『おかえりモネ』第6週「大人たちの青春」

第30回〈6月25日(金)放送 作:安達奈緒子、演出:桑野智宏〉

『おかえりモネ』第30回 百音は人生の晴れ待ち中――晴れたり曇ったり、日々の空模様こそが人の魅力
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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お預けにされていた百音(清原果耶)の両親の恋バナが明かされた。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第30回掲載中)

忘れられない人がいると耕治(内野聖陽)に言われた亜哉子(鈴木京香)の大逆転。耕治の心を動かした亜哉子の愛は強く大きなものだった。
影のない明るさが人の心をどれだけ救うか。がんに侵され、家族に去られ、孤独な田中(塚本晋也)の心に灯った光。

回想場面で二十代を演じる内野と鈴木はまるで舞台上にいるかのように大健闘。主人公の両親のスピンオフ的な話として十分楽しめながら、ここには物語の根幹に関わる重要なことが潜んでいるのではないかと考えさせる印象的な回だった。

「正しくて、明るくて、ポジティブで前向きであることが魅力にならない世界なんてくそです」

『おかえりモネ』は人生に影を落とすものにどう立ち向かうか探求する物語であるように感じる。性格が明るくても暗くても幸福は得られるが、その幸福を奪うのはおおむね外的要素である。

例えば、主人公・百音は登場したとき、明るくないわけではないが、時折何か考え込むような、虚ろな瞳をしていた。
震災前は、吹奏楽が大好きで積極的に部活を行う屈託のない子だった百音が震災の時、地元にいなかったことを気にして、島を出てひとり働くようになった。働くモチベーションは誰かの役に立ちたいこと。最近は、やりたい仕事が見えてきて表情が明るくなってきた。

第30回のはじめ、百音が亜哉子に似ていると田中に言われ、内面は耕治に似ているのだと百音は答える。耕治に似ているのか、と田中はにやりとして、父母の馴れ初めを語りだした、

両親の恋の話――それもちょっとワケありの話を娘が聞くのはこそばゆいもの。百音は聞きたいような聞きたくないような気持ちでいたが、田中がついに語りはじめる。


若い頃、耕治が趣味でやっていたトランペット演奏に聞き惚れた亜哉子はライブハウスに通いつめ、告白までするが、島に忘れられない人がいると言われあっさり振られる。それでも諦めず追いかけ続ける。なぜそうまで好きになったのか。「あっ、この人の音明るい。全然影がないって思った」から。

亜哉子をとりこにしたまじりっけない明るさが音楽をやる上ではマイナスだと耕治は思っていて、銀行に就職を決めていた。
だが亜哉子は「正しくて、明るくて、ポジティブで前向きであることが魅力にならない世界なんてくそです」と言い放つ。「影が魅力」「不幸が色気」そういうのを「安っぽい価値観」とぶった切る亜哉子こそ、正しくて、明るくて、ポジティブで前向きであろう。

自分のコンプレックスを解消してくれたことと、そもそも前向きで明るい性格同士でめでたく結婚。その両親の血を継いでいるのだから、百音も本来、影のない明るい子なのだろう。だが、人間、元は明るくても、何かのきっかけで影が差すこともある。その反対に、影が差している部分に光を当てることだってできるはず。
百音はいま、人生における曇り空の晴れ待ちをしているのだろう。

『おかえりモネ』第30回 百音は人生の晴れ待ち中――晴れたり曇ったり、日々の空模様こそが人の魅力
写真提供/NHK


『おかえりモネ』第30回 百音は人生の晴れ待ち中――晴れたり曇ったり、日々の空模様こそが人の魅力
写真提供/NHK

晴れ待ちの時間は病を患う田中にも言えることである。ステージ4のがんだから何もかも諦めていたけれど、百音や菅波(坂口健太郎)に支えられて、結論を先延ばしすることにした。生きることをまだ諦めないために別れた妻と娘と孫に会おうと考える。

大きなテーブルと椅子を作って、家族を待つ田中。約束の時間が過ぎても待ち人は現れない。
外は曇って雪が降ってくる。やっぱり晴れの時間は来ないのか……と思った時、入って来たのは、笑顔の耕治と亜哉子。まるで雲の切れ間に太陽が覗いたようだった。

百音と菅波のはじまり

百音と田中と耕治と亜哉子がテーブルを囲んで語らっている喫茶店のカウンターには、百音と菅波のスナップがこっそり飾ってある。ふたりの表情がおぼつかない視線。それは勝手に写真を撮られて困っているからだけれど、ふたりがまだ来し方行く末に迷っているようにも見える。

田中から両親の話を聞いたあと、百音は菅波と話す。
病気を治すことを優先し、患者の気持ちを考えていないという菅波に、試験のときのメールを例にあげて、自分勝手な書き方だと指摘する。でも、そうやって下げておいてから「先生が私のためを思って一生懸命考えてくれてる。だから先生が患者さんのことを考えていないのとは違うと思います」と上げる。そのときの菅波の救われたような顔は、亜哉子に肯定されたときの耕治と同じに見える。百音と菅波も耕治と亜哉子のようにはじまっちゃうのかも。

ここで重要なのは「影が魅力、不幸が色気ではなく前向きな明るさが正義」という単純な話ではないだろう。そういう単純にものごとを規定することがクソだということである。人間、晴れたり曇ったり、ひとつとして同じにならない日々の空模様こそ魅力なのである。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪

番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami