『おかえりモネ』第7週「サヤカさんの木」
第34回〈7月1日(木)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

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台風一過。百音(清原果耶)は二十歳になった。実家から送られてきた一升瓶の酒を飲んで「(味が)わからないです」という百音。
【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第34回掲載中)
生き物はたくましい
激しい台風が過ぎ去った朝はすっかりいい天気で、雌鳥が卵を生んでいた。生き物ってたくましい。蓮の花を撮影できた田中(塚本晋也)は仙台の病院に入院することに決めた。元妻と娘と孫は店に来なかったが、孫の写真が送られて来て、それを見てもう少し生きたいという気持ちになっていた。菅波(坂口健太郎)の言う「迷うための時間」を持つことにしたのである。おじさんの瞳に光が入ってキラキラして、まるで別人である。
迷うための時間――リードタイム――はじまりから終わりまでの時間は、ゆりかごから墓場までの時間でもあるかもしれない。生き物はいずれ死ぬのだから、それまでの時間を有効に使ったほうがいい。苦しむのはいやだけれど、与えられた時間をみすみす捨ててしまうことはない。残された時間を楽しい時間や、より良く生きる時間にすることが人間にはできるのだ。
ボーカル入りの劇伴は百の音の象徴か
田中さんが生きる希望を見つけたときにかかる劇伴には女性の声が入っている。『おかえりモネ』ではよくボーカル入りの劇伴がかかる。それは時に自然の声のようにも感じるし、ドラマの登場人物だけでない、生きとし生けるものの声なのかもしれないとも感じる。また、宮城県気仙沼市の内湾地区では2020年から、新たな商業施設エリアの完成記念と、厄災厄除けの願いを込めて、約4000個の風鈴を飾る催し「百々音(ももね)まつり」をはじめている。偶然なのか、百音と似た名前である。
第34回では田中が撮影した蓮を「登米のモネの睡蓮」と言う。百音の睡蓮と蓮は違うものと百音は言うが、蓮といえばモネ、宮城の名物・蓮の花にかけたということだろうか。仕掛けが細かいというか、モネの睡蓮はさすがにこじつけっぽいぞ。
さて、気象予報士の試験の結果は?
田中のことを電話で亜哉子(鈴木京香)に報告する百音。その流れで、未知(蒔田彩珠)が大学に進学しないで水産試験場で働きたいと考えていることにぶつくさ言う耕治(内野聖陽)。百音が未知をかばうと、耕治も本当は未知の気持ちをわかっている。でもついついなんか言いたくなってしまうのは父の想いなのである。龍己(藤竜也)がサヤカ(夏木マリ)と電話を代わって植樹祭ができなかったことを労う。
サヤカ「次の世代はもう育ってっから」
龍己「そうですね。
ふたりの会話の間には、百音と未知の表情が映る。サヤカの苗木も育っているし、若い芽は順番に生まれ育っていく。
百音は未知と比べて、やりたいことがまだ定まっていないと相変わらず思っている。森林組合の仕事も天気予報士の試験勉強もしながら、車の免許も取ったにしては、自己肯定感が低すぎる感じではあるが。今また、気象予報士に関してどうするべきか悩んでしまったので、そんな自分が頼りないと考えているのであろう。百音のこんな生真面目さが素敵である。


野坂碧(森田望智)にウェザーエキスパートではラグビーの天候解析をやっていると聞いて、気象予報の仕事の可能性を、またひとつ知る百音。
朝岡(西島秀俊)は、気象予報士に向いている人に敏感だと言う野坂。ふだんは頼りなさそうな内田(清水尋也)も朝岡が才能を感じたひとりだった。「次は永浦さんかも」と野坂に言われた、その日、試験の結果が送られて来た。だが結果は……。
「いいのよ、あなたには迷うための時間がまだたっぷりあるんだから」とナレーション(竹下景子)。
余談だが、野坂が妙に色っぽく、天気の話が耳に入らない。どこかで見た顔と思ったら、Netflix配信ドラマ『全裸監督』『全裸監督2』で伝説の女優・黒木香を演じている人だった。朝から濃厚な色気が漂ってくる。
(木俣冬)
番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami