『危険なビーナス』は家族再生の物語。矢神家とのわだかまりは消え、最終回で見せた伯朗の成長
イラスト/ゆいざえもん

※本文にはネタバレがあります

すべてが明かされた『危険なビーナス』最終回

昨日『危険なビーナス』(TBS系)の第10話、最終話が放送された。

【前話レビュー】伯朗から情報を引き出す兼岩夫妻、腑に落ちない蔭山 「楓さん」と呼んだ明人

あらかじめ言っておくと、本稿はネタバレありの内容。昨日の放送を未見の方は、そちらをご覧になってからこの記事を読み進めていただきたいと思う。


家族再生した矢神家。矢神家の呪縛から解き放たれた伯朗

ラブサスペンスを謳う今作だが、終わってみれば家族再生の物語だったように思う。

諸悪の根源は矢神康之介(栗田芳宏)だった。かつて、矢神波恵(戸田恵子)君津光(結木滉星)の父親・修平と駆け落ちしていた。康之介は波恵と修平を引き離すため、自らの愛人を修平にあてがわせた。矢神家に戻った波恵は康之介の毒殺を企てる。


そして、波恵は親族会でもお茶に毒を盛り、矢神家を崩壊させようとした。君津を矢神家で働かせていたのは、康之介の血を引いているから。あの醜悪な男の血を引く者は根絶やしにするしかない。

しかし、矢神康治(栗原英雄)を看取る手島伯朗(妻夫木聡)を見た波恵は「矢神家にはまだ希望がある」と思いとどまった。あのとき、伯朗と康治の間にある溝は消えてなくなっていた。

矢神家の相続争いで始まったこのドラマ。
伯朗は矢神家を軽蔑し忌み嫌っていたが、母・矢神禎子(斉藤由貴)を殺したのは矢神家の人間ではなく兼岩憲三(小日向文世)だった。小泉家で憲三は伯朗の父・手島一清(R-指定)の生前最後の絵「寛恕の網」を探していた。この絵は素数の分布に法則性があると示すもの。数学者の憲三にとってはどうしても欲しい絵だった。

「絵は君なら見つけられる! 明人君が言ってた。兄貴なら母さんが譲り受けた貴重なものをきっと見つけることができるって。
兄貴は僕よりも母さんに愛されていたからと」(憲三)

禎子は一清から「『寛恕の網』は伯朗との最後の思い出だから、あの絵だけは伯朗に渡してあげてほしい」と言われていた。

「あの子の幸せな思い出はとっておいてあげたかったんです」(禎子)

仲のいい兄弟であるはずの伯朗と矢神明人(染谷将太)。しかし、2人の間には微妙な距離間が存在した。

明人「兄貴は本当に母さんに愛されてたんだな」
伯朗「俺はずっとお前に嫉妬してた。おふくろの愛情を全て取られたと思って」
明人「僕も一緒だよ。兄貴がうらやましかった」
伯朗「だけど、違ったんだな。
おふくろは俺たちのことを平等に愛してくれていた」

さらに、矢神家からもギスギスした雰囲気はいつの間にか消えていた。波恵は矢神家の“希望”明人が戻ってきたことで、矢神勇磨(ディーン・フジオカ)は康治の研究記録を手に入れたことで、支倉祥子(安蘭けい)は娘・百合華(堀田真由)が全財産を受け継いだ明人の結婚を予定していることで、わだかまる理由はすでになくなってしまった。あんなドロドロの争いを繰り広げていたのに、実は争う理由などなかった。皮肉な現実だ。

そして、犬猿の仲だった伯朗と勇磨。勇磨は明人にこんな言葉をかけた。


「研究記録は俺が手に入れた。どんなビジネスに化けるか今から楽しみだよ。お前は何か手に入れたか? 昔から逃げてばかりで戦おうとしない、そんなお前が俺は本当に嫌いだった。欲しい物があるなら自分の力で手に入れろ。負け犬」(勇磨)

矢神楓(吉高由里子)を想う伯朗の背中を押す、勇磨流のエールだ。2人の関係性も変わったと思う。


こうして、伯朗は矢神家の呪縛から解き放たれた。ここからはもう彼次第だ。

ラストシーンは受け身の妄想ばかりだった伯朗の成長

楓は警視庁の捜査官だった。「矢神明人さんを拉致して、一週間監禁して下さい。報酬として100万円用意致します」という募集を発見した警察が送り込んだ潜入捜査官が彼女だったのだ。憲三が母殺しの犯人だったことより、楓が警察官だったことにショックを受けている伯朗。警察も潜入捜査に美人を投入するのは考えものだな……。

楓が行きつけの焼き鳥屋で1人飲みしていると、蔭山元美(中村アン)が現れた。

「今度、副院長とデートすることになりました。楓さんからもらったこのスカーフをして、めいっぱいお洒落して行こうと思います!」(蔭山)

そして、蔭山は続ける。

「矢神楓という人間は本当にいなかったんですか? 私にはどうしてもあれが全て嘘だったとは思えません」(蔭山)

伯朗と楓の本心に気付いている蔭山。彼女は楓の背を押すため、楓の行きつけの焼き鳥屋に乗り込んだのだ。この人こそ、天才脳の持ち主なんじゃないだろうか……。

蔭山と勇磨のお膳立てにより、伯朗と楓は再会する。そこにいた楓は奔放な「矢神楓」ではなく、少女が背伸びしたかのような「古澤楓」だった。勇気を振り絞って好きな男に会いに来た女性に見えるから驚き。多くの視聴者から不評を買った「お義兄様ぁ〜」の猫なで声も潜入捜査上の演技だとしたら納得だ。しかし、もう2人の間には兄妹という設定は存在しない。これからは禁断愛ではないのだ。

「……なんてことが起きるはずない……とは限らない」でおなじみの伯朗の妄想はいつも女性絡みだ。しかも、女性のほうからアプローチされるのが常である。伯朗はいつも受け身。今回も、妄想の楓は彼女のほうから伯朗を抱きしめに来た。しかし、現実では伯朗のほうから楓を抱きしめに行った。「自分の力で手に入れろ」と言われた伯朗の成長がここに表れていると思う。

ラストシーンは「なんてことが起こることもある」という伯朗のモノローグ。自ら動き、自分の力で手に入れようとしたからである。

番組情報

TBS 日曜劇場『危険なビーナス』
2021年4月28日(水)Blu-ray / DVD発売

Writer

寺西ジャジューカ


1978年、東京都生まれ。2008年よりフリーライターとして活動中。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。『証言UWF』シリーズ『証言1・4』、『証言「橋本真也34歳小川直也に負けたら即引退!」の真実』『証言 長州力』(いずれも宝島社)等に執筆。

関連サイト
Facebook