
世界最大規模のアイドルフェス「TIF」にバーチャルステージが新設
2010年の初開催以来、年々規模を拡大し、夏恒例の大型フェスとなった「TOKYO IDOL FESTIVAL(TIF)」。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により今年は開催中止。その代替として、10月2日(金)〜4日(日)にオンライン形式の「TOKYO IDOL FESTIVAL オンライン 2020」が開催された。【関連記事】バーチャルアイドルときのそらに聞く「春の曲が詰まった」ミニアルバム『My Loving』
また、初の試みとして、オンライン形式の特性を生かしたバーチャル空間のステージ「バーチャルTIF」が新設。全24組59名のバーチャルアイドルやVTuberが出演した。
2014年以降ほぼ毎年、撮影担当としてTIFへ取材に行っていた筆者だが、今年はバーチャルTIFに注目。少し遅くなってしまったが、3日間で特に印象深かったステージや出演者を中心にレポートしていく。
ホロライブのときのそらは、メインMCの大役を完遂
バーチャルTIFの全14ステージ中、半数を超える8ステージに出演し、司会にトークに歌にと大活躍したのがバーチャルTIFメインMCに抜擢されたときのそら。人気事務所「ホロライブプロダクション」のバーチャルアイドル第1号で、先月デビュー3周年を迎えるなどVTuber界でもキャリアの長さはトップクラス。ライブやイベントへの出演経験も豊富で、初日のグランドオープニングの開幕直後、音響トラブルで一時配信が中断した時も「ライブにトラブルは付きものですから」と落ち着いた対応を見せた。明るく人当たりの良い性格も、複数の事務所やグループのメンバーが混在するステージのMCにぴったりで、グランドオープニングなどで一緒にMCを務めたバーチャルTIFチェアマンのRinoちゃん(=指原莉乃)とも、すぐに打ち解けた様子。今後も、大規模イベントでの活躍の機会がますます増えそうだ。
今回はMCがメインで、ソロでの歌唱はエンディングステージでの1曲だけだったが、「ホロライブプロダクション」の仲間である夏色まつり、星街すいせいのライブにはサプライズゲストとして登場。レアな組み合わせのデュエットでステージをさらに盛り上げた。

また、エンディングでは、お互いを“バディ”と認め合う親友の富士葵ともデュエット。歌って踊るアイドル本来の魅力でも、初めてのTIFで存在感を見せた。
えのぐは、2度目のTIFでも熱いパフォーマンスを披露
ほとんどのVTuberとバーチャルアイドルがTIF初出演だった中、唯一2度目の出演だったのが、昨年、バーチャル勢としては初となるTIF出演を果たしたVRアイドルえのぐ。9月にリリースした1stアルバム『真っ白な夢の世界』を引っさげての出演となった今年は、2日目のライブステージに登場。アルバムにも収録されている5曲を披露し、ラスト曲前のMCでは、鈴木あんずが今年のTIFに賭けた思いを語った。「今回のバーチャルTIFで私たちえのぐは、バーチャルアイドルでも歌やダンスのパフォーマンスで、ライブを見てくださる方々の心を熱くさせたり、感動させられるアイドルという存在になれることを証明しに来ました!」

言葉だけでなく、パフォーマンスからも“バーチャル”という言葉の一般的なイメージを越える熱さを放つえのぐの4人。2018年に前身の「あんたま」として活動を始め、地方巡業などの下積みを経てバーチャル界を代表するアイドルに成長したことなどドラマ性も強く、その動向を追いかけたくなるタイプのグループだ。
2年連続のTIF出演により、バーチャル、リアルを問わず、より多くのアイドルファンにその魅力を知らしめたえのぐ。「VRアイドルを当たり前の存在にする。その上で、世界一のVRアイドルになる」という壮大な目標の実現にも、また一歩近付いた。
リアルアイドル&バーチャルアイドルのコラボも実施
バーチャルTIFの出演者は、基本、VTuberとバーチャルアイドルだが、毎日1枠ずつリアルアイドルとのコラボステージも開催された。2日(金)は、えのぐが声優&アイドルのハイブリッドユニットi☆Risの若井友希(ソロアーティストとしての活動名は友希)と共演。友希が作詞作曲を手掛けた、えのぐの1stアルバム収録曲「Dreamin' World」などを一緒に歌ったが、映像的な違和感はほぼ感じない。i☆Risの大ファンでもあるえのぐの白藤環が、友希から熱いファンサを受けて、テンション高まる姿からも生の感情がはっきりと伝わってきた。
3日(土)は、虹のコンキスタドールのリーダーでダンスの得意な的場華鈴が、歌唱力に定評のあるVTuber、あにまーれの宗谷いちかと、ピンキーポップヘップバーンにダンスを指導。アイドルのダンスレッスンを観ているようなレアな体験だった。
4日(日)は、Task have Funの熊澤風花、白岡今日花と、VTuberユニットHoney Strap(ハニーストラップ)の周防パトラ、西園寺メアリが共演。熊澤と白岡は、バーチャルの身体でセクシーポーズ対決やライブも行った。2人が使ったアバターは、ハニーストラップの所属する774inc.が販売している「量産型ななし」というメイド姿の3Dモデルで、可愛くはあるが個性薄めのキャラクター。ところが、人気アイドルの“魂”が宿ると魅力倍増。

特にセクシーポーズ対決では、2人の動きやポーズによって、没個性のななしが一瞬のうちに可愛く魅力的に変わったことに驚かされた。
テレビ番組などでもリアルの出演者とバーチャルの出演者の共演は増えているが、このコラボステージはアイドルならではの企画ばかりで、双方の魅力が伝わる楽しい試みだった。
来年のTIFでもバーチャル勢の活躍に期待
筆者は、日常的にバーチャルアイドルやVTuberの活動に注目し楽しんでいるが、誕生して数年のまだ新しい文化ゆえに、食わず嫌い的な反応を示されることも少なくない。しかし、共通のチケットでリアルとバーチャル両方のアイドルのステージを観ることができた今年のTIFは、バーチャルアイドルたちの魅力がさらに多くの人に広まる大きなきっかけにもなったはず。今年のTIFの全出演者の中でも、おそらくトップクラスの難度とクオリティの高さを誇る、4人組ユニットまりなす(仮)のダンス。企業に属さない個人勢としてデビューしながら、今や人気事務所ホロライブプロダクションを牽引する人気メンバーの1人となった星街すいせいの歌唱力。バーチャル空間から飛び出してきそうなほどに“生”な存在感と王道アイドルオーラを放つえのぐの熱いパフォーマンス。

彼女たちのステージを今年のTIFで初めて観た人は、きっとそのパフォーマンスに驚き、予備知識ゼロでもライブを楽しめたはず。
世界規模のアクシデントをきっかけに、バーチャルとリアルのアイドル界が急接近した今年のTIF。その交流は、今後もより深く広くなっていくだろう。来年のTIFがどのような形式で開催されるのかは未定だが、リアル会場での開催が実現したとしても、今年のように様々なバーチャルアイドルのステージもまた見たい。
(丸本大輔)
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