長瀬智也×宮藤官九郎『俺の家の話』「息子だからできねえんだよ、ちくしょう」リアルな台詞に共感
イラスト/AYAMI

※本文にはネタバレがあります

家族の悲喜こもごもの物語で終わらない『俺の家の話』1話

宮藤官九郎脚本、長瀬智也主演『俺の家の話』(TBS系 毎週金曜よる10時〜)はプロレスの試合からはじまった。

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試合をしながら、主人公・ブリザート寿こと観山寿一(長瀬智也)が自分語り、要するに“俺の話”を7分間ほどする。“俺の家の話”に入る前に“俺の話”。


能楽師で人間国宝である観山寿三郎(西田敏行)の長男に生まれた寿一は4歳で初舞台を踏み神童と言われたが、17歳のときに家を出てプロレスラーになった。家に寄り付かなくなって25年、父危篤の報せをきっかけに、プロレスラーを引退、実家に戻ることになる。そこからが“俺の家の話”。

日本は高齢化社会。テレビドラマを視聴する人は4、50代以上が多い。観る人も作る人も介護問題に差し掛かっているということで、宮藤官九郎が挑んだ介護ドラマは、一定数の人にとってとても身につまされるものだった。
その感じはSNSの反応でわかる。親の介護に関する共感の声が散見された。

父が倒れ介護状態になったにもかかわらず、年子の妹・長田舞(江口のりこ)と弟・踊介(永山絢斗)は遺産の話をしている。現実的な欲望にまみれたふたりが寿一には不謹慎に思えるが、2年前、彼が不在の間に父が脳梗塞で倒れたときに、舞と踊介はいま寿一が抱える思いに向き合っていたと反論する。

父が倒れたショックや哀しみはもう十分味わって、「次のフェーズに入ってる」と言う妹に、「フェーズ?」「フェーズ?」「フェーズ?」と理解できない寿一。言葉の意味のわからなさと、25年家にいなかった者とずっとこの家にいた者とのわかりあえなさが重なり合って、可笑しいし物悲しい。


舞は流行り言葉を使ってみたいが、寿一は流行りをまったく知らず、いまだガラケーで家族のグループLINEに参加できない。すべてにおいて、25年かけて遠く離れた長い長い家族の距離。

だが、「親だと思うと倍重たいのよ」「ただの重たい爺なんだ」と語る妹と弟の実感を、寿一は実際に介護をしてみて気づく。風呂とおむつ(OMT)の世話を担当することになった寿一。風呂場で衰えた父を抱えて運び、老いた肉体を見つめ、目をそらさずにはいられない。

「息子だからできねえんだよ、ちくしょう」

車椅子生活となった父の存在が、ばらばらの3兄弟を結びつけていく。


チャップリンの有名な言葉「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見ると喜劇である」にはじまって、涙あり笑いありの人生を描こうとする物語はこの世にたくさんあるが、砂糖と塩が口のなかで分かれて、味に深みのない物語も少なくないなかで、宮藤官九郎の書く物語は味がみごとに混ざっている。そういう人生が身についている感じがして、だからこそ、観ると安心する。

風呂場でカラダを洗うスポンジを持ちながら、寿一が泣いてないとうそぶくとき、ぎゅっと握ったスポンジから涙の代わりに小さな水滴が落ちる。宮藤官九郎の脚本と金子文紀の演出と長瀬智也の芝居との相性の良さを感じたワンカットだった。

さくらにまさかの疑惑…どうなる!? 観山家

認知症の兆候も出はじめている寿三郎だが、長年やってきた能は忘れない。そんな切なさも描く。

1話の終わりは家族そろっての食事。
25年、家から離れていた寿一は、父に褒めてほしかった一心だったのだが、久しぶりに帰って、家族で食事をとるとき、「いただきます」に長男感があると舞に言われ、「このままずっといただきますだけ言っとけ」と父に言われ、「褒められたね」と息子の秀生(羽村仁成)に言われる。これが初めての褒めなのか? と認めたくなくても、まんざらではない寿一。

……良い話である。でもこれだけだったら、親の介護を主とした家族の悲喜こもごもの物語で済んでしまうところ。ここに、秀生が学習障害に多動症であることや、寿三郎の年の差婚がプラスされて混沌としてくる。

寿一は離婚していて、定期的に息子に会っているとか、借金があるとか、プロレスラーとして先がもうなかったとか、とことん追い詰められている。
能楽師として父の跡を継ごうと思うのは、遺産に期待した部分もあった。ところが、寿三郎は、デイケアサービス「あつまれやすらぎの森」(このネーミングもさすが)で知り合った新人介護士・さくら(戸田恵梨香)と再婚を決め、遺産はすべて彼女に譲ると宣言して、兄弟を呆然とさせる。

長瀬智也×宮藤官九郎『俺の家の話』「息子だからできねえんだよ、ちくしょう」リアルな台詞に共感
次回2話は1月29日放送。画像は番組サイトより

「カトちゃんパターン」と誰もが想像する実際の年の差婚を指摘する舞。踊介が調べたところ、さくらは後妻業ではないかという疑惑が立ち上がる。ここのところ『大恋愛〜僕を忘れる君と』や朝ドラ『スカーレット』などで、カラダがやせ細っていくような深刻な役が多かった戸田恵梨香が久しぶりに茶目っ気と毒っ気あふれる演技で楽しませてくれる。

さくらが現れたことで、若干結束する3兄弟。
芸養子になった寿限無(桐谷健太)も合わせて4人で能の「羽衣」を謡い、その妙な迫力にさくらが「呪いの儀式かと思った」と怯える場面もおもしろかった。

なんだかんだで血のつながった親子なのである。「お久しブリザード」の寿一、「やりまセンチュリーハイアット」の寿三郎、ダジャレの趣味も似ている。

能舞台には橋があって、あの世とこの世をつないでいる。余命半年と宣告された父と家族を描く舞台にこれほどふさわしいものもない。寿一が神聖な舞台の上で子どものときにプロレスごっこをしていたという思い出もいい。父と息子を唯一繋ぐのがプロレスだったということも。

「壊れかけのradio」という言葉選びなどは宮藤ドラマらしいなあと思うし、「反則しても血が流れても、なんか節度があって品があっていい」という寿三郎のプロレス評の真摯さは芸の道に生きる人物らしい本質に触れた台詞。

「俺たちが勇気をふりしぼるのはな、リングシューズを履くときじゃねえんだよ、脱ぐときなんだよ。察してやんな」という長州力役の長州力本人が言うからこそなんだかしびれる台詞もある。硬軟取り混ぜて自由自在で、ひとりひとりの人生から出てくる台詞になっている。

このレベルの作家が何人かいて、ドラマを書いてくれたらテレビ離れなんてなくなるのになあと切に願う。

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※第2話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします

番組情報

TBS系
『俺の家の話』
毎週金曜よる10時〜

出演:長瀬智也
戸田恵梨香
永山絢斗 江口のりこ 井之脇海 道枝駿佑(なにわ男子 / 関西ジャニーズJr.) 羽村仁成(ジャニーズJr.) 勝村周一朗 長州力 
荒川良々 三宅弘城 平岩紙 秋山竜次
桐谷健太
西田敏行

脚本:宮藤官九郎
音楽:河野伸
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未 佐藤敦司
演出:金子文紀 山室大輔 福田亮介

製作:TBSスパークル TBS
(C)TBS

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/oreie_tbs/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami