『おちょやん』第2週「道頓堀、ええとこや〜」

第10回〈12月11日 (金) 放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

『おちょやん』誰やおっさん!ずぶ濡れの海原はるか師匠の衝撃 10回
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

千代、クビを免れる

先日、コロナに感染しながらも無事退院したことが報道された漫才師・海原はるかが登場。第4回に登場した相方・海原かなたと共に、BK(大阪制作)朝ドラの常連の登場のうえ、その登場の仕方もスペシャルなもので、朝ドラファンは大喜び。ネットを賑わした。
これに関しては後述するとして、第10話を追っていこう。

【前話レビュー】板尾創路と星田英利が好演、確執ありそうなふたりの喜劇役者の登場に展開が楽しみに

仕事で失敗して、ご寮人さんのシズ(篠原涼子)にクビを言い渡された千代(毎田暖乃)は、雷雨のなか、行くあてもなく彷徨う。

その頃、岡安では、千代には戻る家がないことを知ったシズやハナ(宮田圭子)が気をもんでいた。同情されたくなくて、我を張っていたのかと思うと、あんなにきつく当たっていた人たちの心も動くのだった。

ハナだけは、どうであろうと変わらず千代に接していた。穏やかそうに見えてかなりのツワモノらしいハナは、道頓堀界隈に独自の情報網を持ち、警察よりも早く千代を見つける。

発見されたとき、千代は『人形の家』を読んで、時間を潰していた。彼女が読んでいる一節は「私は第一に人間だす」「ちょうどあなたと同じ人間です」。

イプセンの『人形の家』は女性の自立をテーマに書かれた物語。『おちょやん』では、ハナに雇われて街の情報を伝える働きをする乞食たちが現れ、ハナから対価を受け取っている描写があることから、『人形の家』に書かれた問いを、女性に限らず人間の尊厳に広げていることがわかる。

千代は、ひとりの孤独な少女というよりは、社会の末端で食べるものに困り教育も受けられない者であり、そんな人物がどうやって生きていくかをこれから描くのだという思いに満ちたプロローグとなった。

また、千代は、彼女の生涯の仕事となる演劇の魅力も知る。
ハナに連れられて、芝居小屋へ行くと――。

『おちょやん』誰やおっさん!ずぶ濡れの海原はるか師匠の衝撃 10回
写真提供/NHK

一平の芝居に、ハナは何を観たか

雨に濡れたままで寒くないのかなと思うけれど、とにもかくにもハナに連れられ芝居小屋に。そこでは天海一座の芝居が上演中。急死した初代・天海(茂山宗彦)の代わりにひとり二役をやって大奮闘する須賀廼家千太郎(星田英利)。舞台上での役の入れ替わりによるドタバタに観客は笑い、千代も笑う。

さんざん笑ったあと、一転、千太郎が演じている男はある事情ですでに死んでいて、幽霊になって子供(一平が演じている)に会いに来たことがわかる。舞台上で、千太郎はすこし長い間をとり、万感の思いをこめるように「達者でな」と抱きしめる。それから、額を指でぴんと跳ね、去っていく。

観客はしんみり。ところが、花道を通って退場する間際、「もうちょっと待って」と父はあの世に戻ることを躊躇し、再び、客席は爆笑。子は「はよう成仏してください」と言い放ち、父は「ええ〜っ」と拍子抜けしながら退場。残された子は「父上〜」と何度も叫ぶ。

芝居を観ながらハナは千代に「あこがあの子が生きる場所や」と言う。
ふだんは照れくさかったり、素直になれなかったりして言えないことが、舞台上でなら言える。一平は千代にだけ見せることができた父への想いを、舞台上、大声で叫ぶことができた。千太郎も、素ではただの意地っ張りのようにしか見えないけれど、役を借りれば、父を亡くした子に、頑張れとメッセージを伝えることができる。

そんな芝居の奥深さに触れた千代は、ご寮人さんの前で、これまでちゃんと言葉にできなかった自分の事情と想いを話し、ここに置いてほしい、助けてほしいと素直に頼むのだった。

こうして、第1回で、子役時代は「2週間」とあらかじめ断った前口上から、あっという間に2週間。ドラマは、一気に8年進む。

『おちょやん』誰やおっさん!ずぶ濡れの海原はるか師匠の衝撃 10回
写真提供/NHK

朝ドラあるある

8年後、成人した杉咲花に変わるとき、黒衣(桂吉弥)がバラエティー番組の「朝ドラあるある」紹介コーナーのナレーションのように軽妙に案内する。

朝が来て、布団を剥いだら、オトナになっていたパターン。これは、岡安の旦那さん・宗助(名倉潤)だったというオチ。
自転車に乗って颯爽と……というパターンは、いとさん・みつえ(東乃絢香)だったというオチ。
ヒロインは水に落ちる……というパターンが、知らないおっさん(海原はるか)で「誰やおっさん!」と大いに黒衣がツッコんだ。

海原はるかはBK朝ドラの常連だが、こんなにもアップでフィーチャーされることは珍しい。

――『マッサン』と『あさが来た』でも写真屋役で出ているため、手塚治虫の漫画のキャラのようにも感じて親しみが沸く。
同じ写真屋さんとして朝ドラワールドを繋げてほしい。他には『わろてんか』では八卦見役、『べっぴんさん』ではデパートの警備員役で出演している 。(エキレビ!『まんぷく』第8話レビューより)

さんざんはぐらかしておいて、いよいよ杉咲花の登場。でもそれは、店から出てきて「おはようさんでございます」と近隣の人に声をかけ店の前をほうきで掃くというもので、その様子を黒衣は「普通」と拍子抜け。「普通」が一番と思わせる子供編の幕引きだった。

最初は子供編が退屈に思えるが終わる頃には名残惜しくなるのも「朝ドラあるある」。でも、やっぱり、第3週からの杉咲花のターンが待ち遠しい。

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Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
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■トータス松本(竹井テルヲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

【放送予定】
2020年11月30日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥

主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
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