『エール』第22週「ふるさとに響く歌」 107回〈11月10日(火) 放送 作:清水友佳子、演出:松園武大、丸山文正〉

『エール』モデル野村俊夫とまったく異なる村野鉄男の孤独な歴史を振り返る
イラスト/おうか

子供時代の伏線を回収

朝ドラ『エール』22週は、主人公・裕一(窪田正孝)の福島時代からの盟友・村野鉄男(中村蒼)のターン。

【前話レビュー】鉄男の心配をするあかね 朝ドラ名物「終盤、いろんな登場人物が結ばれていく」パターンか

母校で挨拶することになった鉄男は「たとえ今つらくとも、未来は変えられます。みなさんも人との縁を大切に、自分の道を切り開いていってください」と素敵なメッセージを子供たちに贈った。


これまでの鉄男の歴史を復習してみよう。

第1週 乃木大将にちなんで「大将」と呼ばれる、学校一のガキ大将。実は『古今和歌集』を愛読する詩の好きな文学少年だった(6回
第3週 川俣で裕一と再会。藤堂先生のくれた名刺の人を訪ねて新聞記者になっていた
第9週 恋人・希穂子との哀しい別れ
第10週 「福島行進曲」で作詞家デビューするも売れず。おでん屋を営みながら作詞に励む
第15週 「暁に祈る」でついにヒット。おでん屋をやめ、作詞家一本に絞る
第18週 戦時歌謡に協力したくないがため新聞記者に戻る。が、藤堂先生を失くした哀しみから「嗚呼神風特別攻撃隊」の詞を書く (89回
第19週 戦後、「湯の町エレジー」を書きはじめる(91回
第22週 母校・福島信夫小学校の校歌を書き故郷に凱旋

最初からコンスタントに登場し、裕一ともちつもたれつの関係をキープしてきた鉄男だったが、夜逃げから裕一と再会するまでの話はこれまでいっさい語られてこなかった。不自然過ぎるほど語られないということは、何かあるということだ。

物語としては、本人も語らず、裕一も聞くことを遠慮してきたのだろうし、作劇としては、どこかで明かすためにあえて沈黙を貫いていたと考えられる。

そして終盤、ようやく鉄男が裕一に明かしたのは、弟との哀しい別れだった。

モデル野村俊夫と全然違う、村野鉄男

鉄男のモデル・野村俊夫は、89回のレビューでも紹介しているように、“鉄男のモデル野村俊夫のことを書いた評伝『東京だョおっ母さん 野村俊夫物語』(斎藤秀隆著)によると、昭和17年、野村は戦争で弟を亡くし、哀しみを詞にぶつけている。野村の戦争に関する歌は、家族を失った哀しみを、多くの人たちの哀しみに投影したものである。ただ、妻も子もあり、鉄男のように天涯孤独ではなかった。


そして、106回のレビューでも紹介しているように、「湯の町エレジー」が大ヒットして、有名になり、経済的にも潤っている。

鉄男の場合は、幼いときに家族と離れ天涯孤独だったため、戦争に関する歌のモチベーションは、恩師・藤堂(森山直太朗)への想いに集約されている。

『エール』モデル野村俊夫とまったく異なる村野鉄男の孤独な歴史を振り返る
写真提供/NHK

『エール』では、「湯の町エレジー」がヒットしたとか、池田もそれが好きとか、佐久間校長(おかやまはじめ)の好きな歌であるとか、セリフで出てくるが、どれだけ売れていたかは描かれていない。裕一と比べて、まだ、迷いの途中にある人物としてここまで描かれてきた。

そのため、福島の学校で、校歌のお披露目会に楽譜を忘れた子供・明男(竹内一加)も作詞家のことを知らないし、たぶん、世代的にも床屋という職業的にもヒット曲は知っているであろう父・三上典夫(泉澤祐希)も「湯の町エレジー」の作詞家の名前を知らない。

鉄男が、弟は「典夫」と言うと裕一に話すことと、小学校の生徒の父親・三上「典男」の登場によってドラマが展開していく。鉄男の空白の時間が明かされなかったこと、鉄男がモデルほど売れっ子作詞家ではないこと。それによって、すれ違いと再会のドラマが描かれる。

まさが元気だった

戦時中、体調を悪くして伏せっていたまさ(菊池桃子)が復活していた。若々しく元気。戦時中は音(二階堂ふみ)も疎開して、お世話をしていたのだろうけれど、その後はずっと浩二(佐久本宝)がかいがいしく世話していたと思うと、浩二って立派だなあと思う。裕一の弟・浩二、鉄男の弟・典男。ふたりの弟の物語がハッピーエンドでありますように。

(木俣冬)

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■窪田正孝(古山裕一役)プロフィール・出演作品・ニュース
■二階堂ふみ(古山音役)プロフィール・出演作品・ニュース
■古川琴音(古山華役)プロフィール・出演作品・ニュース
■中村蒼(村野鉄男役)プロフィール・出演作品・ニュース
■菊池桃子(古山まさ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■佐久本宝(古山浩二役)プロフィール・出演作品・ニュース
■おかやまはじめ(佐久間校長役)プロフィール・出演作品・ニュース
■泉澤祐希(三上典男役)プロフィール・出演作品・ニュース
■関めぐみ(三上多美子役)プロフィール・出演作品・ニュース

■津田健次郎(語り)プロフィール・出演作品・ニュース


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『エール』モデル野村俊夫とまったく異なる村野鉄男の孤独な歴史を振り返る
写真提供/NHK

番組情報

連続テレビ小説「エール」 

【放送予定】
2020年3月30日(月)~11月28日(土)

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

原作・原案:林宏司
脚本・作:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
主演: 窪田正孝 二階堂ふみ
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」

制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和
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