
真人の諦念が切ない『姉ちゃんの恋人』2話
『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジ系 毎週火曜よる9時〜)の主人公・安達桃子(有村架純)は肝っ玉姉ちゃん。9年前、事故で父母を亡くしたあと、女手ひとつで、3人の弟・和輝(高橋海人)、優輝(日向亘)、朝輝(南出凌嘉)を養ってきた。勤務先のホームセンターのクリスマス会議で知り合った配送部の吉岡真人(林遣都)が醸し出す寂しさに共感を覚え心惹かれていく。【前話レビュー】『姉ちゃんの恋人』 1話 コロナで深い傷を負った「寂しい人たち」に寄り添う物語
1話の終わりで桃子が「吉岡さんみたいな人はバキバキした人と付き合ったりしたらいいんじゃないですかね、たとえば私みたいな」といきなりうっかり言う。
真人もまんざらではない。「あっ! えっ! いやあ」しか言えない彼にとって、なんでもバキバキ言う桃子は楽なのだと思う。彼女といるときの真人の笑顔はとても自然。心底、楽しそうに見える。桃子から来る業務のLINEもすごく嬉しそう。当人はアイコンもカスタマイズしてないくらいで返しもシンプル過ぎるけれど、LINEが励みになっている。
以前、犯罪を起こしていて、保護司・川上(光石研)がついている真人は、過去を引きずり、自分は幸せになれない、なってはいけないと思いこんでいて、いま、クリスマスの準備で、桃子と交流していることはほんの一瞬のことであり、仕事が終わったらまた代わり映えのしない生活に戻るのだと諦めてしまっている。
どんな罪かは詳細はまだわからないが、彼が背負っているものは重そう。その重さとは簡単に比べられないかもしれないとはいえ、真人のこの諦念は、いまの日本の空気に似ている。高度成長期、バブル期と違っていまの日本は貧しく、未来に期待できない。だからできる範囲で生きていこうと思っている若者たち。
<楽しそうに働く人が好きだ。
楽しいことばかりでない仕事に楽しみを見つけることができる人は、生きるという長くて地味な仕事にも楽しみを見つけることができる人だから。
いつかそう言っていたよね、姉ちゃん>
弟・和輝の桃子に向けたナレーションの“生きるという長くて地味な仕事”というワードが染みる。生きることって本当に骨が折れるから。
「克服なんて簡単にできることじゃないから」
『姉ちゃんの恋人』の登場人物たちは、その地味な仕事をすこしでも楽しくしようと、ささやかに、ささやかに工夫している。影が薄いとやたらとからかわれるホームセンターの臼井さん(スミマサノリ)が捨てられた椅子に座った写真を撮りためているのが最たるもの。捨てられた椅子――つまり座られるという本来の役割を果たせなくなった椅子に最後に座る。なんともやさしい供養である。
幸薄いと言われる沙織(紺野まひる)は、じつは夫も子供もいるリア充。そして似合わない冗談を言ったりする。人は見かけによらないということか。これには賛否両論ありそうだけれど、TPOをわきまえてリア充感を出さないように彼女なりに気遣っているのかもしれない。
ホームセンターの上司・日南子(小池栄子)は「頼って、甘えて」と桃子に過剰に語りかける。

そんな日南子が、配送部の白い歯がまぶし過ぎる高田(藤木直人)とBARで知り合い(臼井の椅子写真きっかけで!)、職場で偶然再会し、いい感じに。おとなのふたりは、距離の近づき方が比較的うまい。桃子と真人も高田と日南子のようになれるといいなあと思う。
桃子と真人も不器用ながら距離を縮めていくが、ふたりとも過去に負った傷が癒えていない。隠していた桃子の心の傷に気づき、傷を克服できないことを悔しがる桃子に、「克服なんて簡単にできることじゃないから。だからもうやめなよ、そんなの、やめな」と寄り添える。過剰な言葉があふれるなかで、真人の「やめな」という短いセンテンスに質量を感じる。
がんばって、元気な言い方で、妄想デートを語り出す桃子。明るければ明るいほど、もの悲しい。
桃子と真人の恋のゆくえや真人の過去以上に気になること
アクシデントのあった夜、桃子の家では、トマト鍋パーティーが行われていて、弟3人と、親友のみゆき(奈緒)と、おじさんが集まっていた。このおじさんが、真人の保護司・川上であることがちょっとした爆弾。アクシデントを真人に助けてもらい、家まで送ってもらって帰ってきた桃子。真人を誘って、川上と鉢合わせか? と思ったら、真人は家にあがらず帰っていく。途中で暗い顔になって……。
パーティーに遅れて帰ってきた桃子。食卓に、手つかずの鍋の材料を見てびっくり。みんな彼女が帰ってくるまで、ゲームなどしながら待っていたのだ。メンタルが弱っているとき、こういう不意打ちはやばい。危うく泣きそうになる。
日が変わって、クリスマス作戦まであと2日と、屋上と河原で同時にたそがれている桃子と真人が、同じ赤い車を見て、桃子の妄想デートを同時に妄想する。ささやかな、ささやかな妄想に、今度はふたりともすこし元気な顔になる。
こうしてクリスマス作戦当日が来て、「私たちの手で世界をちょっとだけ動かしましょう」と桃子はみんなに呼びかける。うん、きっと、世界をちょっとだけ動かすことは可能。
高田「がんばろうぜ」
日南子「がんばろう…ぜ」
小さな小さな、遠慮がちの、自信なさげなエールでも、小さな光になる。
さて、桃子と真人の恋のゆくえや真人の過去が気になるが、いま一番気になるのは、姿を現さないホームセンターの社長の正体。イケメン過ぎる高田が最有力候補だが、もしかしたら、影の薄い臼井さんという線もないだろうか。あと、黙って立っている警備員。それから、日南子。普通に、このドラマの制作協力をしているホリプロの社長(コロナ禍以降、積極的に発言している)みたいな人かもしれない。知らんけど。
沙織じゃないけれど人は見かけによらないもの。ただ、真人だけは、外見も内面も寂しく見える。
(木俣冬)
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番組情報
カンテレ・フジ系『姉ちゃんの恋人』毎週火曜よる9:00〜
公式サイト:https://www.ktv.jp/anekoi/