『エール』第20週「栄冠は君に輝く」 100回〈10月30日(金) 放送 作:清水友佳子、演出:倉崎憲〉

甲子園の想いに泣いた
「自分にできることは未来ある若者を応援することだ」【前話レビュー】久志を苦しめる「戦犯」と呼ばれたトラウマ 「戦時歌謡」とはなにか
戦争が終わって「栄冠は君に輝く」が甲子園で歌われたのは、昭和23年、1948年。ちょうど戦後復興のさなか。くしくもこのドラマが放送された2020年、コロナ禍によって、毎年行われていた甲子園の高校野球大会が中止になった。
試合は一期一会。今年出られなかったら卒業になってしまう選手もいる。涙をのんだ人たちがたくさんいた。そんな人たちの代わりのように「栄冠は君に輝く」が流れ、野球の試合の場面が描かれた。
時代は戦後だが、現代にも見え、ありえたかもしれない希望の世界が、見る者に力をくれた朝だった。
朝ドラ名物「立ち聞き」出た
朝一新聞の大倉(片桐仁)に、「栄冠は君に輝く」の歌手として、戦時歌謡のイメージのある久志(山崎育三郎)はふさわしくないのではないかと渋られたにもかかわらず、裕一(窪田正孝)は久志に歌ってほしいと頼みに行く。だが久志は首を縦にふらない。ここまで頑なな心は、裕一だけでは動かせない。「夜更けの街」を作った池田(北村有起哉)に次ぐ、他者の力が必要になる。寓話の「大きなカブ」みたいなものである。「大きなカブ」とは、文字通り大きなカブを抜こうとして一人では抜けず、次々手助けする人が現れて、みんなで力を合わせて引っこ抜くお話。
つぎは妻・音(二階堂ふみ)の登場だ。
裕一は、久志のことを思って、戦時歌謡の歌手だから渋られたことは話していない。「君を推薦した」とだけ言った。一方、音はいっさいがっさい話してしまう。「同情しないでほしい」と言っている久志に逆効果ではないかと思いきや、これが功を奏す。

音、久志を羨ましがる
音は、裕一が久志の歌の才能を高く買っていることを「羨ましかった」と言う。歌をやっている音らしさが出たセリフだ。今の音はすっかりおとなしく専業主婦のようになっているが、もともとは、自分も仕事をもって夫と並んで歩きたいと思ってきた人物である。本当は夫の曲で自分が歌いたくて歌いたくて仕方ないだろう。ところが裕一はいっこうに自作の歌手に妻を推薦しようとはしない。ここ、重要ポイントである。
久志は音と同じ音楽学校の先輩で、ともにレッスンしてきて、音が妊娠して晴れ舞台をふいにしたことも見てきているから、彼女が羨ましいと言うことで、それだけ裕一の心がこもった曲と、久志への信頼感の説得力は増大する。
でもまだ久志は動かない。そこで裕一は――。
甲子園へーー
「また甲子園に行ったの?」と華(古川琴音)。裕一は、久志を連れて甲子園に行き、足を失い野球の夢を絶たれた「栄冠は君に輝く」の作詞者・多田良介(寺内崇幸)の話をし、彼の絶望からの再生を、戦争からの絶望からの再生を、歌にこめてほしいと説く。「紺碧の空」でも足の負傷で野球を諦めた人物への想いが綴られ、「栄冠は〜」の先取りをしていたのだが、『エール』の世界線でも「栄冠〜」の作詞家は足の怪我で野球を断念していた。これもまた大事なことを繰り返すリフレイン手法。
『エール』がリフレインを多用するのは、物語が、主人公たちのものだけではないという意味の現れだろう。「どん底まで落ちた我々にしか伝えられないものがあるって信じている」という裕一。どん底に落ちたのは、裕一だけじゃない。
「苦しめてしまって本当に申し訳なかった」
裕一は、久志の堕落は裕一が戦時歌謡に誘ったからだと思っていて、それを謝罪する。主人公として裕一はすべての責任を背負わされている。傷ついて、この辛さを誰かのせいにしたくて、誰かにちゃんと謝ってほしくて、そんなひとたちの想いを、裕一が受け止めている。
「頑張ったね、頑張ろうね。一生懸命な姿見せてくれてありがとうね」
これは甲子園球児のみならず、この世界に生きてる全ての人達が欲している言葉でもある。裕一は、すべての罪をかぶり、すべての愛を注ぐ。まるで神様のようである。
「おまえじゃなきゃダメなんだよ」
裕一の投げたボールを掴んだ久志はついに歌う。
その歌は、多くの人々の心を高ぶらせる。甲子園の野球の試合に参加する者、見る者、ラジオで聞く者(「紺碧の空」編に出た三浦貴大演じる田中も再登場)、すべての人達が、ひとつになった。
『あさイチ』に山崎育三郎
この日の『あさイチ』に山崎育三郎が出演。野球少年だった話もしていた。甲子園の歌を歌う歌手は、野球少年でミュージカル俳優の山崎育三郎がふさわしい。この回のために彼がいたといっても過言ではない。やってきたことが報われる。山崎育三郎の姿に、そんな希望を見た。ちょうど、コロナ禍で『エール』の撮影が中止になって、ようやく再開した頃だったか、雑誌で山崎育三郎に取材した。『エール』の「プリンス」で大注目の山崎育三郎さんってどんな人? という趣旨の取材だったのだが、「こう見えても野球少年で男っぽいんです」と山崎はまず言っていた。私もちょうどバラエティーで野球選手のモノマネをしているのを見ていたので、キラキラのプリンスもできるけれど、アスリート的なたくましさもあって、久志の歌のように引き出しが多いのだと感じた。
そのとき将来は「子供が好きなので、彼らに歌やミュージカルを教えているんじゃないかな」と語っていたのだが、『あさイチ』で華丸大吉と近江アナに歌を教えている姿がハマっていて、とても明晰で、なるほど先生に向いていそうとナットクした。
『エール』にも『あさイチ』にも感じたこと。
未来をつくろう。
(木俣冬)
【98話レビュー】終わってもなお人々の人生に暗い影を落とす戦争 裕一の音楽は久志を救うことができるのか
【97話レビュー】史実をドラマ化する妙味 「紺碧の空」と「栄冠は君に輝く」のいいとこどり
【96話レビュー】裕一と音、智彦と吟 画面の向こうの配置に見るそれぞれの夫婦の関係性
■窪田正孝(古山裕一役)プロフィール・出演作品・ニュース
■二階堂ふみ(古山音役)プロフィール・出演作品・ニュース
■古川琴音(古山華役)プロフィール・出演作品・ニュース
■中村蒼(村野鉄男役)プロフィール・出演作品・ニュース
■山崎育三郎(佐藤久志役)プロフィール・出演作品・ニュース
■井上希美(藤丸役)プロフィール・出演作品・ニュース
■三浦貴大(田中 隆役)プロフィール・出演作品・ニュース
■仲里依紗(梶取恵役)プロフィール・出演作品・ニュース
■野間口徹(梶取保役)プロフィール・出演作品・ニュース
■片桐 仁 プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報
連続テレビ小説「エール」【放送予定】
2020年3月30日(月)~11月28日(土)
<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
原作・原案:林宏司
脚本・作:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
主演: 窪田正孝 二階堂ふみ
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和