『おちょやん』第23週「今日もええ天気や」
第112回〈5月11日(火)放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

千代は、鶴亀新喜劇に出るのか
鶴亀株式会社で長年務めあげた熊田(西川忠志)は自身の定年前に、もう一度、千代(杉咲花)に鶴亀新喜劇で芝居をしてほしいと考えていた。【前話レビュー】“共演NG”の千代と一平が接近 ついに最終週、どう決着するのか
千代に頼みに行き、一平(成田凌)にも相談するが、一平は万にひとつもありえないと決めつける。
「もしそないことになったら……喜劇やな」
この決めゼリフからオープニングへ入るタイミングは気持ちがよかった。
一方、千代は悩んでいた。そのせいで、ラジオドラマの仕事にも身が入らない。悩んだ末、千代は道頓堀に向かう。春子(毎田暖乃)を連れて。
岡福の人たち、新喜劇の人たち(一平以外)はあたたかく迎えてくれて、千代は噛みしめる。
「せやな春子、うちらはふたりだけやあれへんのや。みんな、うちらにとって大事な家族なんや」
熊田さんはどんな人だったか復習
「竹井千代は道頓堀の舞台女優なんやってみんなに知ってもらいたいんや」熊田はそう言って千代に出演交渉した。熊田は出番はさほど多くないながら、『おちょやん』の初期から出ていた準レギュラー的な存在の人物。最初は劇場支配人で、芝居茶屋で働きながらお芝居に興味をもつお茶子・千代(毎田)に芝居を観せたり、『人形の家』の台本を与えたり、いわば、俳優・千代の恩人である。
鶴亀株式会社社員で、大山社長(中村雁治郎)の片腕のようになって上方演劇に身を捧げてきたイメージ。鶴亀家庭劇が発足するとその責任者になった。プロデューサーみたいなものであろうか。戦後、また鶴亀新喜劇に関わり、社長が退いた後も働いている。
『あさイチ』で華丸が「チケットとれへんやろ」と発言したことで気づいたのだが、熊田が千代を鶴亀新喜劇に呼ぶことは一大イベントである。なにしろ千代はラジオドラマのヒットによっていまや全国区の人気者だ。彼女が一回限りの特別興行に出演するとなれば、観客は殺到するだろう。それこそチケット争奪戦になりそうだ。
熊田にはもちろん、長年一緒に仕事してきた千代に対する人情もあるだろうけれど、演劇に関わってきた者としては、千代が育った道頓堀の劇場――故郷に錦を飾ってほしい。それがビッグビジネスになればなおいい。そういう欲もあるはずだ。大山社長もいつも商売のことを考えていたわけで。華丸の発言のおかげで、熊田の商売人としての一面に気づくことができた。
ちなみに、熊田を演じている西川忠志は、5月下旬、大阪松竹座での藤山直美主演『あおきと春団治〜お姉ちゃんにまかしとき〜』で桂春団治役を演じる予定であった。ところがコロナ禍による緊急事態宣言で公演が中止に。
おかえり千代
熊田に誘われ悩んでいる千代を心配した春子は千代のために葛湯をつくる。肩たたきまでしてくれる親孝行な春子を連れて千代は道頓堀に向かう。たぶん、春子という子供がいることで千代は強くなれたのだろう。仕事も充実して家族もいることで、自信を持ってみんなの前に現れることができる。負けん気の強い千代だから同情されたくなかったと思う。でももうそんな心配はない。岡福の前まで来ると、みつえ(東野絢香)が「おかえり」と迎える。なつかしのかめ壺(かめがいつもお菓子をそこから出していた)らしき壺からお菓子を差し出すみつえ。春子はみんなに受け入れられ、優しくされている。
劇団の人たちが打ち合わせもそっちのけでそわそわしている場面はいつもの撮影の雰囲気と違い、固定カメラではなくなめらかに動いていた。最終週だからちょっと変えてみたのだろうか。
……そんな時に水を差すのもなんだが、葛湯が固まって飲めない状態に作るほうが難しくないだろうか。
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■杉咲花(天海千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami