『ARIA』佐藤総監督×名取監督「強いアテナさんの姿が出てきたこともいちばんの驚き」<後編>
全国の劇場で絶賛上映中の『ARIA The CREPUSCOLO』。オレンジぷらねっとが誇る天才師弟であるアテナとアリス、前作から登場した新米ウンディーネのアーニャの3人を中心とした物語が描かれている

公開中の5年ぶり『ARIA』を佐藤順一総監督と名取孝浩監督が語る

未来の火星に在りし日の水の都を再現したネオ・ヴェネツィアを舞台に、優しい人々の温かな物語が描かれていく『ARIA』シリーズ。現在、約5年ぶりの最新作『ARIA The CREPUSCOLO』が全国の劇場で絶賛公開中だ。

【インタビュー前編】『ARIA』佐藤総監督×名取監督「またやれたらという予感や気持ちはあった」

エキレビ!では、メインキャストの鼎談に続いて、制作陣をリードした佐藤順一総監督と、名取孝浩監督の対談を実施。
この後編では、本作のストーリーの核心部分にも触れながら、より深く制作時のエピソードなどを語ってもらった。本編をまだ観ておらず、ネタバレをされたくない人は、劇場で鑑賞後に読んでほしい。

強いアテナさんの姿が出てきたこともいちばんの驚き

──佐藤総監督が脚本を執筆する際、特にこだわったポイントを教えてください。

佐藤 天野(こずえ)先生からいただいたプロットの中でいちばん大きなところは、アリスの昇格試験のとき、アテナさんは実はこんなことを考えていたという描写で。そこを読んだとき、我々が思っていた以上に、アテナさんは謳(うた)に対して真摯というか、謳を神聖なものとして捉えていたんだなということがわかりました。謳がすごく上手い人だとは思っていたけれど、人格から謳に寄り添っているほどの気持ちを持っているとは思っていなかったんですよね。

──ちょっと天然の天才的に謳が上手い人という印象でした。


佐藤 そうなんですよ(笑)。だから、ある意味、初めて強いアテナさんの姿が出てきたこともいちばんの驚きではあったし、そこが今回の軸にもなると思いました。あとは、(前作の)『AVVENIRE』と同じく、これまでアニメになっていない原作のお話も入れたいと思っていて。ファンの人が観たいアテナさん絡みの話は何かなと考えると、やっぱりベファーナの話だと思うんですよ。

──原作第10巻に収録された「エピファニア」のエピソードですね。

佐藤 実は、テレビシリーズでもやろうと思っていたけれど入らなかったエピソードだったので、それを入れることにして。
その二つを上手く組み合わせるにはどうすればいいのかが、シナリオを書くときにいちばん悩んだところでした。

──どのようなアイデアによって、その二つをうまくリンクできたのですか?

佐藤 それについては、実はアーニャの存在が大きくて。先輩と後輩の絆についてのお話は、これまでもアテナとアリスの二人の関係の中で描かれているんですけれど、アリスが先輩の位置に立ったときの悩みや迷いは描かれていなかったんです。でも、アテナがアリスの先輩として抱いていたような悩みは、きっと、アリスもアーニャに対して抱いているんじゃないかなと思って。そうやって、先輩から後輩への愛情みたいなものを含めて絆が繋がっていくという構図ができたら、一本の映画として綺麗に着地できるだろうと思いました。

──クライマックスのアテナ、アリス、アーニャが同じとき、同じ場所を歩いていたというシーンにも繋がるわけですね。


佐藤 はい。あのシーンは、天野先生のネームの中でも特に印象的なシーンだったので、それをいかに印象的に見せていくのかということも考えました。だから、アウトラインは、天野先生のネームの時点ですでに出来上がっていたんです。

『ARIA』佐藤総監督×名取監督「強いアテナさんの姿が出てきたこともいちばんの驚き」<後編>
アリスの回想シーンで登場する魔女ベファーナの仮装をしたアテナ。大人になることはつまらないと嘆いているアリスをサプライズパーティへと誘い、自分の気持ち次第で大人になることの楽しさも感じられることを伝えた

──名取監督は、コンテを描くとき、特に悩んだポイントやシーンなどはありますか?

名取 良い意味でいつもの『ARIA』どおり、特に尖ったところもなく作ろうと思っていたので、特定のシーンが……ということは特にないのですが、劇場で上映することは最初から決まっていたので、コンテを描く段階から劇場っぽいレイアウトにすることは、多少狙っていました。その他だと、『ARIA』のコンテを描くときにいつも悩むのは、どうしても尺が長くなることなんです。セリフを喋り始める前や、しゃべっている途中にも、ゆっくりと流れていく間があったりするので。
大鐘楼の鐘が鳴っているだけで10秒くらい使っちゃったりとか(笑)。

──それが『ARIA』の空気感という気はします。

名取 そういう間を入れないと、『ARIA』っぽくならないんですよね。今回の尺は1時間なので、テレビシリーズに比べるとけっこう余裕があるはずなのに、コンテを描いてみると意外に尺が足りなかったというか。カッティングのときに7分くらい切りました。

佐藤 だいたい、絵コンテから原画チェックの間でも伸びますからね。
「もうちょっと間が欲しいな」とかいって。

名取 いつもそれを見越してコンテの時点では短めにしておくのですが、それでもオーバーしてしまって……。そこがいちばん苦労したところですね。

アレッタの存在は作品のリズムや明るさに大きく影響

──脚本を書かれた佐藤総監督への質問ですが、『The ORIGINATION』の第4話の「トラゲット」のエピソードに登場した夢野杏、アトラ・モンテヴェルディ、あゆみ・K・ジャスミンの再登場を喜んだ『ARIA』ファンも多いかと思います。この3人は、天野先生のネームにも描かれていたのでしょうか? それとも、佐藤総監督の方で「また、出したいな」と思ったのですか?

佐藤 天野先生のネームにも、プリマではありませんが描かれていました。それが無くても、「出したいな」というか「出てほしいな」と思ったんですよね。『The ORIGINATION』の中でも「トラゲット」の話は人気が高いし、キャラクター人気も高いので。
尺の関係で、どうしても入らない場合は仕方ないのですが、入る限りは入れてあげたいなと思っていました。その代わりに、アル君(アルバート・ピット)が喋らなくなってしまいましたが。(同じ渡辺明乃がCVを担当している)まぁ社長が喋ってるので、許してくださいという感じで(笑)。

──本作の新キャラクターで、アニメオリジナルキャラクターでもあるアレッタ・パーチェに関しては、どのような経緯で生まれたのでしょうか?

佐藤 アレッタは、脚本を書く段階でこちらから提案したキャラクターで、デザイン(の原案)に関しては天野先生にお願いしました。今回の取り組みとして、『AVVENIRE』でせっかく出てきたアーニャとあずさのことをもう少し掘り下げたいということもありまして。今回は、オレンジぷらねっとのアーニャを掘り下げているのですが、その上で、こういうキャラがいたらいいなと思ったのが、幼なじみの女の子なんですよね。その女の子はどういう子がいいのかなと考えているときに、ふと、『あまんちゅ!』に関して、以前、天野先生が話されていたことを思い出したんですよ。

──どのような話だったのですか?

佐藤 『あまんちゅ!』は主人公たちが海にダイブするお話ですが、最初は海ではなく空にダイブするスカイダイビングのお話にしようというイメージがあったそうなんですね。それを思いだして、「空を女の子が飛ぶのもいいな」と思ったんです。風追配達人(シルフ)のウッディーさんの後輩に女の子がいるというアイデアが浮かんだら、イメージが一気に広がっていって。あっと言う間にアレッタというキャラクターが生まれて、いい感じのことを自然に言ってくれるようになりました(笑)。

──名取監督はアレッタというキャラクターにどのような魅力を感じて、どのように演出しようと考えていたのですか?

名取 今回のお話では、アテナ、アリス、アーニャのオレンジぷらねっとの3人が非常に悩むので、そのままやっていると、悩みいっぱいの作品になっていたかもしれないんですよね。もちろん『ARIA』なので、最後は気持ちよく解決することは観ている人もわかっていると思うんですけれど。ちょうど、お話の真ん中あたりで、竹を割ったような性格のアレッタが出てくるから、3人が悩んでいる中でもカラッと明るい感じを見せられているんじゃないかなと思います。空を飛んで、絵的にも広くなりますし。あそこでアレッタがいるのといないのとでは、作品のリズムや明るさが大きく変わっていたと思います。

エンディングは絵と曲を上手くマッチさせることができた

──アレッタ役の安野希世乃さんが歌うオープニングテーマ「フェリチータ」と、エンディングテーマ「echoes」の印象をお聞かせください。

名取 オープニングは、今までの『ARIA』っぽいなという印象があったんですけれど。エンディングは、カントリーミュージックっぽいというか、今までの『ARIA』の主題歌の中にはなかった曲調。でも、この曲がオレンジぷらねっとがメインのお話の主題歌だと言われると、たしかにそうだなと納得できたんですよ。自分は音楽に関してはあまり知識がないので明確な理由はわからないのですが、聴けば、ARIAカンパニーや姫屋ではなく、オレンジぷらねっとの曲だと感じることがすごいと思いました。

『ARIA』佐藤総監督×名取監督「強いアテナさんの姿が出てきたこともいちばんの驚き」<後編>
安野希世乃の3rdシングル『フェリチータ/echoes』は、3月3日から販売中。【ARIA版】のジャケットでは、オレンジ色に染まった空を背景に、アテナとアリスの師弟コンビが描かれている

佐藤 エンディングに関しては、発注のときから「バディ感」みたいなところをテーマにお願いしていて。いくつかあったデモの中から、ケルト楽器っぽい音が印象的だった「echoes」を選ばせていただいたんです。これまでの『ARIA』の楽曲の中には出てこなかった音なので、ディレクターさんから「出した方がいいですか? 引っ込めた方がいいですか?」という確認ももらったのですが、「特徴的なので出してほしい」と伝えました。アテナさんは、こういったエキゾチックな感じにもわりと親和性があるんですよね。

──アテナさんのイメージにも重なる曲なので、自然とオレンジぷらねっとにも重なるということですね。

名取 エンディングに関してもう一つ感じたのは、「echoes」の導入って行進曲のような印象がすごくあるんですよね。今回のエンディングは、キャラクターが歩いて行くという定番の絵になっているのですが、この曲にはすごくマッチしているので、陳腐にならない。まるで、この絵に合わせて作られた曲のような雰囲気もあるんです。エンディングもコンテや演出は自分がやったのですが、絵と曲を上手くマッチさせることができてよかったなと思います。

──オープニングに関しては、いつもの『ARIA』のオープニングに近い方向性でのオーダーがあったのでしょうか?

佐藤 基本的にはそうですが、『ARIA』のオープニングは、最初の『ウンディーネ』以降、厚みやテンポが若干ポップになっていったり、起伏に富んだ曲になっていったりしたんです。でも、今回、少しずつ原点に戻ってみたい気持ちもあって。オーダーをするときには、「受け継がれていく絆」といったテーマと一緒に、「幸せ感」ということも含めてオーダーをしました。一言で言えば原点回帰ですが、そこに戻ることが大事なのではなくて。「スタートラインは、こうだったよな」ということを、一度、思い返したいなという気持ちでした。

姫屋の話は、いちばん我々に近いところにいる人の物語

──エンディングテロップの「ゴンドラ女性(男性)客」のキャストを観たとき、『あまんちゅ!』のメインキャストが勢揃いしていて、少し笑いそうになったのですが(笑)。いわゆるモブキャラに、豪華声優陣をキャスティングした経緯を教えてください。

佐藤 (キャラクターデザイン・総作画監督の)伊東葉子さんが「モブキャラに『あまんちゅ!』のキャラを入れたいです」と言ってきて(笑)。モブキャラのデザインが上がってきたときには、何となく似てるな、くらいだったのですが、どうせ似せるなら、かなり寄せてもいいんじゃないかと話したら、今のような絵になりました。それであれば、たとえセリフが一言だとしても、オリジナルキャストでやりましょう、ということになったんです。だから、発案は伊東葉子さんなんですよ(笑)。

名取 コンテのときは、ただの「客A」とかだったんですけどね(笑)。

──ここでも、伊東さんの作品愛が発揮されていたのですね(笑)。本作の公開日である3月5日には、姫屋藍華・S・グランチェスタ、晃・E・フェラーリ、あずさ・B・マクラーレンの物語をメインに描く『ARIA The BENEDIZIONE(アリア ザ ベネディツィオーネ)』の制作決定も発表されました。楽しみにしているファンの皆さんに向けて、見どころなどを教えてください。

『ARIA』佐藤総監督×名取監督「強いアテナさんの姿が出てきたこともいちばんの驚き」<後編>
姫屋の後継者である藍華は、テレビシリーズ第3期『ARIA The ORIGINATION』で、一人前のウンディーネ(プリマウンディーネ)に昇格。現在は、支店の店長を務めながら、新米のあずさを指導している

名取 姫屋って、ARIAカンパニーほどふわふわ幸せではないし、オレンジぷらねっとほど呑気でもないし、仕事をしている自分の感覚にいちばん近い会社なんですよね(笑)。

佐藤 ははは(笑)。

名取 藍華と晃がメインを張るなら、幸せな『ARIA』だけではない、少し荒ぶる『ARIA』が見せられる可能性もあるかもしれない。自分も、それを楽しみにしながら作っています(笑)。

佐藤 藍華と晃さんの関係性には、ちょっと憧れるようなところはあるんですよ。ARIAカンパニーやオレンジぷらねっとのプリマウンディーネは皆さん天才で、ちょっと常人離れしているところもあるんですけれど。姫屋の人たちはそうではないので、悩みについてもいちばん身近だと思います。僕の中でも、晃さんのセリフはずっと心に残り続けていたりしますからね。だから、いちばん我々に近いところにいる人の物語ということで、楽しみにしてもらえると嬉しいです。

──姫屋のメンバーがメインの物語を作っているときは、「うんうん、わかるわかる」といった気持ちがより強くなりますか?

佐藤 それはありますね。(ARIAカンパニーとオレンジぷらねっとには)師弟関係そのものがまだまだ成長中だったり、「君たちは、師弟関係を越えて、相手を大事に思っているだろう」という人たちがいる中で、姫屋の二人(晃と藍華)は、導く側とそれについていく側という師弟関係がすごくしっかりしているじゃないですか。ツンデレしながらも(笑)。

──人間性についてもそうだとは思うのですが、お互いの仕事の能力をいちばんリスペクトしているところも強く感じます。

佐藤 1回、お互いに否定もしていますからね。「晃さんにはついていけない」とか、「お前のようなやり方ではダメだ」とか。それを言える仲でもあるということなんですよ。他の二組はそんなことを言わないですから。

名取 たしかに。

佐藤 灯里と(先輩の)アリシア(・フローレンス)は相手を絶対に否定しないですし、アリスも、アテナさんのドジっ子ぶりにはいろいろと言いますが、生き方とかに関しては完全にリスペクトしていますから。そういう意味でも、姫屋のお話が三社の中で最後に来ることにも意味があるのかなと思います。

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作品情報

『ARIA The CREPUSCOLO』
全国公開中

【CAST】
アリス・キャロル:広橋涼
アテナ・グローリィ:佐藤利奈
アーニャ・ドストエフスカヤ:茅野愛衣
まぁ:渡辺明乃
水無灯里:葉月絵理乃
アリシア・フローレンス:大原さやか
愛野アイ:水橋かおり
アリア:西村ちなみ
藍華・S・グランチェスタ:斎藤千和
晃・E・フェラーリ:皆川純子
あずさ・B・マクラーレン:中原麻衣

原作:天野こずえ「ARIA」(ブレイドコミックス/マッグガーデン刊)
総監督・脚本:佐藤順一
監督:名取孝浩
キャラクターデザイン・総作画監督:伊東葉子
美術監督:氣賀澤佐知子(スタジオユニ)
色彩設計:木村美保
撮影監督:間中秀典
音楽:Choro Club feat. Senoo 
OPテーマ:「フェリチータ」安野希世乃
EDテーマ:「echoes」安野希世乃
音楽制作:フライングドッグ
音響制作:楽音舎
アニメーション制作:J.C.STAFF

製作:松竹
配給:松竹ODS事業室
(C)2020 天野こずえ/マッグガーデン・ARIAカンパニー

【公式サイト】
https://ariacompany.net/
【公式Twitter】
@ARIA_SENDEN

Writer

丸本大輔


フリーライター&編集者。瀬戸内海の因島出身、現在は東京在住。専門ジャンルは、アニメ、漫画などで、インタビューを中心に活動。「たまゆら」「終末のイゼッタ」「銀河英雄伝説DNT」ではオフィシャルライターを担当した。にじさんじ、ホロライブを中心にVTuber(バーチャルYouTuber)の取材実績も多数。

関連サイト
@maru_working