『おちょやん』第8週「あんたにうちの何がわかんねん!」

第39回〈1月28日 (木) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

『おちょやん』<貸した金返せよ>と歌っておきながら役柄では金を返さないトータス松本
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

金の切れ目が縁の切れ目

<せっかく稼いだ金持ってトンヅラ>
これは、トータス松本がヴォーカルを務めるバンド、ウルフルズのヒット曲「借金大王」(94年)の歌詞である。

【前話レビュー】「千代はわいとは似ても似つかぬええ娘」寂しさも感じさせたテルヲの言葉

借金まみれのテルヲを演じているのがトータス松本であることで、「借金大王」を思い出す視聴者は多い。歌では、借金する友人に<貸した金返せよ>と歌っていたが、役では金を返さないほうを演じる皮肉。
そして、39回ではまさに前述の歌詞の通りになりかかる。

千代(杉咲花)が留守の間に父・テルヲ(トータス松本)が彼女の部屋をあさり、通帳を持って出ていこうとした。そこへちょうど戻ってきた千代は激怒する。3年前、岡安の御寮人さんに肩代わりしてもらったのにまた借金をつくっていたとは。

テルヲは全然悪びれず、千代が俳優としてもっと売れていたら、こんなはした金で文句は言わなかっただろうなどと暴言をはき、カフェー・キネマの店主・宮元(西村和彦)にまでお金を借りようとする。

呆れた千代は、貯金通帳も、お財布に入っていた小銭も渡し、「金の切れ目が縁の切れ目や」と啖呵を切る。

「金の切れ目が縁の切れ目」はトータス松本がライブで「借金大王」の曲に入るまえ、客席とのコールアンドレスポンスで言っていた言葉であるとSNSは盛り上がった。

この愁嘆場をなんとか収めようと宮元はメガホンを持って映画撮影ふうに茶化すが、「これが現実や」と開き直るテルヲ。感情が行き過ぎて止まれなくなっているところを、せっかく冗談で流そうとしたのに、テルヲは止まらない。宮元は「ここまでにしといて」と、「カット」と声をかける。

『おちょやん』<貸した金返せよ>と歌っておきながら役柄では金を返さないトータス松本
写真提供/NHK

宮元のコトの納め方が、常にコトを荒立てない彼の性格が出ていていいし、主人公が女優のドラマとして、現実と芝居(虚構)の関係を物語っている。

のちに千代は、なんのために芝居をするか、その真髄に気づくことになる。


なんのために芝居するのか迷える千代の前に、再び現れる一平(成田凌)。「(親父に)まだ縛られてんのか」と一平が言うと、「あんたにうちの何がわかんねん!」と反抗する千代。

一平は諭すように続ける。

「人の苦しみがそない簡単にわかってたまるか」
「そやから俺は芝居するんねん。芝居してたらそういうもんがちょっとわかるきがする。わかってもらえる気がする」

芝居の本質を語るかのような言葉に、千代はかつて、初舞台を踏んだときは、別れを切り出された女中の気持ちに岡安にいたいという自分の気持ちを重ねたこと、『正チャンの冒険』では正チャンに「みんなで楽しい冒険続けよう」と生きる希望を託したこと、映画に出演したときは、小暮(若葉竜也)への恋の気持ちを重ねて、役の恋心を表現したことを思い出す。

たとえ、生きている環境が違っても、貧乏でもお金持ちでも、喜びや哀しみは誰もが持つ感情。それぞれの体験は違っても、どの感情も共有することができる。その瞬間を作り出すことが芝居。そこでは貧しい人もお金持ちも、誰もがフラットに感情や体験を分かち合う。千代はその瞬間の喜びを思い出してすすり泣く。

重要なことを教えてくれる一平。
これでは小暮のプロポーズは霞んでしまいそうだ。そう、千代は小暮にプロポーズされていた。

東京に行かないか

進退をかけて書いた脚本がボツになった小暮は、父の言いつけに従って映画を諦め、実家に帰ることにした。千代のことをいつの間にか好きになっていた小暮。カフェー・キネマを訪ね、千代に一緒に東京に行かないかと誘う。

『おちょやん』<貸した金返せよ>と歌っておきながら役柄では金を返さないトータス松本
写真提供/NHK

店の外での二人の話を聞いていた宮元ほか店の仲間たちが急にわーっと二人の前に出てきて、「堪忍、堪忍」と慌てふためいて店の中に入っていくところは喜劇的でおもしろかった。

小暮が撮影所で退職届を所長(六角精児)に出し、千代には、実家の父母に彼女の話もしているし、テルヲや弟ヨシヲを呼んで一緒に暮らそうと言う。夢にまで見た幸福が目の前にある。初恋がかなって、プロポーズもされた。千代も懐に退職届を忍ばせている。ところが、なんだか千代は積極的でない。

そこに一平が現れるのだから、ますます悩ましい。いつも良いときに一平が現れて邪魔をする。
一平は、酒と女に溺れがちなテルヲにどこか似ている。千代はこの手のタイプに弱いうえ、断ち切ることができず、それが彼女を不幸にするという典型である。だが、たとえ千代が結婚を承諾しても、家柄の違い問題でうまくいかないだろうとか、テルヲが絶対迷惑かけてぶち壊すだろうとか、あまりいいことが思いつかない。

「祈っテルヲ」

『おはよう日本 関東版』の高瀬アナは、お父ちゃんの態度が改まることを「祈っテルヲ」と38回の「働いテルヲ」をさっそく使っていた。

「〜〜テルヲ」は『半沢直樹』の「倍返し」のように流行るだろうか。脚本家の八津弘幸は、『半沢直樹』で「倍返し」の生みの親。原作の第1巻『俺たちバブル入行組』の第六章にある「やられたらやり返す、泣き寝入りはしない。十倍返しだ」から発想を得たのではないかと考えられる、ドラマのオリジナルセリフが「ユーキャン新語・流行語大賞」にも選ばれるほど流行ったように、「〜〜テルヲ」も「じぇじぇじぇ」以降久々の朝ドラ発の流行語になるだろうか。ちなみに、「じぇじぇじぇ」は「倍返し」と同じ年に「ユーキャン新語・流行語大賞」に選ばれている。

29日の『あさイチ』にはトータス松本がゲストで登場する。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村和彦(宮元潔役)プロフィール・出演作品・ニュース
■吉川愛(宇野真里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若葉竜也(小暮真治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■朝見心(純子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■三戸なつめ(竹井サチ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■竹井テルヲ(トータス松本役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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