『おかえりモネ』第6週「大人たちの青春」

第29回〈6月24日(木)放送 作:安達奈緒子、演出:桑野智宏〉

『おかえりモネ』第29回 複数女性にふらふら。田中さん……百音「ひどすぎます」、視聴者「引くわ〜」
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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テーブルと椅子をキャンセルした田中(塚本晋也)。彼がなぜ大きなテーブルを注文したか、その理由を知った百音(清原果耶)はテーブルを諦めないでほしくて、菅波(坂口健太郎)に相談すると、菅波は結論を先延ばしにできる治療――「迷う時間を作るための治療」を提案する。

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昭和の倫理観?

「ひどくないですか」

テーブルと椅子をドタキャンするのもひどいが、田中は妻子がいるにもかかわらず、ほかの女性(しかも複数)にふらふらして愛想をつかされた過去があった。「ひどすぎます」と純真な(当たり前な)反応をする百音に、「昭和の倫理観」と言う田中。


昭和の倫理観だなんて開き直るのはどうなのか、田中さん。妾(めかけ)が法的に公認されていたのは明治時代まで。清原果耶が『あさが来た』で演じていた女中ふゆが、主人公あさ(波留)の夫・新次郎(玉木宏)に妾でもいいと告白していた時代は妾がいて当たり前の時代だったが、作ろうとしなかった新次郎の好感度は高かった。それに比べて田中さん……。

当人もひどいから合わせる顔がないと思いながら、テーブルと椅子は孫が生まれるらしいからテーブルと椅子を作って、店に呼ぼうと考えていた。浮気はするは、やっぱり孫には会いたいみたいな感覚(家族に会いたい方便とは思うが)、百音じゃなくてもちょっと引く。

だが「引くな引くな」と田中が言っているときの百音は前のめりになっている。「引くな」と言われてから引いているのだ。一方、後(のち)に同じ話をされた菅波は「え〜」とかすかに体を引いていて、「引くな」と言われて、前かがみになっている。百音は「ひどい」と言いながら若干興味津々というふうにも取ることができる反応だった。菅波のほうが純情かも。

「ヤジロベエみたいな正しさだ」

なんとか田中を助けられないか、と百音は菅波に相談するが、菅沼は「絶対に助けられない」と感情を露わにして診療所から出ていく。肺がんのステージ4とはいえ、いったい菅波はなぜそんなに否定的なのか。


「僕が挫折したことないって言いましたよね」と百音が言ったことを根に持っている菅波。この流れでそれを言うってことは、かつて挫折したことがあって、それが治る治らないの間(はざま)に関することであろう。菅波は主人公かと思うような葛藤シーン。

百音がカフェでしょんぼりしていると、かたりとドアが開き、菅波が来てくれたかと思ったら……サヤカ(夏木マリ)だった。がっかり。

「余裕シャクシャクで生きてるように見える立派な大人もね、ホントとはジタバタもがきながら生きてるの。案外傷ついてるし、必死なのよ」と諭すサヤカ。

翌日(?)、百音が田中を見舞っていると(ヘルパーの代わりまでしている健気な百音)、菅波がやって来た。百音が隠れるのが可笑しい。異性の家で隠れるのは浮気問題が多いが、今回は違う。単に気まずいからか、菅波に気を使ってか。とにかく百音は菅波が真面目に向き合う姿を盗み聞きする。


『おかえりモネ』第29回 複数女性にふらふら。田中さん……百音「ひどすぎます」、視聴者「引くわ〜」
写真提供/NHK

菅波は、揺れる心を田中に明かしながら、人間、その都度言ってることが変わるもので、だからこそ、結論を急がず、いつでも進路を変えられるように、結論を先延ばしにする治療をしませんかともちかける。

積極治療とは、明確な目標を掲げた前向きな治療には限らない。そう菅波は考えて、結論を先延ばしにできる治療――「迷う時間を作るための治療」を提案する。「迷う時間」があっていい。これが菅波の考え方だった。彼がなぜそういう考えに至ったかはまだわからない。

が、田中は、迷う時間を選んでみることを考えはじめる。治る、治らない、その究極の2択にしないところがいい。病気に関してももちろんだが、人生にも当てはめて考えることができるだろう。すでに田中は、女性をひとりに決められない自分の人生に当てはめていた。

BUMP OF CHICKENの主題歌「なないろ」の歌詞<ヤジロベエみたいな正しさだ>とは、迷う時間のことかもしれない。どっちに傾いても間違いじゃないということ。
この歌、やっぱり菅波目線なのではという気がしてきた。

こうして田中はテーブルと椅子を再び作る気になった。受け取る、受け取らないはどっちでもいい。ただ、払うことは必要です。制作費だけは迷わず払って田中さん。いろんな意味で、困った人である。でもなんだか憎めない。

ところで、菅波が田中の店に立ち寄ったのは、本当にバスが渋滞していたのか。それとも口実か。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪

番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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