『大豆田とわ子と三人の元夫』松たか子の圧倒的な魔性をも凌駕する東京03角田の鍛錬された笑いの強さ
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

東京03角田が芸達者『大豆田とわ子と三人の元夫』第3話

エンディングが毎回違うことも話題の『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系 火曜よる9時〜)。第3話にはラッパーNENEが参加。とわ子(松たか子)の第2の夫・佐藤鹿太郎を演じる角田晃広(東京03)もラップをやってそれが堂に入っていて視聴者の度肝を抜いた。
本編は、前回、中村慎森(岡田将生)、前々回、田中八作(松田龍平)ととわ子の馴れ初めと別れが描かれ、今回は鹿太郎編。

【前話レビュー】とわ子との関係を「なくした」と思う慎森と「捨てた」と思うとわ子

佐藤鹿太郎はファッション・カメラマン。それなりに華やかな仕事をしているようだが、「器が小さい」と誰もが口を揃えていうような人物。華やかな業界で写真家をやっていてもカッコいいわけではないようで、前回は割り勘タクシー料金の300円の差額にこだわり、今回はサービスのムール貝やオリーブの個数にこだわる。慎森も何かと細かい人のようだが、鹿太郎とは神経過敏になる対象がまるで違う。八作だけは器が大きいというか、来るもの拒まず常に鷹揚としている印象である。

華やかな業界じゃないのは、とわ子が社長を務める建築会社も同じ。コスト重視で建築士のやりたいことを抑制するとわ子の社内の評判は芳しくない。おしゃれでカッコよく見える建築業界も地道なことも必要な世界なのであった。

やりきれない心を花屋の花で癒やしていたとわ子は佐藤姓時代の知り合いと出くわす。まだ鹿太郎と結婚していると思ってしゃべる人たちにとわ子のしゃっくりが止まらない。そこからとわ子と鹿太郎の出会いが振り返られる。


意外とオヤジギャグ書く坂元裕二

鹿太郎は不倫などのスキャンダル専門のカメラマンで、張り込んでいた社交ダンス教室でとわ子と出会い、彼女のためにファッションカメラマンになった。

思い出はひたすら美しく、「全俺が泣いた」エピソードはまるで、『痛快TV スカッとジャパン』(フジテレビ系)のような、こんないやな人、そしてこんないい人がこの世にいるのかと思うような、みんな大好き・坂元裕二らしからぬ類型的なものだった。

他に、馬が好きと言ってとわ子の警戒心を解こうとしていた鹿太郎の馬と鹿っていうところとか、とわ子を抱えて「花束を抱えているようです」と現在大ヒット公開中の坂元脚本の映画『花束みたいな恋をした』を思い出させるようなところなどはベタかなという印象。もっとも坂元裕二はセンスいい代表のようなところもあるが、意外とオヤジギャグみたいなのも書く。我道を行っているようでサービス精神もあるところがある種の人たちを引きつけてやまないのだと筆者は思っている。

とわ子と鹿太郎の心の亀裂は、とわ子の肉体がひゃっくりという悲鳴をあげる独特な表現で描かれる。ここを直接的に描かないからこそ余計になんかちょっと鹿太郎が哀れになってくる。

別れ方が決定的でなくぼやっと曖昧だからか、とわ子に未練がある鹿太郎。人気俳優・古木美怜(瀧内公美)に思わせぶりに振る舞われ、徐々に心がそちらへと傾いていく。人間誰しも好意をもたれれば嬉しいもの。ところが美怜の目的を知ってしまい……。ことどく哀れな鹿太郎。

『大豆田とわ子と三人の元夫』松たか子の圧倒的な魔性をも凌駕する東京03角田の鍛錬された笑いの強さ
第4話は5月4日放送。画像は番組サイトより

似たところのある鹿太郎・慎森、独自路線をいく八作

第1話第2話はとわ子が中心に見えたが、今回は鹿太郎が主役のようだった。悲しい恋の喜劇。
エンディングのラップといい、社交ダンスの身振りといい、角田が芸達者。松田龍平も岡田将生も魅力も実力もある俳優だが、松たか子の魔性の前には脇役に回ってしまう。ところが角田は圧倒的な魔性をも凌駕する。まるで雪の女王・エルサの氷を笑いで溶かしてしまったような感じで、鍛錬された笑いの強さを痛感した。

とわ子の会社の若手建築士・仲島登火(神尾楓珠)が会社に失望し、とわ子の悪口を言っているところをたまたま見かけた角田のひとり相撲っぷりも良かった。

さて、3人の元夫は、とわ子に未練があるようでそれぞれに新たな恋? と思わせて、まず鹿太郎が破れた。慎森は、不当解雇された翼(石橋菜津美)の弁護を引き受けたつもりが、鹿太郎と女優のように、嘘をつかれていたことが判明。でも慎森はさすが頭脳派なので自ら嘘に気づくところが、鹿太郎と違うところである。鹿太郎と慎森はやっぱりちょっと似ていてちょっと違う。

そして、八作だけが独自路線をいっている。八作の場合、嘘は嘘でも彼が嘘をついている。親友・俊朗(岡田義徳)に隠れて彼の恋人・早良(石橋静河)と密会していた。
そのとき彼女を隠す場所が、第1話でとわ子が隠れていた場所と同じであったことに八作の罪深さを感じてしまう。やっぱり、とわ子の闇に対抗できるのは八作なのかもしれない。

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※第4話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします

●第4話あらすじ
とわ子(松たか子)の30年来の親友・かごめ(市川実日子)が、とわ子と同じマンションに住むオーケストラ指揮者の五条(浜田信也)から食事に誘われる。2人の相性の良さや、五条の態度からかごめに好意を抱いていることを確信したとわ子は、親友の幸せを願い、面倒くさがるかごめの背中を押す。しかし、当のかごめは目の前で鳴っているスマホの着信を無視したり、夜道で誰かにつけられたりと、最近何か隠し事がある様子。そんな中、とわ子は、偶然かごめの“ある過去”を知ってしまう。
その頃、八作(松田龍平)は、親友の俊朗(岡田義徳)の恋人・早良(石橋静河)からの猛烈なアプローチに頭を悩ませていた。さらに、早良の浮気を疑い始めた俊朗から3人での食事に誘われた八作は、つくづく自分のモテ体質が嫌になる。なんとか早良に嫌われようと試みる八作だったが、早良の行動はより大胆になっていき……。
一方、翼(石橋菜津美)の嘘に憤りを感じていた慎森(岡田将生)だったが、「まだわたしが誰なのかわからない?」という翼の問いかけに言葉を失う。鹿太郎(角田晃広)は、美怜(瀧内公美)にパパラッチ対策として交際相手の影武者を頼まれるが……。


番組情報

カンテレ・フジテレビ系
『大豆田とわ子と三人の元夫』
毎週火曜よる9時〜

▼第1話〜最新話まで全話配信中



出演:松たか子(プロフィール) 岡田将生(プロフィール)
角田晃広(プロフィール) 松田龍平(プロフィール) 市川実日子(プロフィール)
高橋メアリージュン(プロフィール) 弓削智久(プロフィール) 平埜生成(プロフィール) 穂志もえか(プロフィール) 楽駆(プロフィール) 豊嶋花(プロフィール) 石橋静河(プロフィール) 石橋菜津美(プロフィール) 瀧内公美(プロフィール) 近藤芳正(プロフィール) 岩松了(プロフィール) 伊藤沙莉(プロフィール)

脚本:坂元裕二
音楽:坂東祐大
演出:中江和仁 池田千尋 瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美

制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ

番組サイト:https://www.ktv.jp/mameo/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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