『エール』第16週「不協和音」 78回〈9月30日(水) 放送 作・清水友佳子 演出:鹿島 悠〉

五郎と梅がやって来た
豊橋で花婿修業(?)中の五郎(岡部大)が豊橋から東京にやって来た。関内家の馬具製造業を継ぐため、修業して7年、職人の棟梁的存在・岩城(吉原光夫)の試験に一向に受からない。梅(森七菜)と結婚の見通しが立たないのだと相談していると、梅が血相変えて乗り込んでくる。極めて深刻な劇伴がかかるわりには、それほどのことではなく、蓋を開けたら五郎と梅の痴話喧嘩的なものだった。「私と結婚したくなくなったんでしょ」と詰め寄る梅に「おっかねえんだ」と理由を述べる五郎。おっかねえって梅が? と思ったら、試験に対する緊張のことだった。岩城がおっかないという意味もあるだろう。
「本番に弱い人っているよね」と裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)は五郎の味方をする。幼少期、あがり症で吃音だった裕一には、五郎の気持ちは痛いほどわかるのだろう。好きな曲を思い浮かべるといいと助言する。
それにしても7年も経ったとは感慨深い。
3姉妹の家庭それぞれ
吟(松井玲奈)がやって来て、関内家三姉妹が久々集合。3人で台所に立ち、料理を作る。眼福。吟の夫・智彦(奥野瑛太)は前線に出征することが決まった。軍人の家だから美味しい魚が手に入る。
梅の家はキリスト教なので、特高に監視されている。梅の作家業もこのご時勢、言論統制されている。音の家は、裕一が戦時歌謡を作っていて、どちらかといえば軍寄り。音は、報国音楽協会から音楽挺身隊に勧誘されている。
音と梅はお国のために自分のやりたいことを我慢することに疑問を感じるが、吟だけは、いまは国民全員が国のために働くべきだと主張する。
「お国を批判する人は裁かれても仕方ない」と吟。
「表現の自由は侵されていいものじゃない」と梅。
「人が心で思うことって止めれんじゃないかな。一致団結とか一丸となってとか言うけれど、人はみんなそれぞれ違う考えがあって当たり前というか……」と音。
サブタイトルの「不協和音」は三人姉妹の「不協和音」でもあり、言い得て妙なサブタイトルだ。
令和の感覚からいったら、お国のために音楽や文学がコントロールされるべきではないと思うものの、あまりにも、いつも吟ひとりが関内家のなかで浮いている印象で、そんな彼女に心を寄せてしまう。

音が音楽挺身隊に参加する決意を
音と梅は、一致団結に反対という点では同じだが、全部が全部同じ考えでもない。音楽挺身隊に興味をもたない音に、梅は「その程度なんだ、お姉ちゃんの歌に対する気持ち」と言う。梅としては、せっかく歌が歌える場所があるのになぜ歌わないのか、そのうち戦争がもっと激化したらもっと歌えなくなると心配している。その言葉を受けて音は、音楽挺身隊に入ろうかと思い始める。吟と梅は意見は違うが、確固たる信念を持っている点では同じ。いまや、音だけが揺れている。裕一の曲が好きで、その曲に励まされてきた五郎は、裕一が戦意高揚の歌を作ることに疑問を投げかける。「書きたいことが書けなくなるって大変ですよね」と言う五郎に「求められるものには全力で応えたいと思っている」と裕一が答えるが、その表情にはどこか迷いがある。朝ドラに多い、AとBという二項対立でなく、吟と梅の間に、裕一と音を置くことで、中庸を目指すことは悪くない。
音の声が前よりか細くなったことに対して、梅は以前よりもハキハキしゃべるようになった。音は歌を忘れたカナリアで、梅は作家として活動しているので発する言葉が増えたということか。
現実的に考えると、森七菜も民放での主演ドラマが放送される今、一般的なドラマの発声を身につけてしまったのかもしれない。あの独特なふわりとした喋り方も捨てがたい。
朝ドラ国防婦人会
朝ドラではたいてい主人公の言動に反対しがちな国防婦人会。それに合わせて、ドラマに疑問を感じたとき「朝ドラ国防婦人会」として囁やきます。五郎はふだん、納品できる品質の商品はちゃんと作ることができて、腕がいいと認められていながら、いざ試験になると受からない。気持ちの問題なのだろうけれど、普段はちゃんとできるなら、もう7年も経っているのだし、結婚を許可してもいいのでは……。けじめなのだろうけれど。そして、そこがドラマの都合なのだろうけれど。
ただ、汗だくで裕一の家に来て居間に通されたとき、汗を拭いているつながりは良かった。
それと、そこまで厳しく監視されるほどのキリスト教信者だったとは大丈夫なのか、関内家! これだけでエピソードをいくらでも作ることができそうだ。
なにより気になるのは、吟は、夫が軍人でいざというとき、戦場に出てしまうことを覚悟していたと言うが、それで婿養子の意味はあるんだろうか。跡継ぎには五郎が登場したから良かったとはいえ、吟は何を考えているのやら。
構造的に三姉妹をそれぞれ違う立場に描いて対比させようとしたことで歪が出たことを感じる。
(木俣冬)
【前回レビュー】『エール』77話 窪田正孝の結果から逆算しない演技 この瞬間の裕一を演じる窪田の今後の気持ちに注目
【レビュー】山崎育三郎 “華がある”存在そのもの 「ミュージカル界の王子」と称される由縁
【レビュー】古川雄大 「エール」で強烈インパクト 絢爛豪華な物語世界に深く誘ってくれるミュージカル俳優
※次回79話のレビューを更新しましたら、以下のツイッターでお知らせします。
お見逃しのないよう、ぜひフォローしてくださいね。
【エキレビ!】https://twitter.com/Excite_Review
【エキサイトニュース】https://twitter.com/ExciteJapan
主な登場人物
古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。
古山華…根本真陽 古山家の長女。
関内梅…森七菜 音の妹。文学賞を受賞して作家になり、故郷で創作活動を行うことにする。
田ノ上五郎…岡部大(ハナコ) 裕一の弟子になることを諦めて、梅の婚約者になる。
関内吟…松井玲奈 音の姉。
関内智彦…奥野瑛太 吟の夫。軍人。
廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
杉山あかね…加弥乃 廿日市の秘書。
小山田耕三…志村けん 日本作曲界の重鎮。モデルは山田耕筰。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作を持つ人気作曲家。コロンブスから他社に移籍。モデルは古賀政男。
梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。
佐藤久志…山崎育三郎 裕一の幼馴染。議員の息子。東京帝国音楽大学出身。あだ名はプリンス。モデルは伊藤久男。
村野鉄男…中村蒼 裕一の幼馴染。新聞記者を辞めて作詞家を目指しながらおでん屋をやっている。モデルは野村俊夫。
藤丸…井上希美 下駄屋の娘だが、藤丸という芸名で「船頭可愛や」を歌う。
御手洗清太郎…古川雄大 ドイツ留学経験のある、音の歌の先生。 「先生」と呼ばれることを嫌い「ミュージックティチャー」と呼べと言う。それは過去、学校の先生からトランスジェンダーに対する偏見を受けたからだった。

番組情報
連続テレビ小説「エール」◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り
原案:林宏司 ※7週より原案クレジットに
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和