長瀬智也『俺の家の話』「親父最高!」最低の家族旅行を最高の旅行にした、人生を投影した寿三郎のステージ
イラスト/AYAMI

※本文にはネタバレがあります

親父最高!『俺の家の話』6話

『俺の家の話』(TBS系 毎週金曜よる10時〜)第6話は旅情篇。寿三郎(西田敏行)が過去に関係した女性たちとひとりひとりけじめをつけていく。いわく「浮名を流した男の最後の謝罪行脚」。


【前話レビュー】『俺の家の話』5話 寿一の亡き母をはっきり描かないことで描く女たちの涙

まずは、かつて能をはじめとして芸ごとに興味をもっていたちはる(田中みな実)。だが彼女はすでに能から農業(オーガニック)へと興味を移していた。しかも結婚して子供もいる。せっかく100万円もしそうな大江山の面を贈ったが、猫に小判的で、寿三郎は苛立つ。

次は、水戸のカラオケスナックの豆千代(池津祥子)。元・新橋の芸者。
いまは内縁の夫が服役中。3人の子供と認知症の母の介護をしている彼女に「幸せにできなくてごめんね」と謝罪する寿三郎に、「幸せじゃねえなんて一言もいってねえじゃんか。なんで決めつけるんだよ」と寿一(長瀬智也)がたしなめると、「幸せに見えます?」と豆千代はかぶせ気味に聞く。それ以上、その話は続かないけれど、なんか刺さった。これもひとつの「秘すれば花」か。

3人目は、ハワイアンリゾートのそばの旅館のまゆみ(紫吹淳)
一度は結婚まで考えた仲だったが、いまの彼女は人気ムード歌謡グループ「潤 沢」のリーダーたかっし(阿部サダヲ)に夢中だった。

女性たちはみんなそれぞれの生活を築いているのだから過去を蒸し返す必要はないのではと言う寿一に、会うのがこれで最後になるであろうと覚悟を語る寿三郎。「秘すれば花」の意味が寿一と寿三郎とでは違うところが、生きてきた体験の違いであろうか。寿一は、昔の恋のことを今さら明かす必要ないと考え、寿三郎は、いまの彼女たちの状況はさておいて、自分たちの関係を最後まで素敵にしておきたいのだ。寿三郎の夢見る力の強さこそが名優たる所以かもしれない。

6話のメインは阿部サダヲ

だが、過去の3人の女はある意味前座であった。第6話のメインは、阿部サダヲ。
長瀬智也 対 阿部サダヲ。西田敏行 対 阿部サダヲ。伝統芸能 対 たたきあげの芸人。

阿部が演じる、純烈の人気のすきまを縫って活躍している(いるいる、こういう似たものタレント)たかっしを「ドサ回りの三流芸人」と見下す寿三郎と、寿三郎のことをたまたま伝統芸能の家に生まれてきただけで、「あんな体になってもえらそうにふんぞりかえって」いられて気楽だとバカにするたかっし。

カチンと来た寿一だったが、ステージを見て、彼の芸のすごみを知る。おばちゃんたちがひととき、何もかも忘れて心から楽しんでいる。
それはなかなかできるものではない。

「ババアが波うってる。その波にあいつが乗ってる」(踊介)
「なにこのどうでもよさ。なにこの多幸感」(舞)
「なんだろう、この敗北感」(寿一)

魅入られる観山家(踊介がものすごく無邪気に油断しまくったポーズで見ている表情がいい)。

なりゆきで、たかっしと共演することになった観山家。たかっし、寿一、寿限無(桐谷健太)、踊介(永山絢斗)の4人がおばさまたちの前で「秘すれば花」(作詞:なかしに札、作曲:筒美洋平)を歌うシーンは見ものだった。


とりわけ、寿一が最初、端にいたが、マイクをカーンッと華麗に蹴って、歌いだし、最終的にセンターに収まったときは、さすが長瀬智也。さすがTOKIO。さすがジャニーズ。華がありすぎる。阿部サダヲも華があるけれど、違う華。猥雑な色気の阿部サダヲ。
大人になっても正当派な長瀬智也。ステージの制し方が違う。桐谷健太も、紅白出場歌手なのだが、ここではすこし控えめ。永山絢斗は素人っぽさを強調する。

そして、トリは、西田敏行。かつて「もしもピアノが弾けたなら」(81年)で大ヒットを飛ばした歌える名優が「マイウェイ」を歌い上げる。車椅子が電飾で光り、背中には花。自分が歩んできた道を振り返り、<信じたこの道を私は行くだけ>と歌いながら、出会ってきた女たちのいまの日々が挿入される。

お面を飾ってオーガニックカフェで働くちはる。観山寿三郎の名入扇子で花吹雪を散らす豆千代、そのステージを見つめるまゆみ。そして、家族の思い出……。

泣ける。西田敏行のミルフィーユのように層が重なった人間的魅力にただただ泣ける。老いているけど女たちと会うときはせいいっぱいカッコつけていてしゃんとしているし、ステージで歌っているときもカッコいい。阿部サダヲがぐいぐい攻めたからこそ、長瀬や西田のそれぞれのすごさも際立つのだ。

「親父最高!」と「ぶくろ最高」(IWGP)のテンションで声をあげる寿一。子どもたちがみんな素直になった(寿限無の凍てついた心も溶けた)瞬間、記念写真を撮ったのはーー。

介護支援専門員・末広涼一(荒川良々)。家族流行に同行したがっていたのは、自腹を切らずに旅行に行けるからかと思いきや、今回、同行できなくても、絶妙な距離感をとりながら、ケアしていた。なんといっても、寿三郎が車椅子で坂を下って崖の下にあわや……というときに助けたことにはシビレた。

長瀬智也『俺の家の話』「親父最高!」最低の家族旅行を最高の旅行にした、人生を投影した寿三郎のステージ
次回7話は3月5日放送。画像は番組サイトより

山賊抱っこ再び

さて、寿三郎の行脚のために、お留守番になったさくら(戸田恵梨香)。誕生日だったのに、お留守番でいることがつまらないのと、寿一の山賊抱っこが忘れられず、ハワイアンリゾートに押しかけて来てしまう。「抱っこしてください」と積極的に迫り、再び「山賊抱っこ」をしてもらい、それだけで満足して、ひとり東京に戻る姿はなんとも不思議ながら健気にも映る。

彼女のまあるい臀部を肩にかかえている寿一は、まるで小鼓を構えているみたいで、いつか、ぽん!と打ってしまうんじゃないかとドキドキする。

スパリゾートハワイアンズに着いたとき、「蒼井優さんいる?」という寿三郎のセリフがあったのが、彼女が出演したスパリゾートハワイアンズのフラガールをモデルにした映画『フラガール』(06年)にかけたもの(映画には南海キャンディーズのしずちゃんも出ていた)。蒼井優は、宮藤官九郎と長瀬智也と西田敏行のドラマ『タイガー&ドラゴン』にも出ていたので、それも思い出す。

映画のヒットで、この施設も盛り上がったが、コロナ禍、経営が苦しくなって東京本社が廃止になっている。ドラマのなかでも客席はソーシャルディスタンスに気遣って市松状になっていた。コロナ禍のみならず、施設のある福島県いわき市は東日本大震災の被害にも遭っている。『あまちゃん』のときもそうだったけれど、『俺の家の話』にもいろいろな被害に遭っている人たちを芸能で応援したい気持ちが滲み出ている。

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※第7話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします

番組情報

TBS系
『俺の家の話』
毎週金曜よる10時〜

出演:長瀬智也(プロフィール)
戸田恵梨香(プロフィール)
永山絢斗(プロフィール) 江口のりこ(プロフィール) 井之脇海(プロフィール) 道枝駿佑(なにわ男子 / 関西ジャニーズJr.)(プロフィール) 羽村仁成(ジャニーズJr.)(プロフィール) 勝村周一朗(プロフィール) 長州力(プロフィール) 
荒川良々(プロフィール) 三宅弘城(プロフィール) 平岩紙(プロフィール) 秋山竜次(プロフィール)
桐谷健太(プロフィール)
西田敏行(プロフィール)

脚本:宮藤官九郎(プロフィール)
音楽:河野伸(プロフィール)
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未 佐藤敦司
演出:金子文紀 山室大輔 福田亮介

製作:TBSスパークル TBS
(C)TBS

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/oreie_tbs/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami