
※本文にはネタバレがあります
中村倫也主演、2本立て1時間ドラマ『珈琲いかがでしょう』
新作ドラマが徐々にはじまりつつある4月。『珈琲いかがでしょう』(テレビ東京 / 月曜夜11時6分〜)が小沢健二のオープニングテーマ「エル・フエゴ(ザ・炎)」とともに軽快に走り出した。【関連記事】中村倫也 見ている者の好きなように変化する、新時代の人気俳優
原作は『凪のお暇』(TBS / 19年)のコナリミサトの漫画。
鼻から抜ける甘い声と輪郭が光でぼやけているような柔らかい表情、何事も決めつけず、話を傾聴してくれる、そんな人物を演じると中村倫也は抜群にハマる。だがしかしそれは、実はほかに違う顔を持っているからこそ生きるのであって、『凪のお暇』では“メンヘラ製造機”の側面をもつ役だった。彼のその優しさが女性をメンヘラ化させてしまうのである。
『珈琲〜』の青山もどうやら単にいい人ではなく、秘密があるらしい。第1話では微妙に匂わせる程度であったが、そこにこそ中村倫也起用の意味がありそうだ。
なんと2本立てだった
まずは第1話の概要を振り返ってみる。移動カフェを営む青山(中村倫也)が移動の先々で出会う人たちに美味しい珈琲とともに、素敵に生きる方法を提供していく。最初の客は会社員の垣根志麻(夏帆)。取引先に手書きで礼状を書くような丁寧な仕事を心がけていたが、合理性を優先する現代社会においてその行為は顧みられることはない。会社のそばに出店している移動カフェの青山が時間をかけて一杯の珈琲を(しかも好みに合わせて8種もある)入れる姿勢に共感する垣根に、青山は「見てる人はちゃんと見てくれてますから、大丈夫です」と励ます。
見ながらわかって驚いたのは、1時間ドラマが2本立てになっていたことだった。『人情珈琲』が終わると、次に別のエピソード『死にたがり珈琲』がはじまるのである。これなら30分ものを毎週やってもいいように感じたが、1時間で1エピソード描くには原作が短く、個々のエピを映像化にあたって1本につなげるのも難しいから、気楽に見られる30分もの2本立てにしたということであろうか。
『死にたがり珈琲』は、クレームばかりくる電話オペレーターを仕事にしていて、ベージュの服ばかり着ている早野美咲(貫地谷しほり)がメインキャラになる。彼女は無難だが変化に乏しい人生に不足を感じている。垣根編と同じく、一見、地味で平凡な人生を青山が肯定する話だが、垣根は他人から垣間見られないながら確かな信念をもって生きており、青山はそれを肯定する。
一方、冒険したいと思っている美咲にはスパイスを少し振りかけるだけで同じカフェオレが全然違うものになることと人生とを重ねて見せる。
2本立ての2作ともが社会に埋没しがちな人のエピソードであるところに面食らった。ただ原作でもこの2作が続いて描かれているので、意図があるのだろう。
「同じ豆でも飲み方はいろいろ。個性もいろいろです」と青山が言うように、ビル街のコンクリートの隙間にたんぽぽが咲いているように、社会の片隅でそっと咲いている人たちを一括にすることなく、それぞれの個性に光を当てている。
原作を読んだ筆者がひとつだけ言えること
脚本と監督は、丁寧な生活ブームの火付け役といっていい映画『かもめ食堂』(06年)の荻上直子なので、衣裳や小道具使いなどからも慎ましい生活の美が際立っている。固定給をもらいながら、経済効率を無視して己の信念を貫いている垣根と、固定給に縛られ決められた仕事を粛々としている美咲。その両面の良さと問題点が俎上にのぼる。そこに注がれる中村倫也の紗幕越しのような光は、現実的な部分をぼかしてちょうどいい。だが、彼のその紗幕の後ろにはちょっと違う顔が隠れている。それが中村倫也の魅力である。彼が演じる青山に何かがあるらしいことがドラマのなかでちらほら匂わせている。
最もわかりやすいのが、磯村勇斗演じる危うそうな雰囲気のある金髪の人物・杉三平(通称・ぺい)だ。柔らかい光のなかで美味しそうな珈琲を堪能する優しげなドラマのなかで、明らかな異物感を放っている。それと青山の右手の黒っぽい手袋(ピンクのアクセントが入ってたが)。指が出ている手袋はおしゃれアイテムでもあるが、片方だけしているのは、スケバン刑事くらいではないか(偏見)。
筆者は原作をすでに読んでいるので先が見えている。感想を述べると、原作の『人情珈琲』のほうがわかりやすく伏線が敷かれていた。
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番組情報
テレビ東京、テレビ大阪、テレビ愛知、テレビせとうち、テレビ北海道、TVQ九州放送『珈琲いかがでしょう』
毎週月曜 夜11時6分~
出演:中村倫也 夏帆 磯村勇斗 光石研、ほか
【第1話ゲスト】足立梨花/貫地谷しほり
【第2話ゲスト】山田杏奈 臼田あさ美
【第3話ゲスト】戸次重幸 小手伸也 筧美和子/滝藤賢一 丸山智己
【第4話ゲスト】一ノ瀬ワタル 山田真歩 池谷美音 野間口徹 松本若菜/光浦靖子
原作:コナリミサト『珈琲いかがでしょう』(マッグガーデン刊)
監督・脚本:荻上直子
監督:森義隆 小路紘史
番組サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/coffee_ikaga/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami