※本文にはネタバレがあります
宮藤官九郎が本心見せる『俺の家の話』2話
「要介護〜1と認定されし候♪」(寿三郎が能のメロディで)「YO YO 俺のじいさん 要介護♪」(孫の大州がラップで)
【前話レビュー】「息子だからできねえんだよ、ちくしょう」リアルな台詞に共感『俺の家の話』1話
宮藤官九郎脚本、長瀬智也主演で介護を描く『俺の家の話』(TBS系 毎週金曜よる10時〜)。第2話は能舞台から始まった(1話はプロレスのリング始まりだった)。
主人公の観山寿一(長瀬智也)がプロレスラーを引退して、親・寿三郎(西田敏行)の介護のために25年ぶりに実家に戻り、能楽師のあとを継ぐことにする。
まずは、能とはなにかがかいつまんで説明されるなかでの衝撃情報は「真ん中で優雅に舞っている人間がじつはいちばん貧乏なのだ」ということ。公演に関わった人たちのギャラは「シテ」(主役)が払う。
だが、目下、寿三郎の代わりに地方公演などをやっている芸養子の寿限無(桐谷健太)のギャラではみんなにギャラが払えない。宅配バイトをしていて、デリバリーバッグを背負う姿には哀愁があった。
寿一はもともと貧乏なうえ、離婚した妻のユカ(平岩紙)に養育費を払わないとならないので、同じく宅配のバイトを始める。たまたま届けに行った家がプロレスの後輩・プリティ原(井之脇海)の家で、原は寿一の変わり果てた姿に涙する。そんな原も、大食いの彼女(3時のヒロイン・かなで)がなかなか個性的である。
寿三郎の婚約者・さくら(戸田恵梨香)が寿一にお金を貸すと持ちかける。ここで、「褒められた。親父にも褒められたことないのに」とまさかのガンダムネタ(「親父にもぶたれたことないのに」)。宮藤官九郎とアニメネタは新鮮な気がする。師匠である松尾スズキはアニメネタを舞台作品に入れてくることがあるけれど。
能や柔軟剤を変えたことを褒められて舞い上がった寿一は、さくらに「晩ごはん何にします?」と聞かれて、「すき」――で場面が変わり、一家で「すき焼き」に。
思わず「好き」と言ってしまい、そういう意味じゃないとなるドラマを最近、続けざまに観ている。ひとつは『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』。菜々緒演じるセレブな編集長が出版社の副社長と焼き鳥屋に行って、「好きです」「焼き鳥」と言う。もうひとつは朝ドラ『おちょやん』。ヒロインの濃い化粧を「僕は好きだよ」と言って、あくまで化粧のことだとごまかすヒロインに恋する助監督のエピソードがあった。こういう素朴なものが昨今流行っているのだろうか。
それはともかく。踊介(永山絢斗)がさくらの後妻業らしき証拠を掴んできたので、寿三郎のいる前で問い詰めると、さくらは悪びれない。寂しい老人に尽くした分、もらえるものはもらっていると堂々と答える。あくまで寂しい老人のお世話であり、そこには恋愛感情がないと知った寿三郎は落胆。
さくらの後妻業疑惑が2話で早くも明かされてしまうとは思いがけなかった。
ぶっきらぼうながらも優しさ溢れ出る寿一の介護
現金がない。後妻業は居座り続ける。寿一は寿三郎の介護も、能の稽古も懸命にやっているにもかかわらず、寿三郎は寿一をまったく褒めてくれない。「親父は寂しい老人なんかじゃない。俺がいる。舞がいる。踊介がいる。寿限無がいる」と良いことも言っているのに……。さらに、寿一の息子・秀生(羽村仁成)が始めた能をべた褒めする。喜びと嫉妬が渦巻く。
口数少なく、心の中だけで饒舌に語っている寿一は、表情がぶっきらぼう(マスクしていることも多い)。だが、父をぶつくさ言いながらもかいがいしく世話しているときに持ち前の優しさが漏れ出ている。寿一のような介護ヘルパーがいたら人気が出るだろうなあ。
一方、寿三郎。車椅子生活ですっかり脱力しているけれど、息子や孫の能を見ているときの顔はちょっと違ってピリッとしている。父も子も根っから真面目で、家族にはちょっと不器用になってしまう。おずおずと25年の空白を埋めていくふたりの姿は、介護を含め、親子関係にうまくいってない悩みを抱える視聴者には救いになる。
以前、演出の金子文紀さんに取材したとき、こんなことを言っていた。
「宮藤さんは照れ屋だから、セリフにもト書きにも、そういう感情(お父さんの老いた姿を見るつらさや、家族が頑張ってお父さんを応援しようという気持ち)はほとんど書かないんですよ。でも、視聴者が見たいのはそういうところですよね。だから、演出のほうでそこをちゃんと拾う。そのやり方は『木更津キャッツアイ』と似ています。
宮藤さんの脚本は大体そうなんですけど、表面だけ読むと、不謹慎でナンセンスな、おばかなことしかやってないように見えるんだけど、本当はそれだけをやりたいわけじゃない。宮藤さんのそういう脚本で介護を描くことは難しいですけど、やりがいはあると思っています」
――Yahoo!ニュース 個人
「逃げ恥」からはじまったTBSドラマの人気は今年も続くか ヒットメーカーが考えるブームの理由より
今回は、おばかなセリフもあるけれど、情の表現も多めな気がする。いままで、徹底的にしゃれのめしてきたところを、すこしだけ本心をのぞかせてみることで、たくさんの人が、宮藤官九郎作品の中に詰まった普遍的な感情に気づいて、じわっとくるだろう。老いと付き合うことはすこしだけ素直になることなのかもしれない。ほんとは、いくつになっても、暴走してほしいけれど。
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※第3話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします
番組情報
TBS系『俺の家の話』
毎週金曜よる10時〜
出演:長瀬智也
戸田恵梨香
永山絢斗 江口のりこ 井之脇海 道枝駿佑(なにわ男子 / 関西ジャニーズJr.) 羽村仁成(ジャニーズJr.) 勝村周一朗 長州力
荒川良々 三宅弘城 平岩紙 秋山竜次
桐谷健太
西田敏行
脚本:宮藤官九郎
音楽:河野伸
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未 佐藤敦司
演出:金子文紀 山室大輔 福田亮介
製作:TBSスパークル TBS
(C)TBS
番組サイト:https://www.tbs.co.jp/oreie_tbs/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami