LUNA SEA特集 #4|真矢 熱く人間的なドラミングで魅せる一方、静寂の存在を浮き彫りにする名手

結成30周年! LUNA SEA特集 #4|真矢

歌心が手に取るように伝わってくる、熱くて人間的なドラミング。LUNA SEAのドラマー真矢のプレイに感じる個性をキャッチフレーズ的に表すなら、そんな言葉選びになる。ステージではJ(Ba)と共にリズムとグルーヴの鍵を握り、RYUICHI(Vo)の真後ろでその歌唱を支える、LUNA SEAサウンドの土台となる人物だ。


軽妙でユーモア満載のトークと朗らかな人柄も愛されており、ライヴのMCではオチを担当。真矢のいるところに笑いあり。音楽家としての活動に留まらず、バラエティー番組などで活躍する姿はファンだけでなく世の多くの人々が知るところである。


2020年にスタートした結成30周年記念ツアー『LUNA SEA 30th Anniversary Tour 2020 -CROSS THE UNIVERSE-』は、新型コロナウイルス感染症の影響で延期・再延期の末に2021年6月、待望の再開。ベテランバンドとして落ち着くどころか依然として刺激を求め、むしろ加速し続けている。

その魅力の源を改めて考える中で浮かび上がってきたのが、一見ムードメーカー的に見える真矢の果たす、とある大きな役割だった。それは、真矢こそLUNA SEAにおける神秘性の担い手なのではないか? ということ。以下、史実を踏まえながら考えを巡らせていく。


能楽師を親に持ち、能はもちろん、和太鼓など日本の伝統芸能に幼い頃から触れてきた真矢。ロックドラマーを目指していたというより、とにかく太鼓を叩くこと自体が好き。そんな真矢が高校時代に同級生だったSUGIZO(Gt,Vln)と出会いバンド活動を共にすることとなり、後にJとINORAN(Gt)が在籍していたLUNACYと合流。RYUICHIが最後に加わって1989年、現在のLUNA SEAが誕生する。


1996年12月、活動休止に突入する直前に横浜スタジアムで開催されたライヴ『真冬の野外』において、360°回転ドラムによるアクロバティックなパフォーマンスで度肝を抜いたのが象徴的だが、真矢は“魅せるドラマー”として観客を楽しませ、存在感を示してきた。コロナ禍の今は実施が難しいものの、スティックを振り下ろしては止め、耳に手を当ててファンの「真矢!」コールを繰り返し求めるドラムソロは恒例で、会場中が笑顔になる大切な時間だった。


レコーディングもライヴも、長時間掛けて何度も繰り返すよりは、短時間で深く集中し力と魂を注ぎ込むタイプ、という印象。2019年末のさいたまスーパーアリーナ公演ではPearlの最新型電子ドラムe/MERGEを導入し、世界初披露した。真矢がこだわる音の分離が素晴らしい上にまとまりも良く、これほどまでにエレクトリックドラムというのは進化しているのかと驚愕。同時に、新しいことに果敢に挑戦し、メーカーや技術者と共にテクノロジーを進化させていこうとする真矢の心意気にも感動した。


LUNA SEAの楽曲は近年一層ジャンルレスで多彩になっており、必然的にそのイメージを表現するために求められるドラムの音色、表情も多様化。瞬時に音の切り替えが可能な電子ドラムを取り入れることは、レコーディングで構築したサウンドをライヴで再現する上でも、ある意味必然であった。

LUNA SEA特集 #4|真矢 熱く人間的なドラミングで魅せる一方、静寂の存在を浮き彫りにする名手

禅にも通じる無我の境地に誘うパフォーマンス

97年のLUNA SEA活動休止期、初のソロアルバム『No Sticks』で真矢は驚くべき美声を響かせている。ドラマーとしてのソロ作品をつくるのではなくヴォーカリストに徹した理由を、「ドラムはLUNA SEAのためにとっておきたかった」と後に真矢は述懐した。

LUNA SEAへの愛と忠誠心の証であると同時に、この作品が知らしめたのは、真矢のドラミングからメロディーが聴こえてくるように感じるのは錯覚ではなかった、ということ。音を奏でる時、手法はどうあれ、真矢はいつも心で情感豊かに歌っているのだろう。無機質な音符の羅列ではなく、想いを乗せた言葉を大切な人に届けようと書き綴るラブレターのように。



LUNA SEAの最新オリジナル・アルバム『CROSS』(2020年12月)について、“交わる”という意味を込めてタイトルを提案したのは真矢。30年という長い歴史の中で出会い、関わった人と人との縁に想いを重ねたという。過去から現在に至るまでのそういった様々なエピソードが、だからこそ真矢のドラムはハートフルであり、聴き手の心を揺さぶるのだ、という結論を導き出していく。


エモーションの炸裂が熱を生み、オーディエンスの心を震わせる伝播現象とは別に、真矢のドラミングがもたらす特徴的な現象がある。それは、LUNA SEAのライヴに固有な完全なる静寂、真空状態の出現である。大きな身振りでスティックを高いところから振り下ろし音を鳴らした次の瞬間、ピタリと身体の動きが止まり、残響を完璧に制御。その気迫には、刀を振り下ろす武士を思わせる、息を呑むような凄みがある。

具体的には、例えば「DESIRE」のような激しい曲調の合間にふと差し込まれる、1秒にも満たない一瞬の無音状態を指す。メンバー各自が完璧なミュート(※音を鳴らさないようにする)技術を持つ、というのは前提として、真矢の呼吸に引き込まれるようにして全員の呼吸がシンクロする様には、神懸かったものを感じる。

曲のラストに全員で掻き鳴らした後、音を揃えて止める、といった場面でも、真矢の「ハッ!」という声にならない声、息が無言の合図となっている。あの絶妙な間合いを譜面化することは難しく、まさに阿吽の呼吸と呼ぶしかない。


また真矢は、打ち鳴らした音とその後に広がる無音の時間を1セットで味わわせるような、静寂の存在をくっきりと浮き彫りにする名手でもある。
まるで日本庭園で鹿おどしが石を打つ響きを味わうような、禅にも通じる無我の境地に誘っていく。

いずれも、呼吸と間(ま)に対する鋭敏な感性と本能がなくては成し得ない技。真矢のトークのテンポ感が心地いいこと、場の空気、相手の表情の変化を敏感に察知して人を決して傷付けることなく笑わせる才能も、ドラマーとしての呼吸感と無関係ではないだろう。

これは真矢がよく語ることだが、能楽師が、間違えた時にその場で切腹するため短刀を携えて舞台に上ったのと同じような覚悟を持ち、一打入魂の心構えでステージに立っていなければ、あれほどの緊張感とスリルは生まれないはずだ。命懸けのパフォーマンスが生んだ静寂は、轟音に負けないぐらいの強さでオーディエンスを揺さぶり、ブラックホールのような吸引力で奥深くへと誘っていく。ライヴではありありと体感できるのに言語化が難しく、逆らい難いそのパワーこそ、LUNA SEAに特有の“不可侵な神聖さ”、神秘の源ではないだろうか? 

2020年に味わった苦しみ

能楽や祭囃子に親しんできたことから、音楽とは神へ奉納するもの、という意識も真矢の根底にあるという。2019年の日本武道館での記念公演『LUNA SEA 30th anniversary LIVE -Story of the ten thousand days-』では、ドラムソロに四人の囃子方を招く異色のコラボレーションに挑戦。世界中を見渡しても真矢にしか実現しえない、自身のルーツである和の伝統とロックが真に融合した音楽世界を立ち上げた。


ただ場を盛り上げるため、人々を騒がせるためにドラムを打ち鳴らすのではなく、もちろん自分自身のためでもなく、“捧げる”という無私の感覚。その意識には今、30年以上にわたり応援し続けてくれているファンへの想いが加わって、更なる高みへと昇華されている。

2020年末には、ライヴ当日に新型コロナウイルス感染が発覚する、という苦しみを体験した。2021年3月の振替公演では、献身的に治療に取り組んでくれた医療従事者の人々、そして温かい励ましの言葉を贈ってくれたファンへ感謝の想いを語り、「恩返しをしたい」と誓い、涙を見せた。これから先の真矢が鳴らす音には、どんな想いが宿っていくのだろうか? 無音の静寂にも耳を澄まし、感じ取っていきたい。

(大前多恵)


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●LUNA SEA特集


【#1】RYUICHI 歌に身を捧げることを無上の喜びとする求道者
【#2】SUGIZO 弱者のために声を上げ続け、音楽を捧げる、稀代のロックスター
【#3】INORAN “風”のように“凝り固まる”こととは程遠い可変性が魅力
【#4】真矢 熱く人間的なドラミングで魅せる一方、静寂の存在を浮き彫りにする名手

【#5】J 炎の如く情熱を燃やし続けるロッカー、絶対的存在感の雄々しきベーシスト

※次回LUNA SEA特集を更新しましたら、Twitterでお知らせします

ライヴ情報

【LUNA SEA 30th Anniversary Tour 20202021 -CROSS THE UNIVERSE-】

■南相馬市民文化会館ゆめはっと大ホール
2021年7月31日(土)※2020年3月14日(土)より再延期・振替
2021年8月1日(日)※2020年3月15日(日)より再延期・振替
問い合わせ:ニュース・プロモーション(TEL.022-266-7555)

■宇都宮市文化会館大ホール
2021年9月1日(水)※2020年2月27日(木)より再延期・振替
2021年9月2日(木)※2020年2月28日(金)より再延期・振替
問い合わせ:クリエイティブマンプロダクション(TEL.03-3499-6669)

■仙台サンプラザホール
2021年10月2日(土)※2020年4月25日(土)より再延期・振替
2021年10月3日(日)※2020年4月26日(日)より再延期・振替
問い合わせ:キョードー東北(TEL.022-217-7788)

■上野学園ホール(広島県立文化芸術ホール)
2021年10月23日(土)※2020年3月28日(土)より再延期・振替
2021年10月24日(日)※2020年3月29日(日)より再延期・振替
問い合わせ:HIGHERSELF(TEL.082-545-0082)

■大阪国際会議場メインホール
2021年11月29日(月)※2020年4月4日(土)より再延期・振替
2021年11月30日(火)※2020年4月5日(日)より再延期・振替
問い合わせ:キョードーインフォメーション(TEL.0570-200-888)

■本多の森ホール(旧石川厚生年金会館)
2021年12月4日(土)※2020年3月7日(土)より再延期・振替
2021年12月5日(日)※2020年3月8日(日)より再延期・振替
問い合わせ:FOB金沢(TEL.076-232-2424)

■神戸国際会館こくさいホール
2021年12月20日(月)※2020年5月2日(土)より再延期・振替
2021年12月21日(火)※2020年5月3日(日)より再延期・振替
問い合わせ:キョードーインフォメーション(TEL.0570-200-888)

関連リンク

■LUNA SEA オフィシャルサイト
■真矢 オフィシャルサイト


Writer

大前多恵


ライター・編集者/NHKディレクターを経てロッキング・オン入社、2006年独立後はフリーランスに。音楽家や俳優など、表現者へのインタビュー取材を中心に活動中。ライブレポート、作品レビュー、書籍編集、語り起こし本の執筆、物語の創作なども。

関連サイト
トロイメライの庭
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