長瀬智也『俺の家の話』4話 『あまちゃん』手がけた宮藤官九郎のテンポいい朝ドラ的様式が痛快
イラスト/AYAMI

※本文にはネタバレがあります

寿三郎の「死ぬまでにやりたいこと」叶える『俺の家の話』4話

池袋西口公園(ウエストゲートパーク)でダンスの練習をする大州、Good Luck(Google的な検索エンジンの名前として登場)、『ビューティフルライフ』のロケ地めぐりをするさくらと寿三郎(「ちょ、待てよ!」と言う西田敏行)、「逃げるのも才能」と『逃げ恥』的な考え方……となつかしのTBSドラマのパロディが満載だった『俺の家の話』(TBS系 毎週金曜よる10時〜)は話の進行が早い。

【前話レビュー】秘すれば花――本音を隠す父(西田敏行)と息子(長瀬智也)が示す能の真髄

まだ第4話だけれど、重要案件かと思いきや観山家に通ってきているヘルパーのさくら(戸田恵梨香)の後妻業疑惑はすでに解決。寿三郎(西田敏行)が認知症で彼女のことをまだ恋人と思い込んでいるフリをしているだけだったことも、さくらはさっさと寿一(長瀬智也)寿限無(桐谷健太)に報告してしまう。


次男の踊介(永山絢斗)はさくらのことをまだ調べていて、なんだかさくらのことを意識しはじめているらしいが、新たな物語がはじまるかは定かではない。「こんちくしょうめ」というセリフが昭和的。

第4話のメインは、寿三郎のエンディングノートに書かれた「寿限無のおとしまえ」。すなわち、寿限無の出生物語。芸養子だとばかり思っていたら、寿一が女中に手をつけて生まれた子供だった。つまり、観山家と関係なくなかったのだ。世阿弥の精神は「秘すれば花」とはいえ、よく秘したものである(そういう意味ではない)。

ある日、元女中・菅原栄枝(美保純)がやって来た。観山家の番頭だった小池谷(尾美としのり)の妻で、寿限無の母。寿三郎と栄枝の関係をまた新作能「寿限無之落前」として見せる。寿三郎は「夜の人間国宝」とかふざけながら、小池谷に子供と栄枝の面倒を頼んだと告白。

舞「なんだそれ『蒲田行進曲』か」
寿三郎「いや、俺のが先じゃないかな」

ちなみに、『蒲田行進曲』はスター俳優・銀ちゃんの子供を妊娠した小夏を後輩で脇役俳優・ヤスが面倒見ることになるという愛憎話。
3人の割り切れない関係が胸を打つ。

出生の秘密を“丹田に落とし込む”寿限無

宗家の血を継ぎ、いままでずっと能をやってきた、ある意味正統派の跡継ぎ候補だった寿限無が、常に影のような存在で、宅配のバイトで食いつないでいた(というか宗家が動けないため観山家のために働いている)という献身に、寿一たちは胸が締め付けられるような顔をする。

そこへ寿限無が帰って来て、バイトで疲れていると思われるにもかかわらず、夕食の支度をしようとする。出生の秘密を淡々と聞いた寿限無は、話を“すべて丹田に落とし込み”、その後も変わった様子がなく、秀生の初舞台(『YES! 子供だって能(NO)』)の日がやって来る。この能楽堂の名前が「柊」で『ビューティフルライフ』の木村拓哉が演じる柊二の「柊」だった。女中の話を描くにあたり、事前に、さくらが部屋のドアに『家政婦は見た』的なポーズで立っているところも狙いを感じる。

開幕を前に、ダンスに未練のある大州(道枝駿佑)が姿を消し、代わりに、寿一が秀生(羽村仁成)と親子で能を舞う。こういう感動展開も最終回にありそうだけれど、まだ第4話。ドラマでよく主になっている部分に決して依らず、それはさっさと終わらせて次へ――。アイデアなんていくらでもあるというような作家のあふれる才能を感じる。

家庭のなかで事件が次々起こってすぐに解決して先にいくのは朝ドラっぽくもある。朝ドラ経験のある宮藤官九郎が朝ドラ的な短いエピソードを繋いでいくホームドラマという様式を1時間の連ドラに落とし込んだというふうにも見えてくる。それがかつて人気だった『寺内貫太郎一家』や『ムー』などのコメディタッチのホームドラマのスタイルとも通じるものがあるようにも感じるところが深い。
ついでに書けば、「能」って能年玲奈の「能」でもあったりして(考え過ぎ)。

「そうか、あのとき、俺達は兄弟で舞ってたんだな」と舞いながら寿限無と能の稽古をしていた頃を思い出す寿一。25年ぶりに帰ってきた寿一と寿限無が仲良く稽古をしていたり、部屋で語り合っていたりする姿や、いとこ同士で仲良く稽古している秀生と大州などを見るにつけ、友情のような家族愛のような、なんかいい感じがする。

「うるせえ、クソジジイ」

大州のみならず、寿限無も姿を消して、鐘のなかに隠れていた。中ですすり泣いていたことを秀生だけが知っている。

鐘から出てきた寿限無は寿三郎に冷たく「うるせえ、クソジジイ」と言い放つ。「クソジジイ」は栄枝が来た日、寿三郎が40年秘していた寿限無の秘密を明かしたとき、舞(江口のりこ)と踊介と寿一が「クソジジイ」「クソジジイ」「クソジジイ」と各々放った言葉だった。時間が経過してからのほうが効く。

長瀬智也『俺の家の話』4話 『あまちゃん』手がけた宮藤官九郎のテンポいい朝ドラ的様式が痛快
次回5話は2月19日放送。画像は番組サイトより

実の父に、自分だけ怒られ、「育ちが出る」「親の顔が見たい」などと厳しい稽古をつけられていたのだから、寿限無のやりきれなさはどれほどのものだろうか。

『道成寺』の舞台に立つとき寿限無がかぶった能面の表情は、自由に見るほうが想像でき、能面の効果をこれ以上ないほど発揮していて、ぞくりとさせる。一方、舞は、面をかぶらずに、小面のような顔に見えたり、ときには般若のような怖い母の顔になったりしている。

ところで、エンディングノートに書かれた、死ぬまでにしたい様々なことには、寿三郎の書いた文字と、さくらの書いた文字が混在している。「お姫様抱っこ」や「『ビューティフルライフ』のロケ地めぐり」はさくらのしたいことを寿三郎が叶えたいという意味で、さくらの文字で記されていた。


ロケ地めぐりは寿三郎とさくらのふたりでできたが、お姫様抱っこはたまたまさくらがめまいで倒れたところを、寿一が抱き上げた。全然ロマンチックじゃない、肩から逆さに抱えたものだが「お姫さま抱っこ」は叶ったことになった。父のやりたいことを叶えようと思う寿一が、さくらのやりたいことまで叶えている不思議さがある。

そして、さくらは早くも寿一がスーパー世阿弥マシンであることに気づいてしまっていた。やっぱり展開早っ。

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※第5話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします

番組情報

TBS系
『俺の家の話』
毎週金曜よる10時〜

出演:長瀬智也(→プロフィール)
戸田恵梨香(→プロフィール)
永山絢斗(→プロフィール) 江口のりこ(→プロフィール) 井之脇海(→プロフィール) 道枝駿佑(なにわ男子 / 関西ジャニーズJr.)(→プロフィール) 羽村仁成(ジャニーズJr.)(→プロフィール) 勝村周一朗(→プロフィール) 長州力(→プロフィール) 
荒川良々(→プロフィール) 三宅弘城(→プロフィール) 平岩紙(→プロフィール) 秋山竜次(→プロフィール)
桐谷健太(→プロフィール)
西田敏行(→プロフィール)

脚本:宮藤官九郎(→プロフィール)
音楽:河野伸(→プロフィール)
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未 佐藤敦司
演出:金子文紀 山室大輔 福田亮介

製作:TBSスパークル TBS
(C)TBS

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/oreie_tbs/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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