
※本文にはネタバレがあります
入れ替わりミステリーに島の伝説でファンタジー『天国と地獄』3話
「このままだと私は殺人犯として捕まるの。殺人犯を捕まえようとしただけなのに、殺人犯にされるという世紀の冤罪が誕生するの」(望月がINした日高)【前話レビュー】意外な展開に涙「お手柄だよ、八巻。今まででいちばんお手柄だよ」
日曜劇場『天国と地獄〜サイコな2人〜』(TBS系 毎週日曜よる9時〜)の第3話はいきなり奄美大島へ。
八巻(溝端淳平)は妙にものわかりがよく、刑事・望月彩子(綾瀬はるか)と殺人事件の容疑者・日高陽斗(高橋一生)の体と精神が入れ替わったことを悟り(「日高がINした望月さん」とさくっと言う)、そのうえ、太陽と月が入れ替わる奄美の伝説まですぐに理解する。

にわかに望月にとって頼もしい部下となった八巻。だが、有力な証拠品である日高の革手袋を、万が一、河原(北村一輝)が手に入れたら、それを奪え、もしくはすり替えろという望月の強引な命令には躊躇する。望月、スパルタ。でもそれでこそ望月。おしとやかな望月は望月じゃない。それは八巻もわかっている。
念のため、望月とは、肉体は日高、心は望月のこと。日高とは、肉体が望月、心が日高として書く。スチール写真と照らし合わせのうえ、お読みください。
望月に八巻という味方ができたものの、彼が望月と日高の関係に気づいていることが日高にバレたら八巻の身が危うくないだろうか。

第2話の終わりに流れた予告編で、誰かが無残に吊るされているカットがあって、それが八巻だったらどうしよう……ふいに残虐な殺され方をするのではないか、でも溝端淳平が第3話で死んで退場するはずがない、などと思ってハラハラしっぱなし。おそらくこれは作り手の狙いだと思う。八巻に何か起こってもおかしくないシチュエーションが随所にある。しかも八巻、無防備。
入れ替わりに関してだけやたら勘がいいのに、ほかのことはドジばかり。手袋をすり替えたとき、左右を間違えて日高に気づかれそうになったり、「最近、味覚に変化があったんですよ」と言う日高に「味覚は体に引っ張られるから望月さんの好みになるっていうか」と返してしまったり……。


そのたび日高が、にんまりと、なにかとあやしい瞳になったり、微笑んだりする。こわい――。八巻、重要な秘密を知っていることと、日高がそばに常にいることに対して意識がなさ過ぎ。天然過ぎる。溝端淳平は天然キャラを演じさせたら右に出るものはいない。
望月が“入れ替わり”にまつわる伝説のある奄美大島へ
一方、ひとり勇んで奄美にやってきた望月。シヤカナローの花はあくまで伝説で、実際にあるかわからないと知る。代わりに見つけたのは、この地には持っていると呪われる石があること。あの凶器の石がそれ。そのせいで、こんな目(入れ替わり)に遭っているのではないかとうなだれながら、うっかり宿の女湯に入ってしまう望月。危なく別の犯罪になってしまうところで、日高がこの宿に来ていたことがわかる。記憶障害があることにして、日高のことを探っていく望月。以前彼が行ったという緋美集落に向かう。

せっかくすり替えたのに、日高のもう片方の革手袋も見つかる。日高のアイデアで、片手袋を撮影して投稿しているインスタアカウントに連絡すると、うまいこと片方の手袋が見つかる。実際、SNSには道に落ちている片手袋を研究しているアカウントがあり、その活動をまとめた『片手袋研究入門』という書籍まで出ている。そこに目をつけるとは素晴らしい。
それはさておき、手袋から証拠が検出されたら、日高の犯行が確定してしまう。

可哀相なのが望月。彼女のもとに日高から、殺した者を逆さ吊りにしてゴルフのクラブで滅多打ちにしている映像がメールされてくる。有名な曲を鼻歌交じりに残虐なことをしている様子は『時計じかけのオレンジ』みたい。色白の綾瀬はるかが、赤い口紅と濃いめのチークでとろっとした目をしていると猟奇性がアップ。
映像を見てショックを受ける望月。「なんでこんなことするの」と、正義感の強い刑事らしい反応。自分の肉体が残虐行為をしている姿を見るのは激しく耐え難いことだろう。

哀しいことに望月の肉体が殺人を犯してしまった。精神が別人格だったとき、肉体の殺人は殺人になるのだろうか。
日高は街の落書きの「4」の文字に刺激されたようだったが、数字は何かの暗示なのか。このとき、望月のコートやマフラーのセンスが元の日高っぽくなってきている。味覚は望月に近づくが、視覚で選ぶものは日高。なんとなくふたりが混ざり合ってきているところが興味深い。しかもだんだんと綾瀬はるかの顔が高橋一生に見えてくるから不思議だ。

バイトで陸(柄本佑)がトンネルの壁に描かれた「4」の文字を必死で消していたが、先輩(迫田孝也)が「何やっているんだよ」と聞くということは、バイトではないのか。気になる行為。謎は深まるばかり。
犯人と刑事の入れ替わりミステリーに、島に伝わる伝説が加わってファンタジーに。さらに望月がINした日高のコミカルな行動と、ドラマのムードがどんどん変わって飽きさせない。

そして、第3話の最大ポイントは「入れ替わった」人たちによる、手袋の「すり替え」を巡る攻防であったこと。

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※第4話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします
番組情報
TBS系『天国と地獄〜サイコな2人〜』
毎週日曜よる9時〜
出演:綾瀬はるか 高橋一生
柄本佑 溝端淳平 中村ゆり
迫田孝也 林 泰文 野間口徹 吉見一豊 馬場 徹 谷 恭輔
岸井ゆきの 木場勝己
北村一輝
脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
プロデュース:中島啓介
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木彩
音楽:高見優
製作著作:TBS
(C)TBS
番組サイト:https://www.tbs.co.jp/tengokutojigoku_tbs/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami