『おちょやん』第13週「一人やあれへん」

第62回〈3月2日 (火) 放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

朝ドラ『おちょやん』酒と女で母を泣かせた父を許せないのに女性にデレる一平の矛盾 「芸の肥やし」とは
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

芸の肥やし

京都篇の登場人物たち(カフェー・キネマのメンバー)が再登場した。にわかに起こった襲名問題をきっかけに、一平(成田凌)は別れた母を探しに京都へ向かう。一平の母の捜索篇がはじまった。


【前話レビュー】一平は千代のことを真剣に好きなのか考える……結論。作家とか俳優はやばい

12週は、長年の懸念事項だった千代(杉咲花)と弟との関係が、ある意味、解決したので、今度は一平の番。千代と一平が父母の愛情に飢え、孤独であることで結びついているので、お互いが家族の問題に向き合うことで、ふたりの関係が更新されていくという構造が見える。

一平が父と母を乗り越えて一人前になる通過儀礼のお膳立ては千代がする。

鶴亀株式会社の大川社長(中村雁治郎)に命じられた天海天海の二代目襲名を一平が断った理由は、亡くなった父(茂山宗彦)にわだかまりがあるからだ。「天海天海になるくらいだったら役者辞めるわ」と言う一平に「どのみちおまえみたいなものが天海名乗るんは100億年早いんじゃ」と千之助(星田英利)は厳しい。


「襲名」とは親もしくは師匠の名を代々継ぐこと。江戸時代は商人なども代々同じ名前を継ぐことがあったが、その慣習は歌舞伎や能、落語などの伝統芸能の世界に未だに残っている。代々同じ名前を継ぐことがその人物の芸の成長の証であり、格が上がる。

襲名披露の行事は興行にも良い影響を与えるため盛大にやって盛り上げる。天海のモデルの渋谷天外の場合、京都撮影所の守衛を演じていた渋谷天外は三代目で、二代目が一平のモデルである。

俳優にとって襲名は大事。
大川社長は天海天海の名を継がないのなら、一平を雇っている価値はないと言う。

一平は父がどんなに芝居が巧くても、酒と女で妻子を泣かせたことが許せない。それを芝居仲間は「芸の肥やし」だと言う。千代は一平も女性好きであることを鋭く指摘する。

そう、一平は、矛盾を抱えている人物なのである。一平が新しい演劇をやろうとしているのは父を乗り越えたい想いもあるだろう。
でも、どうしても父に似てしまうことから逃れられないのである。

このようになぜか、千代より一平の物語に力を入れて描いているような印象を受けるのは、作家が同性だからであろうか。男性が女性好きなところを「それは男の悲しい性(さが)ってやっちゃ」と漆原(大川良太郎)に説明させ、福富の旦那(岡嶋秀昭)がうんうん頷くカットまで入れてくる。男性の言い分を丁寧に描いているのだ。それもステレオタイプの。

朝ドラ『おちょやん』酒と女で母を泣かせた父を許せないのに女性にデレる一平の矛盾 「芸の肥やし」とは
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』酒と女で母を泣かせた父を許せないのに女性にデレる一平の矛盾 「芸の肥やし」とは
写真提供/NHK

さらに、この回、福助(井上拓哉)までが他の女性とお茶をしていて、みつえ(東野綾香)を怒らせ、男性が他の女性に目移りするものであることを強調する。


そんな男たちに納得いかない千代は、自身の女性性をはじめとした、心の内の問題にまったく考え及ばず、一平や千之助の聞き役に回るばかり。千代によって、彼らの言葉にできない男の意地が言葉になって出てくるという役割を立派に果たすのだが、主人公の役割としてはすこし物足りない。どうしても、『半沢直樹』で上戸彩が演じた主人公のよき相談相手である奥さんのように収まってしまっている。

千代と一平、京都へ――

一平の母・夕は、天海に追い出されていた。だから、一平は父を恨んでいる。彼の気持ちを落ち着かせるため、千代は一平と母を合わせようとする。渋る千之助からなんとか母の情報を聞き出し、ほげたを使い、一平に芝居を観に行こうと京都に連れ出す千代。
だが、その場所にすでに母はいなかった。

なつかしのカフェー・キネマに立ち寄り、協力を求める千代。マスター(西村和彦)は、カメラ目線で「スタート!」をかけて京都編再開を印象づける。

最初は、一平が気に入らない様子のマスターも、煮詰まったコーヒーをコクがあると褒めてくれたのですっかり機嫌が良くなる。
マスターはこれまでも千代のことをわりと気に入ってるふうな素振りを見せてきたが、これは恋愛感情ではなく、あくまでも保護者的な感覚と思っていいだろうか。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮田圭子(岡田ハナ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■いしのようこ(富川菊役)プロフィール・出演作品・ニュース
■星田英利(須賀廼家千之助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■板谷由夏(夕役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西川忠志(熊田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村和彦(宮元潔役)プロフィール・出演作品・ニュース
■明日海りお(高峰ルミ子役)プロフィール・出演作品・ニュース
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■中村鴈治郎(大山鶴蔵役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami