歌謡」を作っている。
「私自らの音楽人生をこの日本国に捧げる覚悟です」とさえ言う。小山田は国のために音楽を作る。裕一も国からそれを期待されているが、どうなるんだろうか。

これまで何かと若き裕一を意識して、芽を潰そうしているのではないか疑惑もあった小山田だが、今後、裕一との全面対決が描かれるのだろうか、気になる。

軍からのOKが出ない

“軍馬に関する世間の関心を高める”映画『暁に祈る』の主題歌を頼まれた鉄男(中村蒼)だったが、何度も書き直しを要求されもう5回め。裕一の記録を越えてしまった。

ドラマのなかでは具体的に何を求められているのか描かれてはいない。
「軟弱過ぎ」ず、雄々しいものを求められているのだろう。書き直した馬の詩は、馬を女性に例えたような、馬の美しさを愛でるようなものになっていた。たしかに、さすがにこういうものではない気もしないではない。鉄男は「福島行進曲」といい、恋の歌が得意なのだろう。

「愛馬精神」「軍馬への関心」をどう描くか悩んでいると、おでん屋でひとり飲む白石(兼松若人)が戦場について語るのを耳にする。負傷して戦線から外れた白石は、戦場は地獄で「心を殺さないとやっていられない」と苦々しくつぶやく。
この白石との出会いが鉄男の歌詞を変えるか――と思ったら……

その後、6稿目の歌詞を見せると、ほかの作詞家に頼むと言われてしまう。いったいどんな歌詞を書いたのか。軍としては「国意高揚」が目的で、とにかく鉄男にはそれが足りないようだ。

音と吟が対立

裕一は鉄男が書かせてもらえないなら辞めると言う。そうなると推薦した関内智彦(奥野瑛太)の立場が悪くなる。困った吟(松井玲奈)音(二階堂ふみ)に頼みに来るが、裕一と智彦の問題に音が入ることができない。国防婦人会にも参加していないし、好き勝手をやっている音に吟は苛立つ。


たいてい、朝ドラの場合、主人公側が正義で、戦争になるとその正義が揺らいでいく。だからこそ頑張れと主人公を応援したくなることが常だった。ところが、『エール』の場合、吟のほうに同情の余地がある気がしないか。

軍人である夫のためになることをやっているのだが、婦人会では上の佐々木克子(峯村リエ)にこきつかわれ、癒やしを求めてこっそり紅を塗ると、夫に「ただでさえ軍人の家はいい暮らしをしていないかと妬まれやすいから、目立ってはならない」と注意され……と吟には行き場がない。

ドラマの序盤からずっと自分の求める道を自由に進んできている音と比べると、なぜかここまで自分を抑制している吟が可哀想になってしまう。

吟のつらい思いなどお構いなしに、音は音楽教室で充実感を得ていく。


「こういう時代だからこそ音楽が必要なんだよ」(音)

『エール』志村けんが久々に登場 行き場のない吟と好き勝手する音は対決 73話
写真提供/NHK

裕一と音の関係性が素敵

音楽教室に入った梅津弘哉(外川燎)とその母トキコ(徳永えり)と家族ぐるみの付き合いを深めていく音。音痴でハーモニーを壊してしまう弘哉だったが、ハーモニカを吹くことで合唱に加わることができた。

弘哉の視点が入ったことで、音と裕一からは見えなかった華(田中乃愛)はけっして音楽が嫌いなわけでなく、母が生徒たちのものになってしまったようで寂しいだけという本音がわかる。

『エール』では子育ても仕事も、音と裕一はいい塩梅で分担しているように見える。家事もたしか以前、掃除は裕一がやっているというセリフがあった。音と裕一の夫婦関係の良さは、夫も家で仕事をしていて、常に夫婦で家にいるところを、いつも同じ部屋で並んでいるだけでなく、手前の部屋の中にいるどちらかと、向かいの部屋や庭にいるもう一方を描いているところ。

73回は、音が音楽教室をやっているとき、裕一が庭で華と一緒に見ているとか、音とトキコが話している部屋の向こうの縁側で、裕一と弘哉がハーモニカを吹いている。
72回でも、音楽教室中、庭で裕一と華が遊んでいる。

ベタベタと常に一緒にいるわけではなく、すこし離れながらも、心はつながっている。これこそ「浜辺の歌」の二部形式を、画で再現しているかのように見える。

夫が家にずっといることはなかなかないけれど(コロナ禍でリモートワークになったから増えているかもだが)、このような夫婦関係は理想的だなと感じる。あれ、朝ドラ国防婦人会、発動しないなあ……。

今日の名セリフ

「国防は台所から」(佐々木克子)

ものは言いようのいい例。家庭の主婦たちにも「愛国」の意識をもたせるために、こんな言葉を広めているのだなあと思う。
台所を任されている主婦たちのプライドをくすぐりながら、愛国に尽くす気持ちにさせるよくできた言葉である。わかりやすく単純化され、世に広がったものには用心しないといけないと心に留めておきたい。
(木俣冬)

※次回74話のレビューを更新しましたら、以下のツイッターでお知らせします。
お見逃しのないよう、ぜひフォローしてくださいね。

【エキレビ!】https://twitter.com/Excite_Review
【エキサイトニュース】https://twitter.com/ExciteJapan

主な登場人物

古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。
関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。

古山華…田中乃愛 古山家の長女。
関内梅…森七菜 音の妹。文学賞を受賞して作家になり、故郷で創作活動を行うことにする。
田ノ上五郎…岡部大(ハナコ) 裕一の弟子になることを諦めて、梅の婚約者になる。

関内吟…松井玲奈 音の姉。夫の仕事の都合で東京在住。
関内智彦…奥野瑛太 吟の夫。軍人。

廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
杉山あかね…加弥乃 廿日市の秘書。
小山田耕三…志村けん 日本作曲界の重鎮。モデルは山田耕筰。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作を持つ人気作曲家。コロンブスから他社に移籍。モデルは古賀政男。

梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。謎の過去を持つ。

佐藤久志…山崎育三郎 裕一の幼馴染。議員の息子。東京帝国音楽大学出身。あだ名はプリンス。モデルは伊藤久男。
村野鉄男…中村蒼 裕一の幼馴染。新聞記者を辞めて作詞家を目指しながらおでん屋をやっている。モデルは野村俊夫。

藤丸…井上希美 下駄屋の娘だが、藤丸という芸名で「船頭可愛や」を歌う。

御手洗清太郎…古川雄大 ドイツ留学経験のある、音の歌の先生。 「先生」と呼ばれることを嫌い「ミュージックティチャー」と呼べと言う。それは過去、学校の先生からトランスジェンダーに対する偏見を受けたからだった。

『エール』志村けんが久々に登場 行き場のない吟と好き勝手する音は対決 73話
写真提供/NHK

番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司 ※7週より原案クレジットに
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」

制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和