『エール』第16週「不協和音」 76回〈9月28日(月) 放送 作・清水友佳子 演出:鹿島 悠〉

裕一、ニュース歌謡を作る
昭和16年、太平洋戦争がはじまったことで、世の中の戦時色が深まっていく。裕一(窪田正孝)は戦時歌謡のほか、ニュース歌謡も作るようになった。ニュース歌謡とは、戦果を伝えるニュースの内容を盛り込んだ、短時間で作詞作曲をし、生演奏で流す曲のこと。【レビュー】『エール』第16週「不協和音」毎日レビュー<あらすじ>
裕一が作曲した曲のタイトルがずらずらと映し出される。裕一は、以前はあんなになかなか曲ができなかったのに、いまや、3時間で1曲作るような多作の人になっている。人間、追い詰められると変わるものなのか。あるいはコツを覚えたのかもしれない。もともと才能があるから、あふれるように曲が出てくるようになったのだろう。仕事する顔には貫禄すら出てきたように見える。
そして昭和18年。人々の暮らしは苦しくなり、食べ物も配給になり、毎日お芋ご飯になりながらも、音(二階堂ふみ)の音楽教室は続いている。でも辞めることになる子も出てきた。華も弘哉も成長して、子役から俳優が変わっている。
発表会も戦争中に不謹慎だとできなかったと音が振り返る。せっかく久しぶりに歌えると思ったのに残念そうな気持ちが、音の口調から感じられた。
久志、出征する
そんな折、久志(山崎育三郎)に召集令状が届いた。「壮行会なんて絶対やらなくていいから」という久志の心の裏側「やれ」を読み取った裕一と鉄男(中村蒼)は壮行会を行う。店名を「バンブー」から「竹」に改めた梶取夫妻は、お菓子の原料もないので、おからでクッキー(敵性語だけどいいの?)を作って持ってくる。古山家の応接間で、久志はまずずっこけ芸をやったあと、歌を歌う。送る側が歌うのではなく、歌手の久志が自分で朗々と歌う不思議な光景。これを聞いている人たち各々の表情は注目に値する。裕一は眉間に皺をよせた険しい顔。鉄男はクール、保(野間口徹)はちょっと悲しそうな顔に見える。音と恵(仲里依紗)は久志に関するおしゃべり。華(根本真陽)はちょっとぽかんとして見える。
今回、朝ドラでここまで戦争に踏み込むことは滅多にないと言われているのは、男性主役というのもあるだろう。男性視点で戦争を描くのと女性視点ではやはり違う。
吟の夫・智彦(奥野瑛太)は早く前線に出たいと裕一に語る。出征した藤堂先生(森山直太朗)はどうしているのだろう。先生もそうだけれど、この時代、戦争に行くことに男としての価値があったのだろう。だからこそ、久志もただ歌を歌い、何も言わずに出征していく。

「いま、楽しいですか」
成長した弘哉(山時聡真)は、裕一の肩をもみながら、父が死んでから女手ひとつで自分を育ててくれた母の話をする。「自分の道は自分で選ばなきゃ」と言う裕一に、「裕一さん、いま楽しいですか」と問う弘哉。「楽しいか楽しくないかっていうより、う〜ん……とにかく必死っていうのが正直なところかな〜」と答える裕一。楽しい道を選びたいけれど、いまは楽しいとは考えていられない状況。みんなこの状況を必死で生きている。久志、戻ってくる
久志が出征してすぐに、身体検査で落とされて戻って来た。身体検査と聞いて、ちょっとシリアスな顔をする裕一と鉄男。問い詰めると、なんと痔だった。久志はこれを機会に福島に戻り、年老いた親の面倒を見ながら慰問にまわると言う。鉄男が、作詞家の仕事をいったん休んで、昔の上司の手伝いで、新聞記者に戻ることになった。
ここでははっきり語られないが、自由な音楽活動ができなくなったからではないだろうか。久志はともかく、鉄男は性分として戦時歌謡の詞を書くことは気が進まないのではないかと想像できる。
こういうとき言葉の仕事は難しい。隠喩の妙を味わうとか行間を読ませるというような表現は求められず、明確な言葉を求められる。その点、曲だったら、勇ましいとかそうでないとか感じ方はあるとしても、「露営の歌」のように短調でもの悲しさがありながら、人の心を捉えることができれば通用する。
鉄男が新聞記者に戻る気持ちはなんとなくわかる。おそらくジャーナリズムだって制限があったと思うが、意に染まない国威高揚を盛り上げる詞を書くよりも、事実を取材して書くほうが気が楽だと思う。
せっかく福島三羽ガラスで仕事ができたが、3人は再びバラバラに。いつか、心から楽しい曲を3人で作ってほしい。
なんだか暗い話になってきているところを、久志がコメディリリーフとして頑張っている。壮行会のときに見事にずっこける動きをわざわざやるのも重労働だろう。また、痔持ちの役という思いきった設定だと思うが、これは痔持ちの人に、隠さなくてもいいよという心遣いなのであろうか。
(木俣冬)
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主な登場人物
古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。
古山華…田中乃愛 古山家の長女。
関内梅…森七菜 音の妹。文学賞を受賞して作家になり、故郷で創作活動を行うことにする。
田ノ上五郎…岡部大(ハナコ) 裕一の弟子になることを諦めて、梅の婚約者になる。
関内吟…松井玲奈 音の姉。夫の仕事の都合で東京在住。
関内智彦…奥野瑛太 吟の夫。軍人。
廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
杉山あかね…加弥乃 廿日市の秘書。
小山田耕三…志村けん 日本作曲界の重鎮。モデルは山田耕筰。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作を持つ人気作曲家。コロンブスから他社に移籍。モデルは古賀政男。
梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。謎の過去を持つ。
佐藤久志…山崎育三郎 裕一の幼馴染。議員の息子。東京帝国音楽大学出身。あだ名はプリンス。モデルは伊藤久男。
村野鉄男…中村蒼 裕一の幼馴染。新聞記者を辞めて作詞家を目指しながらおでん屋をやっている。モデルは野村俊夫。
藤丸…井上希美 下駄屋の娘だが、藤丸という芸名で「船頭可愛や」を歌う。
御手洗清太郎…古川雄大 ドイツ留学経験のある、音の歌の先生。 「先生」と呼ばれることを嫌い「ミュージックティチャー」と呼べと言う。それは過去、学校の先生からトランスジェンダーに対する偏見を受けたからだった。

番組情報
連続テレビ小説「エール」◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り
原案:林宏司 ※7週より原案クレジットに
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和