
5年ぶりの『ARIA』完全新作アニメーションが劇場で公開
2005年〜2008年に3度もテレビアニメ化され、2015年〜2016年には完全新作の『ARIA The AVVENIRE』も劇場上映された天野こずえの人気コミック『ARIA』の優しく温かな世界が再び劇場に。3月5日(金)、TVアニメ放送開始15周年記念作品の完全新作アニメーション『ARIA The CREPUSCOLO』が全国77館の劇場で公開される。【関連記事】『ARIA』佐藤総監督×名取監督「またやれたらという予感や気持ちはあった」
水の惑星「アクア」のネオ・ヴェネツィアを舞台に、「ウンディーネ」と呼ばれる観光水先案内人の少女達を中心とした日常が描かれていく『ARIA』。
エキレビ!では、15年間にわたってアリスを演じてきた広橋涼、本作からアテナを演じることになった佐藤利奈、前作『AVVENIRE』で初登場したアニメオリジナルキャラクターのアーニャを演じる茅野愛衣による鼎談を実施。この前編では、まず公開間近の心境から語ってもらった。
スタッフさんも『ARIA』が大好きだって伝わるような映像
──当初は2020年冬に公開予定と発表されていたものの、新型コロナ感染症の影響によって公開時期が変更になった『ARIA The CREPUSCOLO』がいよいよ公開されます。現在の心境を教えてください。佐藤 私は今回からアテナさんを引き継がせていただいたのですが、じつは、収録からはけっこう時間が経っておりまして。皆さんに観てもらえるまでは、生きた心地がしないというか(笑)。ずっと2020年が終わっていないような心持ちでした。完成した作品も皆さんより一足早く拝見して、すごく素敵な作品だったので、それをようやく皆さんにも観てもらえる「やった!」という気持ちと同時に、私自身に関しては「どうなのかなあ……」という気持ちもあって。いろいろと複雑な感情が入り混じっています。お二人はどうですか?

広橋 今日、この3人とサトジュンさん(佐藤順一総監督)、監督の名取(孝浩)さんの5人で、(2月28日に行われた)完成披露上映会で流していただく映像の収録をしたのですが。その時にも着ていたこの衣装って、じつは、昨年(2月27日〜3月4日に)開催される予定だった、ファンの皆さんと一緒にヴェネツィアへ行く聖地巡礼ツアーの企画(『ARIA The MANHOME〜una bella passeggiata〜』)の時、現地のステージで着ようと思っていたお洋服だったんです。しわがつかないので海外にも持って行きやすいなって選んだワンピースなんですけどね(笑)。
──約1年越しでワンピースの出番が来たのですね。
広橋 本当は、ヴェネツィアでこのワンピースを着て、皆さんに「『ARIA』の映画やりますよ!」って発表するはずだったんです。この上映会では、直接、皆さんとお会いすることはできないのですが、「『ARIA』の映画、公開されますよ!」と言えたことがすごく嬉しいです。しかも、3月5日からは全国の映画館でも観ていただけるわけじゃないですか。それって、今の状況の中では、すごいことだと思うし、感謝の気持ちでいっぱいです。このまま無事に皆さんのもとに届いてほしいということが今、いちばん思っていることです。
──作った作品を上映し、観たいと思う人が観に行くという、以前は当たり前にできていたことが、簡単ではない世界になってしまいましたね。
広橋 「当たり前」とか「普通」と感じていたことが、じつはこんなにも奇跡みたいなことの積み重ねで生まれているんだってことは、この状況にならないと気づけませんでした。『ARIA』だけではなくて、この世の中は、本当に素敵な"みらくる"の連続で成り立っているんですよね。
茅野 今回の映画は、当たり前のことが当たり前じゃなくなっている今のタイミングにすごく優しく寄り添ってくれるお話だと思うし、そういう言葉がセリフの中にあったりもするので、今、観てもらえることをとても嬉しいと感じています。
広橋 いい言葉だよね。
──アレッタ(CV:安野希世乃)は、アーニャの幼なじみの女の子で、空飛ぶバイクに乗り、一人前の風追配達人(シルフ)を目指しています。作中には、アーニャと一緒に登場しますね。
茅野 はい。だから、私自身もアーニャちゃんと一緒にその言葉をもらったとき、嬉しくて宝物だと思いました。もちろん、それ以外にもたくさん素敵な言葉はあるんですけれど、アレッタちゃんの言葉は、今だからこそ、皆さんにより届くんじゃないかなって。
広橋 絶対に届くよ〜。台本を読んだときから、アレッタちゃんのセリフは「すごくいい! 大好き!」と思ったんですけど、完成した映像を観たら……。
佐藤 うんうん。すごくよかった!
広橋 映像と音楽と、安野ちゃんのアレッタと愛衣ちゃんのアーニャのやり取りが素晴らしくて……。すごくいいシーンになっています。
佐藤 そのシーンに限らずですが、作品に携わっている皆さんの力が合わさってる感じがしますよね。
茅野 そうなんですよね。天野先生の絵を本当に繊細にアニメにしてくださっていて。髪の毛の一本一本を描いて動かす方がいて、そこに光を当てる方がいて。いろいろなお仕事をしている方々の手によって、一つの作品が出来上がっていることを改めて実感しました。しかも、こんな大変な時期なので、そういった作業をされるのも、以前より難しいことがあったかもしれないんですけど。作っているスタッフの皆さんも『ARIA』が大好きだって気持ちが伝わるような映像になっていたんです。それだけで泣けるというか(笑)。本当に素敵な映画だなと思いました。

私にとってのアテナさんが3人もいることになった
──『ARIA』は、2008年に原作とアニメが足並み揃えて美しいフィナーレを迎えた作品です。そのため、2015年に完全新作のアニメ『ARIA The AVVENIRE』が制作されたときには、ファンの間でも大きな驚きと喜びがありました。広橋さんと茅野さんは、『AVVENIRE』の後も『ARIA』の新作が作られて、またアリスやアーニャを演じる機会が来ると想像していましたか?広橋 また新しく『ARIA』が作られると想像していたわけではないのですが、『AVVENIRE』で終わりという感覚も特になかったんです。というのも、『ARIA』のキャストさんとは以前と変わらず、会ったり連絡を取ったりしていますし(笑)。
──では、新作が作られることを聞いたときには、どのようなお気持ちでしたか?
広橋 正式に(『CREPUSCOLO』の)お話を聞く前に、「『ARIA』で何かをやるよ」みたいなことは、ちらっと聞いていたんです。でも、「何をやるんだろう? イベントかな?」みたいに思っていて(笑)。だから、劇場で新作をやると聞いたときには、びっくりしました。また新しい映像で(アリスとして)会話ができることが嬉しくて。こんなに素敵なことってあるんだなって。特に、アテナさんとまた会話できることがすごく楽しみでした。『AVVENIRE』にもアテナさんは出てきたんですけど……。
──少しだけ登場しましたが、新規収録された台詞はなかったですね。
広橋 『AVVENIRE』でアテナさんが出てくれたときもすごく嬉しくて。その時も「こんなことあるんだ。こんな風にアテナさんが出てくれるんだ」って、すごく幸せだったんです。
佐藤 ありがとうございます。
広橋 とも子さんに、(河井)英里さんに、利奈ちゃん。私にとってのアテナさんが3人もいることになって。「いいんですか? こんな贅沢!」みたいな気持ちになりました。

茅野 私は『AVVENIRE』の時に初めて、大好きな『ARIA』に携わることができたのですが、そのときは、とにかく嬉しい気持ちでいっぱいでした。嬉しすぎて、ただただ泣いてるみたいな(笑)。
広橋 あはは(笑)。
茅野 打ち上げで皆さんとご飯を食べに行ったときも、私、ご挨拶できないくらい、ひたすらずっと泣いてて(笑)。
──以前、エキレビ!の佐藤順一総監督との対談でも、『ARIA』に対する思いを語っていただいたことがありました。
茅野 そして、この業界に入ったら、「この世界にどうぞお越しください」と『ARIA』の世界に招いていただけて。さらに今度は、アーニャちゃんの所属しているオレンジぷらねっとのお話が映画になって、先輩方と一緒に舞台挨拶にも出させていただける……。もう「これは夢かな?」みたいな感覚なんです。本当に、10年くらいずっと夢を見ているのだったら、どうしよう(笑)。
佐藤 あはは(笑)。
広橋 怖い怖い(笑)。
茅野 そんな風に不安になるくらい、嬉しい驚きでした。
きっと『ARIA』はどんな人も優しく迎えてくれるはず
──では、本作からアテナ役を引き継ぐことになった佐藤さんに伺いたいのですが、アテナ役に関しては、オーディションなどが行われたのですか?佐藤 いえ、佐藤監督から事務所を通して、「今回はどうしてもアテナさんに喋ってほしいと思っているのですが、どうでしょうか?」という形でオファーをいただきました。私も、このお話をいただく前から『ARIA』という作品のことは存じていまして。全部のお話を観ていたわけではないですが、アテナ役をとも子さんがやられていて、アテナさんの歌を英里さんが歌われているということも知っていました。お二人とも大好きな先輩方なんです。だから、そういったお話をいただけたことは、とても光栄でありがたかったのですが……。
──「はい、やります!」と即答できるようなことではなかったですか?
佐藤 すべての役者さんやその方のお芝居は唯一無二の存在だと思うのですが、とも子さんは、その中でも特に唯一無二というか……。すでに、とも子さんの別の役を引き継がれている役者さんもいらっしゃいますし、私よりも、もう少し声やお芝居の色合いがとも子さんに似ている役者さんの方がいいのではないかなと思って。失礼ながら、一度、そのようなお返事を伝えていただいたんです。そうしたら、佐藤監督が直々にメッセージをくださって。「僕は、佐藤さんにはとも子さんと似ているものがあると思います。ただ、とも子さんのアテナさんは追わなくていいので、佐藤さんのアテナさんを作ってください」と仰ってくださって。あの佐藤監督が私の中に、とも子さんと似ているものがあると思ってくれていることがすごく嬉しかったんです。とも子さんが大好きなので、「え! 本当ですか? やったー!」みたいな(笑)。
広橋&茅野 あはは(笑)。
佐藤 それに、とも子さんのお芝居も英里さんの歌声も大好きだから、お二人のお芝居や歌にきちんと向き合える貴重な機会でもあるんだと思って。これを逃したら、こんな機会は二度とないかもしれないと考えて、思い切って飛び込んでいこうと決めました。それで『ARIA』を最初からしっかりと観始めたのですが、『ARIA』という作品は素敵すぎて。最初はお勉強というか、お芝居に活かそうというつもりで観始めるのですが、気づけば普通に観てしまっていて。「あ!」って我に返り、もう一度、観るみたいな(笑)。
──観ているうちに自然と気持ちが癒されていくので、仕事モードで観続けるのが難しいことはすごくわかります。
佐藤 夜中にお風呂で「いいなあ……」って涙を流しながら、観たりもしました(笑)。観ているうちに、「私もリアルタイムで観ながら、同じ時間を過ごしたかったな」という思いと、「今の時代に『ARIA』に出会えて嬉しいな」という相反する思いが浮かんできて、すごく不思議な感覚でしたね。きっと私のように、この『CREPUSCOLO』から『ARIA』の世界に触れる方もいらっしゃると思うのですが、きっと『ARIA』はどんな人も優しく迎えてくれるはず。そういったところも含めて、今までに出会ったことのない作品だなと思いました。
【鼎談後編】広橋涼・佐藤利奈・茅野愛衣「5年ぶりの『ARIA』も誰にでも何かの気づきをくれる作品」
作品情報
『ARIA The CREPUSCOLO』2021年3月5日(金)全国公開
【CAST】
アリス・キャロル:広橋涼
アテナ・グローリィ:佐藤利奈
アーニャ・ドストエフスカヤ:茅野愛衣
まぁ:渡辺明乃
水無灯里:葉月絵理乃
アリシア・フローレンス:大原さやか
愛野アイ:水橋かおり
アリア:西村ちなみ
藍華・S・グランチェスタ:斎藤千和
晃・E・フェラーリ:皆川純子
あずさ・B・マクラーレン:中原麻衣
原作:天野こずえ「ARIA」(ブレイドコミックス/マッグガーデン刊)
総監督・脚本:佐藤順一
監督:名取孝浩
キャラクターデザイン・総作画監督:伊東葉子
美術監督:氣賀澤佐知子(スタジオユニ)
色彩設計:木村美保
撮影監督:間中秀典
音楽:Choro Club feat. Senoo
OPテーマ:「フェリチータ」安野希世乃
EDテーマ:「echoes」安野希世乃
音楽制作:フライングドッグ
音響制作:楽音舎
アニメーション制作:J.C.STAFF
製作:松竹
配給:松竹ODS事業室
(C)2020 天野こずえ/マッグガーデン・ARIAカンパニー
【公式サイト】
https://ariacompany.net/
【公式Twitter】
@ARIA_SENDEN
丸本大輔
フリーライター&編集者。瀬戸内海の因島出身、現在は東京在住。専門ジャンルは、アニメ、漫画などで、インタビューを中心に活動。「たまゆら」「終末のイゼッタ」「銀河英雄伝説DNT」ではオフィシャルライターを担当した。にじさんじ、ホロライブを中心にVTuber(バーチャルYouTuber)の取材実績も多数。
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