『おちょやん』第9週「絶対笑かしたる」

第41回〈2月1日 (月) 放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

『おちょやん』なつかしい街・道頓堀に帰ってきた千代 高峰ルリ子(明日海りお)など新しい顔ぶれも
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

千代、道頓堀へ戻る

舞台は再び大阪・道頓堀へ。千代(杉咲花)は鶴亀興行のはじめる新しい喜劇劇団に入るため、4年ぶりに道頓堀に戻って来た。

【前話レビュー】爪痕残した若葉竜也演じる小暮が去り、そして千代(杉咲花)も京都の撮影所をあとに

なつかしい街、なつかしい顔、顔、顔。
皆、千代を笑顔で迎えてくれる。家族には恵まれず天涯孤独の千代だけれど、帰れる場所があった。ここは千代が自分の力で作った人間関係であり、場所である。でもそこは静かに変わりつつあった。

芝居茶屋「岡安」のライバル店「福富」は、芝居茶屋をやめて音楽(ジャズ)喫茶になっていた。喧嘩友達だった岡安のみつえ(東野絢香)と、福富の長男・福助(井上拓哉)はなんとなく以前と雰囲気が違っている。

岡安はまだ芝居茶屋の経営を続けている。お茶子たちもみんないて、千代を大歓迎。映画スターの話を聴きたがる。かめ壺に入ったお菓子をポリポリやりながら映画スターの誰が好きかとおしゃべり。目玉の百様、ひょろりの妻様。目玉の百様は、実在する「目玉の松ちゃん」と呼ばれていた尾上松之助、妻様は「バンツマ」こと阪東妻三郎がモデルになっているのであろう。


「ここはあんたの家だす」「岡安はずっとこのままや、安心しぃ」と御寮人さん・シズ(篠原涼子)は千代に言うが、経営には行き詰まっていた。そりゃあ、京都の撮影所だって不況で俳優を続々解雇しているくらいだから、大阪の娯楽も大変なことであろう。ご贔屓さんに組見をやめると言われ、平静を装いながらも内心がっかりしていることがシズの表情から見てとれた。

それにしても、不景気になってもお茶子を全員、雇い続けているとは、御寮人さんの心意気。鶴亀撮影所とは違う(規模が違うけれど)。

篠原涼子は年を重ねてもどんな役をやっても女子っぽさがにじむ。鉄の女みたいな役をやっても行き過ぎず、観ている人を突き放さないところが人気の所以なのかなと思う。親しみやすさがあるのだ。

新劇団の座長は一平だった

道頓堀の人たちの恩返しは、良い芝居をすること。さらには売れる女優になって、借りを返そうと考える千代。

さっそく、新たな職場――新しく出来た劇団に赴くと、そこにはなつかしい天海一座の人達がいた。

『おちょやん』なつかしい街・道頓堀に帰ってきた千代 高峰ルリ子(明日海りお)など新しい顔ぶれも
写真提供/NHK

世話役はこれまたなつかしい熊田(西川忠志)、さらに新たな顔ぶれとして、東京新派劇の名門・花菱団の元トップ女優・高峰ルリ子(明日海りお)、元鶴亀歌劇団の石田香里(松本妃代)、歌舞伎俳優・小山田正憲(曾我廼家寛太郎)などなど。寄せ集め、急づくり感が漂う。
皆、個性が強過ぎて、たぶん、ぶつかり合いそう。女形と女優が混在しているだけでひやひやする。

しかも座長が一平(成田凌)では彼らをまとめることができるとは思えない。案の定、さっそく不満が勃発した。当然、看板になると思われた千之助(星田英利)が参加しないと知って、千之助の付き人・須賀廼家百久利(坂口涼太郎)や元天海一座の人々は辞めると出ていってしまった。

残ったのは、高峰ルリ子、石田香里、小山田正憲と一平と千代。新生劇団、さっそく暗雲垂れ込めるのであった。

鶴亀歌劇団とはいまはなき松竹歌劇団のことであろう。東京新派劇・花菱団のモデルについては後述する。

明日海りおのカメラ目線に釘付け

高峰ルリ子が常にカメラ目線という演出が斬新。きっとした強い流し目のような目線がすごく気になる。なんと、ラストカットも彼女のカメラ目線だった。

『エール』でいけすかない見合い相手を演じていた坂口涼太郎が、千之助の付き人・須賀廼家百久利役で登場するのも注目だが、やっぱり、明日海りお。
元宝塚トップスターで、現在、萩尾望都の名作漫画のミュージカル化『ポーの一族』(小池修一郎演出)の永遠の少年エドガーを演じている。

筆者は先日、大阪公演の配信を見たが、宝塚でやったものとは違う、千葉雄大(アラン役)など男性俳優も混じった公演のなかで、永遠に年をとらないバンパネラの宿命を背負ったクールさと心に苦悩を内包しているエドガーを魅力的に演じている。それがドラマでは自信満々の新派女優というまったく違う雰囲気で、同じ人には思えず、面白い。

新派劇とは、それまで演劇の主流だった歌舞伎とは違う現代劇を目指したもので、明治21年、自由党の壮士角藤定憲が日本壮士改良演劇と名乗り、壮士芝居を旗揚げしたのが新派劇のさきがけといわれる(『演劇小辞典』より)。もとは政治運動を演劇によって宣伝する目的があった。

『おちょやん』なつかしい街・道頓堀に帰ってきた千代 高峰ルリ子(明日海りお)など新しい顔ぶれも
写真提供/NHK

その後、大河ドラマ『春の波涛』でおなじみの川上音二郎の登場により、大衆演劇として人気を確立していく。大正末期に衰退しかかったが、昭和初期には勢いを取り戻していく。

『おちょやん』の高峰ルリ子の花菱団はおそらく新生新派の一員で、やがて新派の代表的女優・水谷八重子と組んで活動していく花柳章太郎の名前からとったものだろう。ルリ子はちょうど新派劇の過渡期に大阪道頓堀に新たな道を求めて来たのだろうと考えられる。知らんけど。

ともかく、この時代はまだ映画俳優よりも舞台俳優のほうが断然格上と考えられていた。そもそも舞台演劇は古代ギリシャからあって、映画と歴史の長さが違うのである。


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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