『おかえりモネ』第2週「いのちを守る仕事です」

第8回〈5月26日(水)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』モネが登米で違う顔を見せていたように、耕治も違う“顔”を持っていた第8回
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

続・内野聖陽が主役のようだった

娘の永浦百音(モネ/清原果耶)を実家に連れて帰る気満々で、土日にかけて気仙沼から登米に来た耕治(内野聖陽)だったが、見たことのないモネの生き生きした表情を見て、何も言えずに島へと帰る。内野聖陽の持つ主役になる選ばれし者感がふんだんに出て、BUMP OF CHICKENの主題歌「なないろ」の<僕の旅>の<僕>は耕治なのでは説が頭をもたげるのであった。

【関連レビュー】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第8回掲載中)

帰る途中、昔なじみのトムさんこと田中知久(塚本晋也)にばったり会う。
彼は雰囲気のいいジャズ喫茶を営んでいた。このドラマの地元民はサヤカ(夏木マリ)といいトムさんといいシャレてる。外部の人間は地方の人たちに独特のフォークロアを期待しがちだけれど、それも一面的な見方でしかないのだろう。

以前の耕治と比べて「銀行員なんかになっちまって」とか「でも、けっきょくまっとうになっちまうんだもんな。つまんねえよ」などと惜しそうにつぶやくトムさん。耕治が「俺はこっちだ」と自分で決めたのは、漁師と銀行員とを天秤にかけただけではなかったようだ。
どうやらトランペット奏者の選択肢も彼にはあったようである。店にはトムさんが撮ったトランペットを吹いている渋カッコいい耕治の若い頃の写真が飾ってあった。

だがトムさんもまた、写真からジャズ喫茶経営に職種を変え、耕治には意外に感じられる蓮の花を撮っていた。以前は人物写真(それもライブ)を撮っていたのが花になった理由が「心が穏やかになるからねえ」と聞いて、耕治は「嘘でしょ」と笑う。昔のトムさんはやんちゃだったことが会話の端々から伝わってきた。

懐かしい出会い。
でもふたりとも昔とは随分違うところにいる。この人たちにはこの人たちの事情がいろいろあるのだなあと短い時間で何十年かの年輪の軌跡――すなわち、主題歌の歌詞にある<僕の旅>みたいなものが表現されていた。主題歌の<僕>はまさか耕治かとも思わされるような力の入ったアヴァンであった。

島に帰った耕治は休み明け、何食わぬ顔でスーツを着て、未知(蒔田彩珠)の学校行きの船の心配をして「みーちゃん学校遅刻すっぞ」と全身で大声を出す。ここではすっかり銀行員やお父さんの顔になっている。モネが登米で違う顔をしていたように、耕治も違う“顔”を持っている。


宮城出身者として漫画家・石ノ森章太郎の話題が出てきたから思うことかもしれないが、耕治は、スーツを着て銀行員やお父さんに変身して日常を戦っているようである。なんだか、朝ドラが土曜ドラマのように見える。例えば西島秀俊が出ていた『ノースライト』のような時の流れや社会の変化に揉まれた中年男性が今一度、自分を見つめ直すような物語。

いやでも、いくら内野聖陽が主役になってしまうスター性をもっているとはいえ、『おかえりモネ』は成長過程のモネの物語。モネは林間学校で子どもたちを引率することになった。でもそこに思いがけない雷雨がーー。


『おかえりモネ』モネが登米で違う顔を見せていたように、耕治も違う“顔”を持っていた第8回
写真提供/NHK


『おかえりモネ』モネが登米で違う顔を見せていたように、耕治も違う“顔”を持っていた第8回
写真提供/NHK

モネ、遭難する

林間学校の引率は、モネと佐々木課長(浜野謙太)。森の木がどういうふうに相互協力しあって生き残っているか説明する浜野謙太の語り口は軽やかで、かつ明瞭で、内容がよくわかる。

人間が植樹した木は50年くらい経って立派に育った。でもそれらの木が生えすぎて満員電車のようにぎゅうぎゅうになってしまう(今で言うと「密」ですね)と共倒れになるので間伐し、切られた木も木材となって役立つ。木をほどよく植えることで土砂崩れを防ぐことができるというエピソードは、大河ドラマ『おんな城主 直虎』でも見た。

無駄なものなんてない。利他の心、自己犠牲の精神が繰り返し語られる。
誰かが犠牲になるのは仕方ない。でもその犠牲は無駄ではない。世界とは残酷なものである。でも人間はそこで生きていくしかない。この引いた眼差しはまるで朝、お寺で座禅を組んで精進料理の朝ごはんをいただいているような敬虔な気持ちを抱かせる。

50年の木は、耕治と同い年くらいであろうか。
木と人間の人生が重ねて見える。小さな木は子どもたち。植樹体験をしながら「みんな役に立っている」と理解した福本圭輔くん(阿久津慶人)の声に、モネも祖父・龍己(藤竜也)がかつて、山の葉っぱの養分は雨が降ると河に流れて海に届き、牡蠣やホタテの栄養になると語っていたことを思い出す。

理解力のあるクレバーな圭輔は翔んでいった竹とんぼを拾おうとして集団から外れてしまう。「何かやらかしそうだから見てる」と彼を気にかけたモネの勘は当たったが、その甲斐があるのかないのか、ふたりして遭難。雷雨がやってきたときのモネがホラー映画のような目の瞠(みは)り方をして野性的だった。



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番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami