
コロナ禍後の日本が舞台 『姉ちゃんの恋人』1話
10月27日(火)からはじまった『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジ系 毎週火曜よる9時〜)は、「寂しい人」に寄り添うドラマだった。2020年、ハロウィーンの頃の東京。ホームセンターで働く安達桃子(有村架純)と配送部の吉岡真人(林遣都)が偶然、出会う。
桃子は、9年前、事故で両親を亡くし、3人の弟・和輝(高橋海人)、優輝(日向亘)、朝輝(南出凌嘉)の面倒を見ている。肝っ玉姉ちゃんで、一見、寂しそうに見えないが、父母の事故死のショックはいまだ癒えず、テレビでそういう事件があると気になってしまう。弟はそれを察知してテレビを消すという配慮をする。
真人は、3年前に父を亡くし、母・貴子(和久井映見)とふたり暮らし。なんらかの事件を起こした過去があるらしく、保護司・川上(光石研)がついて、就職もなかなかしづらく、世間体も気になる。それが彼の人生に影を落としている。
昼間に働いている桃子と、夜勤の真人。交わることのないはずだったふたりが、たまたまホームセンターのクリスマス企画会議で一緒になる。キラキラを楽しめない寂しい人のためのクリスマスがあっていいのではないか。そのためにホンモノのもみの木を飾りたい。ふたりはまったく同じことを提案する。
<今 この星に暮らす僕らは
みんな深い傷を負ってしまっていて。
誰かとつながることに臆病になってるのかもしれない。
でも きっと僕らには素敵なことが待っている。
そう信じて生きていないとダメだよね。
そうだよね 姉ちゃん>
弟・和輝の桃子に向けたナレーションは、桃子のみならず、この星に暮らす人々へのメッセージに聞こえてくる。
そう、『姉ちゃんの恋人』の舞台は2020年の秋で、コロナ禍後の日本である。人々はマスクをしていないし、コロナという言葉は出てこない。それでも、私たちがピンとくる描写がそこそこにある。みんな、手を洗うし、出入り口で消毒する。
そして、セリフには、2020年のムードを表すものがこんなにもある。
「今年はさ ハロウィーンってムードになるかな〜ってみんなよくわからないまま準備だったしね」
「(居酒屋)ずっと行ってないよねえ」<売り場の上司・日南子(小池栄子)>
「(飲み会)超久々なんだもん」<桃子>
「あの頃寂しかったもんな、夜景。なんかな、5月ごろとか」
「そんなの(ハロウィーン)あると思ってなかったよな、今年は」<真人の上司・高田(藤木直人)>
「(あの頃何考えていたか)仕事なくなったらどうしようかって」<真人>
「(最後に飲み会したの)お花見がなくなってその前だから」<ホームセンターの従業員・沙織(紺野まひる)>
「新年会以来ですよ」<ホームセンターの従業員・臼井(スミマサノリ)>
「もうみんな(フェスが)中止とか延期になっちゃって、単なる働き者ですよね」<ホームセンターの従業員・武内(那須雄登)>
「我が家は密で密で。
「自粛中に料理好きになっちゃって」<桃子>
「物が動いているのかな」
「うれしくなるんだよね、荷物が増えると」<真人>
「うちみたいな旅行関係は厳しいっす」<桃子の親友・みゆき(奈緒)>
「うちの会社いい会社だから(中略)5万円特別手当くれたんだよ」<桃子>
「国から来た10万あるじゃん。なんとかわたしのぶんくすねようとしやがって。最低だよ」<みゆき>
「今年はね、いろいろあった。今はまだ終わってないけど」<日南子>
「密」「自粛」は直球なほう。実際、マスクを買いに群がる客の描写もあった。この世界は、その年の春夏にコロナ禍があって、みんなそれぞれ深い傷を負ったあとの物語だ。
ホームセンターの従業員たちがやたらと明るく優しいところは、どこか傷を舐め合っているように見える。傷つけあうより舐めあうほうがマシ。でも、コロナ禍は、舐めることさえやりにくい。なにしろ人と人とが近づけないのだから。従業員たちの空元気のような明るさは、触れ合えない分、会話で愉快に振る舞っているような、そんな感じさえする。
影が薄いと言われる臼井、幸薄いと言われる沙織、悩んでばかりの山辺(井阪郁巳)。
あらゆる壊れたものを直し、復活を願うドラマ
一方、真人と母の会話は静かだ。ホームセンターの人たちや安達家の喧騒のようにはしゃいではいない。けれど、お互いを思いやって踏み込まないように慎重に話している。誰もかれもが相手を傷つけないように、絶対に地雷を踏まないように気を使っている。優しい世界だけれどどこか息苦しい。まさにいまの日本の空気、そのものである。
2020年の日本は、コロナ禍も辛かったけれど、ほかにも日本人を圧迫していることがある。あらゆることがハラスメントになって、どうやって人と接していいか難しい時代になった。この原稿を書いている今日はSNSで「あだ名を禁止することの是非」が問われている。
今、我々がソーシャルディスタンスに気を使わなくてはいけないのは身体的なことだけではない。
だから、安達家で、弟と桃子が服を共有していたり、桃子と親友のみゆきが上下でジャージを着たペアルック的な感じでアイスを食べながら話したり、そんな風景は染みる。真人が夜勤明けで見た朝の空も美しい。なにげない瞬間が人を救うのだ。

休みの日にたまたま出会った桃子と真人は川沿いで語らう。「あっ! とか、えっ! とか、いやあとか多いですよね」と歯に衣着せない桃子に、困りつつ、すこし楽になったであろう真人。そのときのくしゃとした彼の笑顔は、閉ざされた小さな部屋に風が通ったようだった。やわらかな笑顔になっていく真人。
売り場に飾っていた地球のマスコットが壊れているのを見つけた真人がそっと直してくれたことを桃子は喜ぶ。
「壊れかけたけど、ほら、地球復活しました」
第1話はこのセリフに尽きる。
2020年の終わりに生まれた、あらゆる壊れたものを直し、復活を願う、そんなドラマがはじまった。
(木俣冬)
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番組情報
カンテレ・フジ系『姉ちゃんの恋人』毎週火曜よる9:00〜
公式サイト:https://www.ktv.jp/anekoi/