『おちょやん』第21週「竹井千代と申します」

第102回〈4月27日(火)放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

朝ドラ『おちょやん』残り3週で貧困の悲劇の犠牲者・千代の悲しみをどうリカバリーするか
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

栗子との再会、千代似の少女は姪だった

失踪した千代(杉咲花)が京都で同居していたのは、千代の継母・栗子(宮澤エマ)と姪の春子(毎田暖乃)だった。

【前話レビュー】涙に暮れる人生だった主人公・千代についに光が当たる ここから『シン・おちょやん』

栗子は千代が幼いとき、テルヲ(トータス松本)が後妻にし、妊娠。新しい家族3人で生活したいからと、千代を奉公に出した。
そのとき産んだ子の娘が春子だった。毎田暖乃は千代の子ども時代を演じていたから、テルヲと血がつながっている証のようにも見える。千代は勇ましい子だったが、春子はおしゃまな感じで、ふたりを鮮やかに演じ分けしているところに毎田の俳優としての技量を感じる。

それにしてもなぜ、栗子と再会したのか。一年前、千代が道頓堀を出て、雨に降られ雨宿りしていると、栗子が現れた。夜、後ろ姿しか見えてないにもかかわらず、千代とわかる眼力。超能力者か。「あんたのこと捜しに来たんやがな」と言うから、たまたま見つけて後をつけていたのだろうか。そして「春子の面倒を見てやってほしい」と頼む。なんだかとっても唐突な展開ながら、千代はこうして住む家にありつく。

春子の両親は戦争で亡くなっていた。千代は灯子(小西はる)を思い出し、「うちはもっと前から一人やった」と己の身を嘆く。
確かにそのとおり。戦争で大事な人達を失くす悲しみももちろん大きいけれど、世の中、戦争以外にも悲劇はある。近年は、天災やコロナ禍などが立て続けに襲ってくる。数ある不幸のなか、千代は貧困の悲劇の犠牲者である。千代は気持ちが昂ぶって、つい「(春子を)奉公に出せばいい」と言ってしまう。

この悲しみをどうリカバリーするか

戦争、貧困、天災、疫病……多くの悲しみによって人間関係もぎくしゃくしてしまう。どうしたもんじゃろのう(from『とと姉ちゃん』)。幼い春子が学校で、級友が“ケンカするほど仲がいい”体験をしている話をする。好きな人ほどからかってしまう屈折した心情が人間にはあるもので。春子の話を聞いている栗子と千代はかつて犬猿の仲で、栗子は意地悪だし千代が栗子を追い出そうとした作戦もなかなか凄まじかった。

ところがいまは、栗子は千代に当時のことを謝り、穏やかに共同生活をしている。時々、口喧嘩しながらも、なんだか気が合っているふう。それこそ喧嘩するほど仲がいい関係に見える。
長い時間を経て和解する。これは、『おちょやん』で何度も繰り返し書かれていたことだ。

あれだけ憎んでいたテルヲとも最後にはなんとか折り合いがついた。千代を恨んでいたヨシヲも最後に素直に姉の愛情を取り戻すことができた。一緒に劇団をやっていたのに別れてしまった万太郎(板尾創路)千之助(星田英利)も40年ぶりに共演を果たした。各々不器用でぶつかってばかりいたことが時間と共に徐々に解け合っていったのである。そして、栗子と千代も……。

朝ドラ『おちょやん』残り3週で貧困の悲劇の犠牲者・千代の悲しみをどうリカバリーするか
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』残り3週で貧困の悲劇の犠牲者・千代の悲しみをどうリカバリーするか
写真提供/NHK

『おちょやん』では最近、「背中あわせのけんか音頭」という楽曲を作って『ニュースきん5時』で4回に渡り毎週金曜日に紹介している。ケンカしてしまったときの仲直りのきっかけになりそうな楽しい楽曲で、毎田暖乃が<リカバリーや>と歌っている。なかなか耳なじみのいい曲である。オープニングの画と同じ犬ん子によるアニメも可愛く楽しい。

例えば、中島みゆきの「時代」に<そんな時代もあったねといつか話せる日がくるわ>という歌詞があるが、何かあっても時が解決してくれると思って日々をやり過ごすしかないとしたら「明日もきっと晴れやな」と思って楽しく明るく過ごしたいものである。


仲直りとリカバリー(復旧)の祈りが重なって、普遍的でもあり、“今”を描いたものにもなっている。コロナ禍でいろいろありながら、こういった形に収束の道をみつけた力は讃えたい。最終回みたいなまとめになってしまったが、まだ3週間ある。

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■杉咲花(天海千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮澤エマ(上田栗子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■三戸なつめ(竹井サエ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■トータス松本(竹井テルヲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■天海祐希(箕輪悦子役)プロフィール・出演作品・ニュース

■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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