『おちょやん』第14週「兄弟喧嘩」

第70回〈3月12日(金)放送 作:八津弘幸、演出:小谷高義〉

朝ドラ『おちょやん』千之助と万太郎、一平と父、一平と千之助の関係が修復 バンザーイ!バンザーイ!
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

「いい兄弟喧嘩見せてもろうたってなあ」(大山社長)

万太郎一座と家庭劇の対決の結果が出た。そして、千之助(星田英利)万太郎(板尾創路)の長年の確執にも幕が引かれた。

【前話レビュー】千之助が心の内を語り、初めて劇団員に頭を下げる→家庭劇団結

最後の最後まで、素直になれない人たちのちょっとピリ辛テイスト。
これまでのやさしい朝ドラテイストとは少し違うけれど、これはこれでジャンルとしては存在する。

なにより注目は、ほとんど劇中劇だったこと。アヴァンは劇中劇、主題歌明けは8時7分まで劇中劇。つまり15分中、ほぼ半分、劇中劇だったのだ。これは斬新。演じている人も作っている人も大変だろう。

一平(成田凌)と千之助の初の共同作「丘の一本杉」は、一平が息子、千之助が父で、喧嘩ばかりしているという設定。基本、ドタバタしているなかで、家庭劇のモデルは松竹新喜劇の前身なので、小山田正憲(曾我廼家寛太郎)だけが松竹新喜劇の雰囲気でやっていて、セリフの言い方や体の使い方などがひとり全然違った。ためがあって、じっくり見せる。

彼が古いスギの木を見て「目に見えんところで年寄りには年寄りの良さがあるもんです」と語るセリフは染みた。昔の人はこういうしみじみするお芝居が大好きだったのだ。

ほかの俳優は動きもしゃべりも早い。
とりわけ、星田英利は、お年寄りの役にもかかわらず、ものすごく動きのキレがいい。左右に俊敏に動く運動神経の良さはゲームキャラのようだった。

途中、万太郎の視線に気づき、千之助がピリッとなる。千之助は彼に向かって言うようにセリフを発する。

「いまとなってはもうやり直すことはできへんのやなあ。せめて体だけは丈夫になあ」

それを黙って見ている万太郎。

「子供に捨てられた親はこないに寂しいもんやとは知らなんだ」

千之助の20年来の万太郎への気持ちの現れと、一平と初代・天海の思いが重なった。

朝ドラ『おちょやん』千之助と万太郎、一平と父、一平と千之助の関係が修復 バンザーイ!バンザーイ!
写真提供/NHK

「親父さん」と抱き合うシーンでは、初代・天海が亡くなって千之助が代役をやったときに少年一平の額をピンっと弾いたとき(第10回)と同じことを千之助がやってみせる。こうして、なにかといがみあっていた一平と千之助の関係も改めて深まったといえるだろう。一本の芝居で千之助と万太郎、一平と父、一平と千之助。3組の関係性が修復した。すばらしい。


結果はわずか15人の差で万太郎一座が勝利になったが、家庭劇の結束も深まり、やる気になる。大山社長も家庭劇を見直す。清々しいスポ根もののようだ。

「チャップリンに会うよりずっとええもん手に入れたみたいやな」(千代)

めでたし、めでたし。
あとは、万太郎と千之助の関係だが……

「ほなまた20年後にな」

道頓堀の小料理屋にチャップリンらしき人物が万太郎に会いに来る。だがそれはチャップリンの真似をした千之助だった。本当に『おちょやん』での星田の貢献度は高い。

万太郎はチャップリンに会うことを断っていた。世界よりもまだ日本でやり残したことがあるからと。道頓堀で決着つけないといけない連中――それは家庭劇。僅差で勝ったことをよしとしない万太郎は潔い。まあ、史実でもチャップリンが初来日で見た演劇は歌舞伎なのだった。

久しぶりに万太郎のいい顔を見たと言う千之助に「まだまだやな。
もっと楽しませてもらわないと、お前を切り捨てた意味がない」と返す万太郎。そんな万太郎のひねくれた気持ちが、千代にはすこしわかる気がしていた。

千代にいつも花を贈ってくれる人がいる。今回も花が贈られてきた。

「いつも誰かが見てくれてはるいうのは、うれしいのと同時に身が引き締まる思いがする。ひょっとしたら万太郎さんは千之助さんとそないな関係になりたかったさかい、別れるようにしはったんと違うかな」

朝ドラ『おちょやん』千之助と万太郎、一平と父、一平と千之助の関係が修復 バンザーイ!バンザーイ!
写真提供/NHK

千代が予想したように、万太郎と千之助は、お互いが緊張感をもってお互いのいい芸を見るために別れたのだった。芸の道はそれだけ厳しく複雑だ。退団やコンビ解散、離婚などにはこんなふうに他者にはわかりにくい物語があるのだろう。

「ほなまた20年後にな」

この途方もない長い“20年後”という時間設定で、とにかく素直じゃない面倒くさい人たちであることがよくわかる。

お互いの帽子に生卵を仕掛けあうふたり。でも、どんなに突っ張っても、小料理屋の女将には「ごんたくれ」(いたずら者)扱いというオチが効いていた。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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