
※本文にはネタバレを含みます
裏切らない岡田惠和『姉ちゃんの恋人』最終回
『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジ系 毎週火曜よる9時〜)最終回は、みんなが各々幸せなクリスマスを迎えた。これほどまでに、エピローグ感のある最終回も珍しい。安心して、みんなのハッピーエンドを見届けるだけの安らかな1時間。【前話レビュー】「強い」とはどんなことをも楽しいことに変えてしまう力を持っていること
冒頭、安達家のパーティーにやって来た真人(林遣都)が「人の家に入るの何年かぶり」としみじみ言うところに、長らく苦しんでいたことが改めてわかって、胸が痛くなる。でももう大丈夫。よかった。
小姑・桃子(有村架純)とその恋人・真人を出迎える、弟の彼女・みゆき(奈緒)は緑色のワンピで、めっちゃかわいい。年上女房(まだ女房ではないが)のハンデをがんばって乗り越えようとする涙ぐましさ。でもみゆきはもともとかわいいので心配ない感じ。
乾杯ドリンクに真人はアルコールを選び、いままで我慢していたことがわかる。真人もみゆきも朗らかにしているけれど、いろいろ心配を抱えている。ふたりだけではない。ひとは大なり小なり心配事がある。
安達家では、毎年、クリスマスパーティーのとき、一年に一度、現在の悩みを打ち明ける習慣があった。話を聞くだけで意見をはさまないことが決まり。
和輝(高橋海人)、優輝(日向亘)、朝輝(南出凌嘉)もそれぞれ悩みを語る。優輝と朝輝の個性が最終回にしてやっと見えた気がして、彼らの個別エピも見たかったなあと思うが、全9話だと難しかったか。
「神様はいる」日南子(小池栄子)は高田(藤木直人)がホームセンターの社長の息子であったことを知って、自分の想いは報われないと勝手に思いたそがれる。
そして、クリスマスイブに新社長就任が発表されることになった。その日、ホームセンターの倉庫でパーティーが行われる。そこには家族と家族みたいな近しい人を呼ぶことができる。
日南子は浮かない顔をしているが、ここで高田との関係が終わってしまうわけがない。予告でも花束をもらう画があったし。もはや、ふたりが幸せになる瞬間を見たいがためにテレビを点けている、日本中のお茶の間(死語?)が目に浮かぶ。
真人は、母・貴子(和久井映見)と、弁当屋の藤吉(やついいちろう)をパーティーに呼ぶ。こんなことも真人には嬉しくてしょうがないんだろうなあ。
和輝とみゆきの仲は順調に進展。クリスマスプレゼントが同じものという気の合い方。あとの問題はふたりの就活のみだが、そんなの問題にならない感じの、ふたりの仲睦まじさ。
そしてイブ。高田が社長就任の挨拶からの、例の花束贈呈シーンに。その前にプロポーズも。シンデレラストーリーである。
「ひとつだけ条件があります、このまま仕事続けてもいいですか」と日南子は王子様にめとられても働き続けるシンデレラ。
第1話で、真人がひとりぼっちの人も疎外感のないクリスマスをと言っていたけれど、ぼっちは、ぼっちにならないように、誰かと共に生きていこう、必ずそういう人がいる、というお話になった。だから、ホームセンターのパーティにはぼっちはいない。みんな和気あいあい。
高田社長は「みんなで共に生きて、共に幸せになりましょう。今日から仲間です」と笑顔。第1話で匂わせたコロナらしき状況はなかったように倉庫は密である。
臼井さん(スミマサノリ)の捨てられた椅子に座るシリーズのきっかけになった子供のときに捨てられた椅子にも再会する奇跡。
仕事が決まったみゆきは言う。
「神様はいる」

「できないことがあっても不幸なわけじゃない」
そして、主人公の桃子と真人は、はじまりのツリーの前で、幸せを噛み締めながら、キス。最初は唇を触れ合わせただけで、2度目は、真人がすこし積極的。真人が桃子を見つめるとき、ときどき眩しそうな瞳になるのが、この回に限らず、良かった。ちなみに、和輝とみゆきのキスはマフラーで隠したうえで、しかも短めであった。
やがて、ホームセンターのディスプレイはクリスマス用からお正月用のものに。青い地球。そして、新年を祝う世界のことば。
年明けだろうか、真人と桃子は、電車に乗って、海へ行く。
このまま全部解決して、「共に生きて共に幸せ」「仲間」のみの幸福でまとめるかと思ったら、岡田惠和は裏切らない。「できない分、ほかの幸せ」の可能性も残してくれた。
最後にひとつだけ、第1話からずーっと気になっていたこと。脚本にも俳優にも関係ないこと。安達家の食卓の座り方。
左利きの朝輝と右利きの桃子が、左腕と右腕がぶつかる位置に座っていた。通常、こういう場合、ぶつからないように反対に座るもの。有村と南出は忍耐強いなあと思う。立派。しかも、キッチンにすぐに立てる側に桃子が座っていないのだ。
2021年が誰もに幸福な年でありますように☆
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番組情報
カンテレ・フジ系『姉ちゃんの恋人』※放送終了
公式サイト:https://www.ktv.jp/anekoi/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami