
※本文にはネタバレがあります
廃人にようになっていた里穂子と春斗の兄救う『コントが始まる』第3話
『コントが始まる』(日本テレビ系 土曜よる10時〜)。毎回、春斗(菅田将暉)、潤平(仲野太賀)、瞬太(神木隆之介)によるコントグループ「マクベス」のコントからはじまり、なんらかの出来事があって、それに関するオチがコントに加わって終わる。その定形の構成が様式美のようで心地よい。【前話レビュー】『コントが始まる』必要とされたい――個人の夢のドラマではなく「共助」のドラマが新鮮
第3回は、彼らのファンの中浜里穂子(有村架純)が会社を辞めて1年もの間、廃人のようになっていた理由と、春斗の兄・俊春(毎熊克哉)が引きこもっているエピソードが並行し、やがて絡み合い、最終的に昇華する。
里穂子も俊春も頑張りすぎて電池が切れてしまった人たち。『コントが始まる』第3回は、頑張った結果、頑張れなくなった人たちが再び立ち上がる姿をやさしく見守る。
内容を細かく解説していく前に、気づいたことを挙げておこう。中浜の部屋と春斗の部屋の構造を思い浮かべてほしい。ふたつはよく似ていることに気づいている人もいるのではないだろうか。里穂子のマンションにタコパに来た春斗が「隣のマンションなのに大違いだなあ」とつぶやく。たしかに春斗の部屋は古く家賃が安そうで、里穂子の部屋は新しく家賃も高そうである。が、間取りは似ている。玄関を入ってすぐにキッチンがありリビングがあり、その奥が寝室になっている。リビングからカメラがキッチンと寝室向けに向いたときは奥の部屋からちらりと寝具が見える。
第1回、第2回は、里穂子と春斗の部屋の間取りの相似形は単なる偶然かと思って見たが、第3回ではそれが意識的なものではないかと思い始めた。
廃人のようになっていた里穂子を救ったのは
春斗の兄・俊春はとても優秀だったが、あるとき飲料水のマルチ商法にハマり、仕事も妻子も失い、実家に引きこもる。春斗は兄の話をネタにしてコント「奇跡の水」として描き、そこで「兄貴、何があったんだよ」「元に戻ってくれよ、兄貴」と嘆く。それはまるで兄に語りかけるように。その動画を俊春は引きこもった部屋で観ていた。そんなことをつゆ知らず、反応がないからと連絡することを諦めはじめた春斗に、瞬太は「今から電話しようよ」「ドアをノックし続けることが大事なの」「着信履歴はね、心配してるよっていうメッセージなの」と助言する。春斗は兄に電話し、その着信を見た俊春は毎日5分程度のシャワーを浴びるだけだったところ、数年ぶりに湯船に入り、窓を開けたーー。
「どんどん手がつけられなくなる兄を諦めない弟の必死な姿が妙に愛おしいんだよね」
そう言って「奇跡の水」を一番のお気に入りコントにしている里穂子。引きこもって反応のなくなった俊春の身代わりかのように、マクベスの一番のファンのようになっていた。
彼女が1年前、恋人も仕事も失い引きこもってしまったとき、助けたのは妹のつむぎ(古川琴音)であった。ひとり暮らしをしていた里穂子が何もできずに廃人のようになっているところをつむぎが発見し、同居し支えたのだ。
里穂子はつむぎとケンカするたび、コント「奇跡の水」の映像をこれ見よがしに観ては、つむぎの反応を見る。それは「どんどん手がつけられなくなる兄を諦めない弟の必死姿が妙に愛おしいんだよね」のように「「どんどん手がつけられなくなる姉を諦めない妹の必死の姿が妙に愛おしいんだよね」に置き換えているのであろう。
俊春がなぜ水のマルチにハマったかは詳しく描かれなかったが、里穂子が壊れたことは本人が詳しく語る。マクベスと中浜姉妹が集まって行われたタコパで語られた里穂子の、恋人と思っていた人が別の人と結婚してしまった話と、会社で頑張ったことが報われず心が折れてしまった話はどちらもとてもしんどいものだった。
「私が頑張るから駄目なのか、頑張り方が間違っているのか、何がなんだかわからなくなっちゃって」
よかれと思ってやったことを利用されて里穂子ばかりが損をする。「もう頑張って傷つくのがこわくて」バイトでは適度に手を抜くようになった。
「寂しいんですよね。何かを頑張ろうとする気持ちを抑える日が来るなんて思ってなかったし、頑張らなくていいほうを選択したこともなかったんで」
このセリフは胸が痛い。誠実に頑張っている人が搾取され、頑張る気力をそがれていく社会の悲しさ。頑張ってもいいことにならない経験を味わった出来事から里穂子がまだ立ち直れていないかと思いきやーー、潤平が洗った足をふいたタオルで涙をぬぐって、それが笑いとなって涙が消えてゆく。
止められても止められてもタオルで顔を拭く里穂子。いくら足を洗ったあととはいえ、足を拭いたタオルは汚いと手放したら潤平に悪いと気を使っているのか、それとも本当に気にしていないのか、そこはよくわからないけれど、ここではタオルをネタに、みんなで笑い合うことが正解であろう。ここでタオルに気づいたときの春斗と瞬太とこむぎの目線がいい。

劇中コントの仲野大賀の芝居に注目
10年やっても芽が出ないマクベスだけれど、俊春と里穂子を閉ざされた部屋から外へと再び一歩踏み出すきっかけになった。頑張っても報われず、残念なことになるなら頑張らないほうがいいと思ってしまうものだけれど、頑張っていたら誰かのためになっている。兄と里穂子を救ったのは、マクベスの頑張りである。好きなことを続ける誠実さである。ただ、タコパの日、玄関に並んだ5足の靴の向きのうち、1足だけが逆であったことが気にかかる。たぶん春斗だけ向きを揃えていないのはなんの暗示であろうか。
さて。劇中コントの仲野大賀の芝居に注目している。仲野は身近にいそうな自然な佇まいをする俳優だと思っていたが、コントのときは、声の切り替えを適切に行い、動きも、習字に例えると止め跳ねがしっかりしている。アドリブをしない作り込んだコントにこだわったり、要冷蔵だからと調味料をすぐに冷蔵庫にしまったりする意外と細かい性格が、徹底してコントロールした動きや声に現れているように感じた。
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※第4話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします
●第4話「コント『捨て猫』」あらすじ
潤平「瞬太は父緒を早くに亡くし、母親とは明らかにうまくいってなかった」
里穂子「つむぎは昔から面倒見がいい。弱ってたり傷ついてる人を放っておけない性格だ」
コント『捨て猫』。ステージに現れる段ボールに入った捨て猫役の春斗(菅田将暉)と、野良猫役の瞬太(神木隆之介)。
潤平(仲野太賀)は、高校の担任・真壁(鈴木浩介)を呼び出し、彼女の奈津美(芳根京子)と共に昔話に花を咲かせていた。その中で、トリオ名「マクベス」の名づけの由来に真壁が関わっているという話になり、高校時代、瞬太(神木隆之介)の車にマクベスの3人と真壁が共に乗った1日のことを想い出す……。その日は真壁の息子が生まれた日。なぜか瞬太は生まれたばかりの息子を愛くるしそうに見つめる真壁を見て、涙を流していた―――。
一方、里穂子(有村架純)は自宅で一生懸命に熱帯魚の世話をする妹のつむぎ(古川琴音)を見て、同じく昔のことを思い出す。姉のことを献身的に支えてくれる今の日々もそうだが、つむぎは昔から面倒見がよく、傷んだ人形で遊んだり、捨て猫を拾ってきたり、とにかく傷ついた存在を放っておけない性格だという―――。
全く交わらない二人の昔話が、現代でまたも数奇に絡み合うことに。親と子。傷を持つものと、それを優しく包むもの。意地と甘え。様々な相反するものを乗り越えたその時、この物語は奇跡の数十秒を生み出す。
番組情報
日本テレビ系『コントが始まる』
毎週土曜よる10時〜
出演:菅田将暉(プロフィール) 有村架純(プロフィール) 仲野太賀(プロフィール) 古川琴音(プロフィール) 神木隆之介(プロフィール) 伊武雅刀(プロフィール) 鈴木浩介(プロフィール) 松田ゆう姫 明日海りお(プロフィール) 小野莉奈(プロフィール) 米倉れいあ
脚本:金子茂樹
音楽:松本晃彦
主題歌:あいみょん「愛を知るまでは」(unBORDE / Warner Music Japan)
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:福井雄太 松山雅則(トータルメディアコミュニケーション)
演出:猪股隆一 金井 紘(storyboard)
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
制作著作:日本テレビ
番組サイト:https://www.ntv.co.jp/conpaji/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami