『おちょやん』第2週「道頓堀、ええとこや〜」
第7回〈12月8日 (火) 放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

篠原涼子といしのようこが怖い
大正5年。道頓堀の芝居茶屋・岡安に奉公に出た千代(毎田暖乃)。最初の態度が悪かったため、ご寮人さん・岡田シズ(篠原涼子)に1カ月間だけと期限を切られてしまった。【前話レビュー】シズ(篠原涼子)からの大目玉で始まった千代の道頓堀での奉公生活
シズとは違って優しそうなお母さん・ハナ(宮田圭子)に、この1カ月、しっかり仕事を覚えたら、シズの気も変わるかもしれないと励まされて張り切るも、いきなり大失敗して、どやされる(6話)。
もう失敗はできない。
今度は、芝居茶屋のライバル店・福富に届け物するように言われ、出かけると、福富のご寮人さん、富川菊(いしのようこ)に受け取れないと拒否される。もともと福富が本家で、岡安が分家にもかかわらず、大きくなっていることが気に入らないのだ。
ここで持ち帰ったら怒られるし、1カ月で追い出されてしまう。悩んで悩んで帰宅が遅れる千代。
だがシズは、はなから受け取らないことは承知のうえ、一応義理を果たしていることを示す形だけの挨拶だったと種明かしする。そんなことに幼い子どもを使って無駄に悩ませるなんて、いまだったらハラスメントである。
筆者の手元に『わが喜劇』(渋谷天外著)という古本がある。千代のモデルの浪花千栄子の夫で喜劇俳優の渋谷天外が書いた自身の演劇人生を記した本で、それを読むと、この頃(大正初期)、道頓堀の芝居茶屋の「番頭は女で、古顔で、芝居のことなら幕の内外なんでも知っているコワいのが多かった。」と書いてある。
そんな芝居茶屋の番頭ことご寮人さんを演じている篠原涼子もいしのようこも怖い。黙っていても妙に圧がある。
千代の苦労は続く
シズは厳しいし、かめ(楠見薫)も親切でない。お茶子の先輩たちも、お風呂に入っていない千代を「臭い」と言いながら、大量の座布団の修繕をさせて、一緒にお風呂に行かせてくれない。やっと仕事を終えたときにはお風呂屋さんは閉まっていて、仕方ないから水をかぶって済ませる。田舎の貧乏暮らしに慣れている千代らしい。岡安には、千代と同じ年のいとさん・みつえ(岸田結光)がいて、お友達になろうとするが、身分が違うと相手にされない。厳しいシズもみつえには優しい顔を見せ、お父さんの宗助(名倉潤)も娘想い。
味わったことのない家族のあたたかい姿を目の当たりにする千代。道頓堀は生まれ故郷と違って華やかで楽しそうと思ったのは一瞬で、ここでも幸福にほど遠い彼女の姿に、なんてかわいそう……と思いもするが、千代の場合、図々しさもあるし、時と場合で顔を声色を使い分けるところがあるので、容易に同情できない。
この変化の能力はのちに女優になることを暗示しているのだろうけれど、こういうキャラを憎めなく感じさせる描き方は難しい。分別のつかない子役にそれを当たり前のようにさせることにはいささか心配を感じるが、子役(俳優)とは平気でその場その場で違う顔を演じるものだから、その現実をシニカルに描いているともいえる。毎田暖乃のふてぶてしい表情が巧過ぎて、そら恐ろしい。
そこに運命の出会いが……
風呂に行けず、水をかぶってずぶ濡れの千代を「かっぱ」と呼び止めた少年。これがのちに、千代と深い縁(くされ縁)を結ぶことになる人物・天海一平(成田凌/子役:中須翔真)。前述した『わが喜劇』の著者をモデルにした人物である。子供のときに運命の出会いをする……のは、ドラマの王道。黒衣(桂吉弥)が、「その晩出会った少年のことが気になって、なかなか眠りにつくことが……」とナレーションをかぶせようとすると、千代は働き疲れて眠ってしまい、ドラマティックにならなかった。
翌日、その少年は、道頓堀一の人気喜劇劇団・天海天海一座の跡継ぎであることがわかる。天海天海一座の劇中劇で、須賀廼家千之助(星田英利)と初代 天海天海(茂山宗彦)の「久しぶりに母の乳でも飲むか」「なんでやねん!」というやりとりが天海天海一座は松竹新喜劇の系譜のはずが、吉本新喜劇のようだ。星田には新喜劇経験はないと思うが、吉本興業所属だからどうしてもそうなるんだろう。
星田のボケ(?)を受けて、「なんでやねん、飲まへんわ」とリアクションした天海役の茂山宗彦は能楽師。渡瀬恒彦演じる徒然亭草若の息子で三番弟子を演じた『ちりとてちん』では「底抜けに〜」の決めセリフで強い印象を残した。ちなみに、そのときの一番弟子役が桂吉弥だった。
今後、こんなふうに劇中劇がたくさん出てくるとしたら、撮影が大変そうではあるが、松竹と吉本の俳優(芸人)をはじめとして、桂吉弥に楠見薫に茂山宗彦など、過去に朝ドラを彩ってきた喜劇を得意とする俳優がたくさん出演することで、間接的に関西の喜劇の歴史がドラマに刻まれることにもなるわけで、各々の俳優たちが各々の芸の源泉の誇りを賭けて演じることで、非常に見応えのあるドラマになる可能性を秘めている。
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木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』【放送予定】
2020年11月30日(月)~
<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」