「克服なんて簡単にできることじゃないから」
『姉ちゃんの恋人』の登場人物たちは、その地味な仕事をすこしでも楽しくしようと、ささやかに、ささやかに工夫している。影が薄いとやたらとからかわれるホームセンターの臼井さん(スミマサノリ)が捨てられた椅子に座った写真を撮りためているのが最たるもの。捨てられた椅子――つまり座られるという本来の役割を果たせなくなった椅子に最後に座る。なんともやさしい供養である。
幸薄いと言われる沙織(紺野まひる)は、じつは夫も子供もいるリア充。そして似合わない冗談を言ったりする。人は見かけによらないということか。これには賛否両論ありそうだけれど、TPOをわきまえてリア充感を出さないように彼女なりに気遣っているのかもしれない。
ホームセンターの上司・日南子(小池栄子)は「頼って、甘えて」と桃子に過剰に語りかける。むやみに明るく、機関銃のようにしゃべるのは、岡田惠和の代表作『最後から二番目の恋』の小泉今日子が演じていたヒロイン千明のようだ。なにもかも達観し、自分の寂しさを自覚したうえの、過剰に明るく、先回りが空回りになりそうな危うさをぎりぎり律する身振り。桃子はさしずめ日南子の下位互換タイプであろう。

そんな日南子が、配送部の白い歯がまぶし過ぎる高田(藤木直人)とBARで知り合い(臼井の椅子写真きっかけで!)、職場で偶然再会し、いい感じに。おとなのふたりは、距離の近づき方が比較的うまい。桃子と真人も高田と日南子のようになれるといいなあと思う。
桃子と真人も不器用ながら距離を縮めていくが、ふたりとも過去に負った傷が癒えていない。隠していた桃子の心の傷に気づき、傷を克服できないことを悔しがる桃子に、「克服なんて簡単にできることじゃないから。だからもうやめなよ、そんなの、やめな」と寄り添える。過剰な言葉があふれるなかで、真人の「やめな」という短いセンテンスに質量を感じる。
がんばって、元気な言い方で、妄想デートを語り出す桃子。明るければ明るいほど、もの悲しい。夢を見ることは明るく素敵なことのはずなのに、どうしてこんなに哀しいのだろう。
前半のナレーションで、良い事言うなぁと感動してしまった。