『おかえりモネ』第2週「いのちを守る仕事です」

第7回〈5月25日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』人はなんのために生きるのか――モネにはそんな問題提議がありそう第7回
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

内野聖陽が主役のようだった

気仙沼・亀島に生まれ育った永浦百音(清原果耶)は高校を出ると登米の森林組合に就職した。送り出したものの、ある雪の降る日、「とにかく私はこの島を離れたい」と深刻な顔で家族に話したモネのことが気になって、父・耕治(内野聖陽)が訪ねて来る。様子を見に来たと言いながら、本音は連れ帰りたかった。


【関連レビュー】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第7回掲載中)

主人公はモネだけれど、まるで父・耕治が主人公のように彼の心情が重い質量を伴って伝わってきた。彼が情の深い人であることは第1話からもわかる。嵐のなか産気づいた妻・亜弥子(鈴木京香)とお腹の中の子(モネ)が心配で半狂乱になっていた。でも、普段は感情を激しく出さず、抑制しているが、内面のあたたかい気持ちがダダ漏れしてしまう。そんな人のように見える。

日曜日というのにモネは仕事に行ってしまい、それを見送り、身をよじっている姿が微笑ましい。


サヤカ(夏木マリ)に誘われて、職場見学に向かう耕治。モネが林間学校で登米を見学に来た子どもたちを相手している顔を見て、考えが少し変わっていく。

登米の木を使った工作を自分もやってみて、笛を作ると「たまには」とモネに渡して去って行く。言葉少なに、でもモネを想う気持ちが伝わってくる。笛の音はまるで耕治の抑制した心情の炸裂のようだ。

内野聖陽は、こういうとき、朝からステーキみたいな存在感の強いキャラクターも作ることができるはずで、でも、今回は極力油っけを落として見える。
だからといって、パッサパサのささみでもなく、ささみと卵のあっかたい中華スープのよう。だからこそ、だからこそ余計に「とにかく私はこの島を離れたい」と言ったモネの心情に踏み込めないほどのデリケートさを強く感じるのである。

おじいちゃんもお母さんも心配している

耕治がモネの家では見せない明るい表情を見て考えを変えたように、祖父の龍己(藤竜也)も電話の向こうでモネが笑っているのを聞いて安堵していた。

その話を亜弥子にする龍己。そのときの笑い声は、ラフターヨガのやや無理したものだったことなのだが、龍己は気づいていない。電話の向こうで、誰かの意外な声を聞くというシチュエーションはドキリとさせる。そこから受けた印象が必ずしも正しいものとは限らないところも含めて。

『おかえりモネ』人はなんのために生きるのか――モネにはそんな問題提議がありそう第7回
写真提供/NHK


『おかえりモネ』人はなんのために生きるのか――モネにはそんな問題提議がありそう第7回
写真提供/NHK

ラフターヨガは無理して笑っても元気になる。要するに、行為が心情に影響を与える方法論である。一見滑稽にも見えるが、間違いではない。でもやっぱり若干虚しくも見える。

このどっちとも言えない、人によって受け止め方が違うことはほかにもいくつも散りばめられている。例えば、菅波(坂口健太郎)
東京から通いで診療所に来ている医者で、すこしぶっきらぼうな人物。東京から戻ってきた菅波にモネがさっそく「おかえりなさい」と言う。「おかえり菅波」になっている。それはさておき。

モネ「来たくなかったって顔に出ています」
菅波「正直ものなんで」

診療所に来るのが面倒らしいことはさら〜っと流し、菅波はふと、林間学校の子どもたちの中に混ざった耕治を見て「先生」と勘違いする。そこで初めてモネは父が混ざって参加していることに気づく。


「挨拶とか苦手なんで」と去っていく菅波。キョトンとするモネ。もしかして将来の義理の父子になるかもしれないのでは……と視聴者は早くもモネと菅波の関係を気にしているわけだが、そこもさら〜っと流す。モネに紹介するとも言われてないのに「挨拶とか苦手なんで」などと言う考え過ぎな菅波の面白さをもっと強調して見せてもいいかもしれない。けれどそうはしないで淡々と描く。菅波はどちらかといえば、今のところ、ささみのようである。


その後、モネが「何やってるの」と父の背後に近づくところも淡々としている。「正直ものなんで」から「何やってるの」までもっとメリハリ効かせてコミカルに見せることも可能だろうけれど、そうはしない。真面目。誠実。演出家によってずいぶんと違って見えそうな脚本だと感じるので、別の演出バージョンも見てみたくなった。

登米の観光案内

朝ドラは地域の魅力を伝えることも大事。今回は宮城推し。海と山と両方があり、景色が美しく、海では牡蠣、山ではヒバやアスナロと名産があり、その木で作った能舞台があり、移流霧という現象が見どころ。石ノ森章太郎の出身地でもある。……とすでにかなりの地元情報が物語の中に組み込まれている。

第7話は、林間学校の見学カリキュラムとして、登米の木の魅力が一気に伝えられる。歴史的建造物・尋常小学校、いろんなものを作ることのできる組手什、はっと汁……。

ここでドキリとなったのは、佐々木課長(浜野謙太)の説明による、林業では良い木を残して周りの木は伐る「間伐」が行われるということ。何かのために犠牲になる利他の精神。でもその犠牲は決して無駄ではない。石ノ森章太郎先生の代表作『サイボーグ009』のアニメの主題歌は「誰がために戦う」と歌っている。人はなんのために生きるか、そんな問いかけが『おかえりモネ』にはありそうだ。観光案内をしながらそこにテーマ性を忍ばせる、工夫が滲む第7話だった。



※『おかえりモネ』第8回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします

番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami